桜花のかんざし
冬の童話祭2016の参加作品です。童話祭は初参加です。
今までと同じように、あまりうまくありませんが、最後までお付き合いお願いします。
それでは、どうぞ↓
昔々、あるところに優しい夫婦がいました。その夫婦はどんな人にも優しく接していたので、村のみんなから好かれていました。その夫婦のおかげで、村の皆は助け合い、平和に暮らしていました。
そんな夫婦に、娘が出来ました。桃色に染まったほほ、桜のように美しく、かわいらしい姿。そして、なにより夫婦に似た優しい笑顔。その様子から庭にある大きな桜のような面影が感じられたので、夫婦は娘を桜花(おうか)と名付けました。
村の人々は、桜花を祝いました。
「大変めでたいですなぁ。」
「奥様に似て、かわいらしいですね。」
「旦那様にも似ているわ。とっても優しそうね!」
「おめでとうございます!」
「お幸せに。」
夫婦は桜花を大切そうに抱きかかえて、「ありがとう、ありがとう」と皆に言いました。
やがて、桜花は五歳になりました。三人で街へ出かけたときのことです。
「お母様。」
「なあに、桜花。」
「あれはなんですか?」
「ああ、あれかい?あれはかんざしというんだよ。頭につける飾りだよ。」
「そうなんですか。」
「…ほしいのかい?」
「いいえ。私にはお母様とお父様が居れば幸せです!」
桜花は夫婦ににっこり笑って見せました。
夫婦は六歳の誕生祝いに桜花に何をあげようかと、迷っていました。
ふと、夫婦は桜花がかんざしをうらやましそうに見ていたことを思い出しました。あのときは「いらない」と言っていたものの、街で色とりどりのかんざしを見かけると桜花は目を輝かせていました。
そこで、夫婦は桜花にきれいな桜色のかんざしをあげました。
「桜花、ちょっと来てくれるかい?」
「はい、なんでしょうか。」
「桜花。これをあげるよ。」
「本当ですか!」
「あぁ。つけてみてごらん。」
桜花は母にかんざしをつけてもらいました。
「まぁ!とてもよく似合っているわ。」
「ありがとうございます!」
桜花はとても喜びました。夫婦からもらったか桜色のんざしは、桜花の一生の宝物となりました。
桜花はすくすく育ち、とても美しい女性となりました。桜花は十八歳になり、たくさんの男性が婚約を求めて桜花の家を訪れるようになりました。
「桜花さんを私に!」
「わたくしが桜花さんをお守りします。」
「桜花さん、ではないだろう?桜花様だ。そんなこともわからぬのか。」
「お金ならいくらでも用意しますから!」
夫婦は、こんなことになるとは思っていませんでした。心の中では桜花の美しさが認められたと感じ、とても喜ばしいことでした。しかし、桜花の好きなようにさせてあげたいという思いが一番でした。
「桜花。」
「はい。お母様、なんでしょう?」
「桜花は…あの中の者と結婚したいと思うかい?」
「…なぜですか?」
「私たちは桜花が選んだことを応援したいのだよ。」
「私は…嫌です。自分が好きな人とお付き合いをしたいです。」
「うん。正直でよろしい。」
夫婦は、桜花に笑いかけ、ぎゅっと抱きしめました。桜花の気持ちをしっかり理解した夫婦は、彼らを追い返しました。
「桜花は、私たちの娘です。桜花が選んだ者しか通しませぬ。」
「わかったなら、さっさと帰ってくださいまし。」
夫婦が守ってくれたものの、街には桜花の美しさに関係するうわさがたくさん流れていました。それを聞いた男性が懲りずにたびたび訪れ続けていました。やがて桜花は、男性が怖くて、外へ出られなくなってしまいました。
桜花が二十歳になったころのことです。桜花は庭の桜を悲しそうな目で見るようになりました。
「桜花、どうしたんだい?」
「いえ、なんでもないです。」
「そう。何かあったら言うのよ?必ず守るからね。」
「はい。ありがとうございます。」
夫婦は大変心配しましたが、桜花は何も言いませんでした。
それからしばらくたったある日の夜のことです。
「火事だ―!」
「早く火を消せ!」
桜花の家が火事になりました。夫婦は家の中でまださまよっています。
「助けてくれ…」
「どうしましょう…」
夫婦は逃げようにも、火に囲まれていて逃げられません。ガラガラと家が崩れてきました。
「きゃあ!」
夫婦は、もうおしまいだと目をつむり、ぎゅっと抱き合いました。しかし、痛みを感じません。
「…助かったのか?」
そぉっと目を開けると、周りにわれた板などが落ちていました。
「そうみたいですねぇ…早く逃げないと、次はありませんね。」
「しかし、逃げ道がわからん。私たちは一体どうしたらいいんだ。」
すると、夫婦の前にふわりと一つの光が現れました。
「なんだこれは!?」
夫婦は大変驚きました。その光は夫婦の頭の中に、優しく言いました。
『私についてきてください。』
「なんだかわからんが…」
「行きましょう、あなた。」
「よし。一か八か。神様にかけてみよう。」
夫婦はその光を追って走りました。必死に逃げました。不思議なことに、その光が通った道は安全でした。夫婦はほとんど無傷で脱出しました。
「奥様!」
「ご無事でよかったです…」
「大変でしたね。」
村のみんなは、夫婦が無事だったことをとても喜びました。夫婦も奇跡だと思いました。
喜びに浸っていました。しかし、誰かが、ふと言いました。
「…旦那様、桜花さんは?」
夫婦は大変なことに気がつきました。桜花が居ないのです。
「なんだって!?」
「桜花は逃げてきていないのですか?」
村の人々も騒ぎ出します。
「桜花様は?」
「桜花さん、どこですか!」
「なんてことだ…桜花さんはあの炎の中にいるというのか。」
夫婦は自分たちだけが助かったことを悲しみました。自分たちが脱出することに夢中で、桜花を助けられなかったことを後悔し、自分たちを強く責めました。
その夜、夫婦は空き家で過ごすことになりました。夫婦はそこで、一晩中泣きました。子供のようにわんわん泣きました。
「桜花…」
「私たちはなんてことをしてしまったんでしょう。たった一人の大切な娘を…うぅっ…」
「神様、申し訳ありません。大切な命を私らのせいで消してしまいました。どうか罪を…」
過ぎてしまったことは仕方がない、とはわかっているものの、涙は止まりません。悔やんでも悔やみきれず、償いもできないようなことになってしまったことを大変悲しみました。
すると、また火事のときの光がふわりと現れました。そして、夫婦の頭の中に言いました。
『お父様、お母様。』
やわらかい、あたたかい声が頭の中にすぅっと入ってきました。
「桜花…なのかい?」
あの時はわかりませんでしたが、あの時より落ち着いている今ははっきりとわかりました。
『すみませぬ。私は今日、消えなければいけなかったのです。』
「どういうことだい!?桜花は消える必要なんてないじゃないか…」
『私は桜の神の使いなのです。二十歳に星へ戻らなければいけない約束だったのです。』
「そんな…桜花とはもう会えないのかい?」
『はい。』
「桜花!!」
『だから!』
桜花は父の叫びをさえぎるように言いました。そして、落ち着いた声でもう一度言いました。
『だから、私の願いを二つだけ聞いていただきたいのです。』
「…なんだい?」
「なんでもやってあげるよ。さぁ、いいなさい。」
夫婦は落ち着きを取り戻しました。
『一つ目は、あの大きな桜の木を守っていただきたいのです。大切に、毎年きれいな桜の花が咲くように、世話をしていただきたいのです。』
「ああ、わかったよ。」
『二つ目は…』
桜花は少し黙ってしまいました。夫婦はどうしたのだろう、と思いましたが、黙って聞いてあげることにしました。
しばらくして、桜花は震えた声で言いました。
『二つ目は…私をっ…忘れないで…いただきたい…のですっ…』
「忘れるわけないよ。」
「そうだ。桜花が何であろうと、私たちの娘だということは変わりないんだ。」
「そうですよ。」
『ありがとう…ございます…』
桜花が泣いていることは、声でわかりました。夫婦の目もうるんでいましたが、ぐっと涙をこらえて、微笑みました。
次の日、夫婦は焼けた家に戻りました。ほぼ全焼でした。しかし、あの大きな桜の木は無事でした。夫婦は、桜花が守ってくれたのだと思いました。そして、近づき、桜の木の下から花を見上げました。すると、
「おい!」
「どうしたのですか?」
「あれは…」
「あらま。」
たくさんの桜の花の中には、桜花が大切にしていた桜色のかんざしがありました。
最後までありがとうございました。
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