表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

08.王都

ニィは警戒心を露わにするヘビーにも声をかけて、メドューを抱きかかえて外に出た。リィナは部屋に残る。

そして、抱えられて見た外の光景に、メドューは唖然とした。


建物は全て崩れ落ちている。まるで大きな風が全てをなぎ倒したかのようだ。それでいて、地面は不自然に隆起して割れていた。

あり得ない光景だった。


メドューの目の奥、何かがチカっと煌めき、目の奥が真っ赤に染まるような感覚が起こった。

急に小刻みに体が震えだす。

気づいたニィが、何かから遠ざけるようにメドューを抱え込んだ。

「大丈夫、絶対、俺が守る、大丈夫だ」

耳元で小さく、けれどどこか切羽詰まったように告げてくる。


「まさ、か、王が、暴走したと、いうのか? あの王が?」

「・・・・・・」

ニィは黙ったまま、メドューをギュっと抱きしめた。返事をしないままに倉庫の前に立ち、あっさり開錠して扉を開ける。

ニィはヘビーも呼んで、倉庫に入った。そして、扉を閉じた。施錠したと、分かった。


ニィが安心したように倉庫を見回す。

「全部残ってる」

「…あぁ…」

外の光景のショックを引きずって茫然としたままメドューは言った。

「荒らされなくて、本当に良かった」

ニィは丁寧にメドューを床に降ろした。


「ごめんな。コハツの弱点になるから、触ると火傷させるって説明をリィナにもしていなかったんだ」

ニィは手早く棚から薬の小瓶と布きれを取り出した。布切れに薬を垂らして、メドューの頰にそれを添える。

冷たくて気持ちいい。メドューは目を細めた。

「大丈夫だ。これぐらい何の問題も無い」

ニィは目を細めてメドューの表情を少し見つめてから、

「無事で、良かった…心配、してた…」

と、まるで子どものように声を少し震わせて言った。

ニィがよほど心配していたのだと、メドューにも分かった。


「ニィ。私はどうやら冬眠してしまっていた。今起きたところで、事情がよく分からない。一体何があった?」

シャーっと、ヘビーも同意する声を上げる。ヘビーはその上で、『あいつらは誰だ』と尋ねた。

あいつら? リィナの事だろう。だが、他にも居るのか。


「冬眠…まさか、8年間?」

「そのようだ」

「…全く迎えに来ないから…何かあったのかと…」

ニィが泣きそうな顔をして深くため息をついた。


「コハツの身体が幼いのは、弱ったからか?」

「あぁ、回復のためにこうなった。ミノタにやられたのが、随分応えていたらしい」

本当は、ニィを背負った事による熱が、身体の中心まで焼いたためだったが。

「食べたら少しは回復するね? さぁ、好きなだけ食べて」

ニィが頬にあてた布きれを外して、メドューに食料の棚を指し示す。


メドューとヘビーは倉庫内の食料を欲しいだけ食べた。

だが、幼返りしてしまった体では、食べ物の吸収率も落ちているらしい。以前ほど食べられなかった。

「見た感じ、10歳頃かな・・・? なんだか、懐かしい姿をしている」

ニィは目を細める。過去、メドューの魔物としての力のつけ方に合わせて、外見も急激に成長していたので、10歳の姿はかなり昔の姿だった。

「ニィは、そうだな、30ぐらいに老けたのか?」

「30って、オイ! 8年ぶりだろう、21歳だ。苦労したんだよ」

ニィはいつも、実年齢より上に見える。精神年齢が高いからか。

ニィは年齢のところでちょっと呻いたが、メドューたちの食事の様子を見つめながら、ニィの状況を説明しだした。


まず、ニィは魔界で暮らすためのアイテムを幾つも持っていた。

それが全てミノタの炎でダメになった。転移用の道具もだ。だから、ニィだけでは、直接メドューたちの家に戻る事ができない。

だがそのうちメドューがまた訪れるはずだから相談すれば良いし、動けるようになったらメドューと共に帰れば良いのだと考えていた。


だが、メドューの訪れが全くない。おかしいほどに無い。

それで心配でならなかったという。


一刻も早く戻りたいが、ニィだけで魔界に戻るのは相当難易度が高い。

なぜなら、ただの人間が、魔物の世界、かつその都に行くなど自殺行為だからだ。そもそも魔界にたどり着く前に、人間界で魔物に襲われて死ぬ可能性が最も高い。


しかし、メドューの訪れが無い以上、それしかルートが無い。

このため、完治に向けてリィナの精製した薬を大量投入した。けれど、まず完治まで3年かかった。

同時に、ニィが魔界で暮らしていけるアイテムを再び手に入れないといけない。メドューのためにも人間の熱を伝えない衣服が必須だし、他の魔物対策のアイテムも必要だ。


このため、リィナにも『戻るためには特別な衣服やアイテムが必要』部分を強調して、リィナの調合する薬やメドューが置いて行った涙や涎を売って金を作り、アイテムを揃えていった。


それから、人間界のどこに、魔界へ転移できる場所があるかも調べないといけない。


「・・・ただ、何よりも」

説明をしていたニィが、少し目を伏せ、少し迷うように瞳を揺らした。

「すぐ戻るわけに、行かなくなったんだ。だから、8年も、かかってしまった」


メドューは眉根を寄せた。

「・・・何があったんだ、ニィ」


ニィは、静かな眼差しで、メドューの傍で目の高さを揃えて、メドューを見た。

「・・・昔、勇者が生まれたという話をした事を、覚えているかい」


勇者。危険。

思い出された言葉に、メドューは瞬きをして頷いた。


ニィは、メドューをそっと包み込んできた。

「・・・リィナは、魔物に高い攻撃力を持つ、珍しい属性を持つ治療師だった。あの山小屋にいたのは、治療技術を磨くためだ」

ニィは柔らかくメドューを抱きしめたまま、説明を続ける。

「コハツが材料をたくさん残したから、彼女が腕を磨くことができた。それに、あまった薬を、俺のアイテムや生活のために売ったんだけど、効能がありすぎたんだ。『聖女』だって評判がたった。リィナはそもそも教会の人間だったから、余計に」

聖女? メドューはゾゾっと身を震わせた。

聖女は知っている。魔物の攻撃を無効化し、消滅させる事のできる強敵。


「その噂を聞いて、勇者…小さな子どもだった。勇者が、リィナを訪れた。魔王を倒すためにと、リィナを仲間に引き込んだ」

勇者、とな。先ほどから、ニィの言葉の中に、心地の悪すぎる単語が頻出するのだが。

「俺も、仲間として加わった。魔術が使えたからね。コハツを守る技術が役に立った」

「は・・・?」

メドューは耳を疑った。


「勇者は、危険だ。コハツを殺してしまう。力だけはハッキリしている。コハツを、守るにはどうすれば良いか考えたんだ。答えは出た。…いいか、コハツ。勇者の仲間になるんだ」

「・・・は?」

食料補給で、やっと元気に動き出した頭髪の蛇たちも、口々に『は?』『何いってんの?』と声を上げる。激しく同感だ。


「コハツ。可愛い妹。よく聞いて」

ニィは、メドューを諭すように言った。

「コハツは、勇者の仲間にならないと、殺される。だから、勇者の仲間に、なりなさい」

「馬鹿な」

メドューは口元を震わせた。

「王がいる、勇者などに、負けるはずが無い。私の、王が、勇者など、足元にも寄せない」


シャーっと、ヘビーが威嚇している。


「コハツ。俺たちを焼いた、あのミノタウロスは、雑魚だったよ」

「・・・は?」

それは、ミノタの事か? 絶対殺すと誓い続けた、ミノタの事か?


「対峙して、一瞬だった。勇者の、たった一振りで、死んだ」

「嘘だ」


「嘘じゃない。今、この町に住んでいた者は、城を除いて、ここには、コハツ以外、もう生きていない」

「嘘だ、嘘だ、嘘だ」

「本当だ」


ニィは、メドューを抱きしめたまま、懇願した。

「コハツ。俺の可愛い妹。お願いだ。勇者の仲間になって、共に、魔王を、倒しに行くんだ」


メドューは、目を見開いたまま、震えていた。


王。王。


メドューの目から、ボロっと涙がこぼれた。幼くなっている分、感情が表に出やすい。

人間にとって猛毒になるその雫が、ボトっとニィの肩に落ちた。

毒だと思い出してハっとしたが、ニィの着込むローブは、白い煙をほんの少しだけ立ち上らせて、メドューの涙を一瞬で消した。


その様子に、メドューは悟ってしまった。

メドューなど、ニィの、勇者たちの前には、何の脅威にもならないだろう。例え幼返りをしていなかったとしても。ヘビーと共に戦ったとしても。


メドューに勝ち逃げしたミノタを、一瞬で葬り去ったなどと。


悔しい、悔しい、悔しい。

勝てなかった自分が、悔しくてならない。


ボロボロと涙がこぼれる。その度にジュっと涙は消えていく。


悔しい、悔しい、悔しいよぅ。


「コハツ、お願いだ、にィちゃんの願いを、どうか聞いておくれ」




王、オゥ、オゥ 私の、王よ


なぜ勇者なんかを、この地に入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ