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リィナが薬の精製に成功した。頬を染めて目を潤ませていたところを見ると、精製の難しい薬なのだろう。

その分、効果が抜群だそうだ。

リィナは真剣な表情で、ニィの身体中に薬を塗ってくれた。


一方、ニィの身体にメドューが触れようとしないのに気づいたリィナは、メドューの状態も相当酷い事に気が付いて息を飲むほど驚いていた。

触ってこようとするので、触れないように身を引く。

一応試しにニィと同じ薬を貰ったが、塗ったら余計に酷くなった。薬に触った右手の人差し指と、塗ってみた左手の感覚が無くなった。しばらく使い物にならない。

人間の薬は合わないようである。


「特異体質だから」

と苦しい言い訳を口にする。

リィナはオロオロとして詫びていた。


メドューは、なぜリィナがこれほどまでにメドューが魔物だとバレないのか不思議で仕方なかった。

メドューが兄と断言するニィが人間だからだろうか?

鈍感すぎないか。ひょっとして気づいているのか?


だが、そのうち、メドューが勝手に移動させた家具によくぶち当たるリィナに気づいて、判明した。

リィナは、極端に視力が悪いらしい。

だから、メドューの事だって、魔物だと分からない…のだろうか。


とはいえ、魔物は人間も食らう。リィナを食う気は一切ないが、人間の生存本能はどこへいったのだろう、と、メドューは他人ごとながら心配になった。他の魔物に食われなきゃいいんだが。

こんな鈍感な人間が、どうしてこんな山小屋で一人で修業なんてしているのだ。危険じゃないのか。

だが、そんなことはどうでも良い事だ、と思い直す。

ニィさえ、助けてくれれば、それで良い。


***


ニィの容体は少しずつ良くなってきている。

時折意識が戻ってきて、リィナやメドューと少しだけ言葉を交わすことができるようになってきた。

すっかり元に戻るには長い時間がかかりそうだ。

メドューは薬に触れる事すら出来ないので、リィナだけが頼りである。


十数日が経っていた。

月の灯りの無い夜に、あぁ、ヘビーの脱皮の日だ、とメドューは思った。


ヘビーも心配しているだろう。脱皮の前に帰ってきてと言っていたのに。


「ニィ」

部屋に戻りベッドで眠るニィに呼びかけると、ふっとニィが目を開けた。

「ニィ、ヘビーも心配しているはずだ。私は帰宅する」

「・・・」

「早く良くなって、戻ってきてくれ」

ニィは目を柔らかく細めた。笑っているのだろう。

かすれた音は聞き取りずらかったが、気を付けて、とニィが言ったのが分かった。


リィナにニィを任せて、メドューは魔界に戻る事にした。

看病代や諸々の費用に充ててくれ、と、たくさんの涙と涎を残してきた。


こんなに大量の涎と涙があるのを訝しみはしないかと、ちょっと警戒したものの、リィナはやっぱりリィナだった。

薬の材料がこんなにある!と感激するだけで、メドューが蛇女だと全く気付く様子が無かった。


大丈夫か。この人間。良いんだけど。


***


それから。

メドューは人間界の転移場を一生懸命探して、なんとか魔界に戻る事に成功した。

新月の日からさらに7日かかってしまった。


家では、ヘビーが大きな抜け殻と共に、プンプン怒って待っていた。

脱皮前に帰ってきてほしかったのに、脱皮した皮の水分が飛んでしまってからしかメドューが戻らなかったからである。

いくら大蛇のヘビーとはいえ、脱皮直後は一気に防御力と攻撃力が下がる。そんな脆い時期に傍にいてやれなくて申し訳ない、とメドューは謝った。


ヘビーは、シャーっと怒り、『抜け殻だってもうパリッパリだよ!』と言った。


確かに、もう新鮮さが失われて使えない。いつもヘビーの抜け殻をパックにしたり特別なご飯にしていたのに。

メドューもションボリしてしまった。


それでも、ヘビーはニィとメドューの様子を心底気にかけてくれたのは違いなかった。

ニィが生きている事、回復に向かっていると聞いてヘビーの機嫌は回復した。


早く帰ってきてほしいね、と、メドューとヘビーで、家で待つ。


***


困ったことが発生していた。


メドューの倉庫、ニィがいないと開かないと分かったのだ。

ニィが仕入れてくれたあれやこれやの食料も、王から賜ったりした飲料も、その他気の利いた身の回りの品も。

全部、ニィがいなくては取り出せない。

「・・・くっ、ここまで完璧とはな!」

メドューとヘビーは、鉄壁の守りの倉庫の扉を拳で叩きつけて嘆いた。


ニィ。ニィよ。私たちも出入り自由にして欲しかった。


なお、もともとはこうでは無かった。メドューにも出入りできるように設定してくれていた。

けれど、メドューがニィの目を盗み、好きに倉庫の食料をあさるから、呆れたニィが、勝手に入れないようにとメドューさえ締め出してしまったのだ。


それがこんな悲劇を生むなどとは。過去の自分が恨めしい。

まぁ、締め出されなければ、倉庫は常に空っぽだったかもしれないが。


「・・・だめだ。腹が減った・・・」

このままでは動けなくなりそうだ。狩りに出なくては。


とはいえ、メドューも相当弱ったままだった。下手に動いて他の魔物に狙われたらマズイ。

髪の毛だってまだ生え揃わない。部屋にいれてあった食料は平らげたのに、損傷した分の栄養補給さえ終わっていない。


仕方ない。ヘビーに促されて、メドューはパサパサになったヘビーの抜け殻を食べる事にした。戻ってきたニィに見せてやりたかったのにな。

パサパサの抜け殻は、やはりあまり美味しくない。がっかりだ。

でも、何も食べないよりは良い。


少しでも体力をつけたら狩りに行こう。


ニィの様子も見に行きたいが、他の魔物にバレては危険だ。ニィたちの安全のため、足を運ぶのは慎重にしなくては。


…早く帰ってきてほしい。


***


月日が、流れた。

メドューとヘビーは、空腹のあまり、ついうっかり冬眠に入っていた。


ヘビーの抜け殻をモソモソと食べはじめたものの、疲労が溜まっていたメドューはそのまま眠りについてしまったのだ。

メドューの消耗っぷりを感じ取ったヘビーは、メドューを守るようにメドューを囲んでとぐろを巻き、呼吸を合わせて自分も一緒に眠りについた。


何度か大きく家が揺れたり、外で爆音が弾けたりした。

扉もガンガン誰かが叩いて喚いたりした。

けれど、扉は破られることは無かった。

倉庫と同じ、この家にはニィの防御策がこれでもかとつぎ込まれていたからだ。


守られた家で、メドューとヘビーの眠りを妨げる者は誰もいない。

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