表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

05.やけど

転移先は、その時の指定で毎回変わる。

ニィを治してくれるところ!

と、強く念じて移動した人間界は、どこかの暗い山の中だった。


とにかく、人間に会わなければ。ニィを人間に見せなければ。


どちらに行けば良いのか分からない。

やみくもに、山をニィを背負ってメドューは動いた。


背中のニィは重いし熱いし、背中はすっかり焼けてズキズキ痛む。


魔王の加護のお陰か、山に小雨が降りだした。

熱さは少し和らいだが、今度は道がぬかるんで動きづらくなった。


ついに、メドューは力尽きた。ニィを背負ったまま、山の中で倒れ込んだ。


***


「・・・か? 大丈夫、ですか、気を確かに・・・」

メドューは聞こえた声に意識を取り戻した。

なんだ。目の奥が焼けるような感覚がある。


目をうっすら開ける。暗い山の中、ランプを持った人間が傍にいた。

「火事にあわれたのですか、なんということ・・・」


人間。メドューは縋った。コハツの記憶や感情を頼りに、人間のように話す。

「ニィ、兄の様子が悪いのです、お願いです、治してください」

「えっ・・・それでわざわざこちらに?」

相手は動揺してランプを揺らしたが、素直にニィの具合を見てくれた。

「これは…」

「治りますよね!?」

「…私にできることは限られています、それでも良いのでしたら、手を尽くします…」

「お願いします!」


人間は、自分の名をリィナと言った。女であると匂いで分かった。この山で修行中の身の上だと話した。何の修行かはどうでも良い。

メドューとリィナは支え合ってニィをリィナの暮らす山小屋まで運んだ。

運んでから、メドューはハッとした。自分が魔物とばれるのは、マズイ。ニィを診てもらえなくなる!

山小屋の灯りのしたでバタバタ動き出したメドューを、リィナが不思議そうに声をかけた。

「どうされました?」


こ、こいつ、全く気付いてない!

ラッキーだが、生存本能的に大丈夫なのかコイツ。


もしかして、自分の蛇の髪がむしりとられているから、蛇女だと気づいてない?

いやそれにしても、人と違うだろう、色々。


とはいえ、リィナが気づいていないのだ、黙っているに限る。


***


リィナは手当の心得があるようだった。

そして、ニィは酷いやけどを負っているが、まだ生きているのも確認された。ニィが熱を遮断する衣服や手袋を身に着けていたのが救いだと。

リィナはニィの口に、金色の液体を垂らした。強い回復薬らしい。

ニィが生きてくれているだけで、メドューはホッとした。

思った以上に、メドューにとってニィの存在は大きいのだと気づく。


メドューはニィが深く眠るベッドに腰掛けて、動かないニィをじっと見つめた。

「ニィ、早く元気になってくれ、寂しいよ」

「ご兄妹で逃れてこられたのですね」

リィナが尋ねるので、メドューはコクリと頷いた。


リィナは、薬が足りない、とメドューに話した。

それは、金さえあれば、手に入れられる薬なのだろうか?

「あの、リィナ。例えば、蛇女の毒牙の毒とか、蛇女の涙とか…あるんだけどさ、リィナにあげるから、それで、薬、手に入れられないか?」

「まぁ! メドューサの涙があるんですか!」

リィナは予想以上に食いついた。

涙がそんなに高価な品だとは思わなかった。確かにメドューはあまり泣かない。だったら、道中のボロなきした分を、全部ビーカーに溜めれば良かった。


リィナは興奮して頬を染めていた。

「メドューサの涙があれば、手持ちの材料で効力の高い薬が精製できます! お兄さんに、使えますよ!」

「そうか!」

メドューは興奮してリィナの手をぎゅっと握った。

ジュっと音がした。メドューは手にやけどを負った。


人間に触れるのは、注意しなくてはならない。


***


零した涙は、受け止めると黒く鈍く輝く玉になる。それを用意してくれた皿に集めて、リィナに渡した。

リィナはさっそく別室に籠った。薬の精製に入ったのだ。


「ニィ、ニィ。今、薬を作ってもらっている。早く元に元気になってくれ」


また涙が出そうになるのを堪えた。

涙も劇薬のはずだ。ニィの上に零すわけにはいかない。


決してどこも触れないように注意しながら、メドューはニィの顔がよく見えるように、ベッドの傍にしゃがんでニィの顔を見つめる。

「ニィ、ニィ、コハツを置いていくな。ニィがいないと寂しくて潰れそうだ」


あまりうるさくしすぎたのか、ニィがふっと目を開けた。

「ニィ! 気が付いたか!」

ニィは目をうっすらと開けたがぼんやりしている。

「ここは、人間の、山の、リィナの山小屋だ、今、薬を精製してくれてる、だから、死ぬな」

ニィの手がピクリと動いたので思わず掴んでしまった。

ジュっとまた焼けた。

ニィは薄くだけれど、メドューを見て安心したように笑った。

ニィがまた眠りに落ちる。


手がブスブスと音を立てて、あまりに痛むので、メドューはやっとニィの手から自分の手を離した。


触れられれば、いいのに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ