13.誰も知らない
―――魔王討伐の一行は、見事魔王を討ち果たし、人間界は喜びに沸いた。人々は勇者一行をもてはやし、多くの褒美と栄誉を彼らに与えた。
けれど最も功績の高かった、勇者と魔術師と聖女がいつの間にか姿を消したという。
なおも人間界にはびこる魔物を討伐するために、一般人にまぎれて旅に出たのだ…と人々は噂した。
それから。長い長い月日が流れる。
今が流れて辿り着く先を、まだ、世界の誰も知らない。
***
魔物の住まなくなった都に、一人の少女が一匹の銅の太い短いヘビを抱きかかえて、現れる。
「あれ? この町、誰もいないなぁ、ヘビー」
シャーっと少女の抱えるヘビが鳴く。『そうだね、随分昔の廃墟だね』と。
でも、どうしてだろう、とても懐かしい気分がする。
偶然入り込んでしまったこの場所で、偶然辿り着いてしまったこの場所は。
少女とヘビで、誰もいない壊れた町を、不思議そうにして、探検する。
色んな場所を、見て回る。
「あ、見ろヘビー、あそこ、ねぐらに良さそうだ。それにあっち、崩れてないぞ」
シャーっとヘビも答える。
「なんだろう、見ろ、なんかここ、すごく良いものがたくさん入っている予感がするな」
少女はワクワクしてヘビをおろす。
「食べ物とかさ、飲み物とかさ、ちょっと気の利いたアイテムとかさ!」
シャーっとヘビが鳴く。『でもそこ、開くかなぁ』
「うーん、開かないかな」
少女が扉に手をつけると、扉に文様が浮かび上がる。
「!」
少女とヘビが期待に胸を躍らせる中で、扉は静かに開くのだ。
ダメだろうと思っていたので、少女はヘビを抱き上げて小躍りする。
何が入っているか、ワクワクとして、踏み入れる。
中で、いくつかの光がまるで蛍のように飛ぶだろう。
少女は感嘆の声をあげるだろう。
そこにあるのは、たくさんの、肉と、酒と、気の利いた小物。少女が好きなものばかり。
誰もいないその場所で。少女は声を聞くだろう。
遠い日の懐かしい愛しい声を聞くだろう。
〝おかえり、コハツ”
***
丁寧に保管された酒。こじゃれたグラス。
これでもか、と、倉庫に詰め込まれていた極上の肉。
それから、なぜだか、薬。
呼び戻されるのは、さまざまな記憶。
あまりの美味さと懐かしさに。己を取り戻すように、思い出す。
***
ニィはあれからどんな風に暮らしたのだろう。
リィナと仲良く生きたんだろう。
元気で過ごしてくれていたらそれが良い。
最後は、泣いて怒っていたなぁ。
けれど、私は当時の王も結構大好きだったのだ。
あんなに強くて美しい王はいなかった。
魔力が多少乏しくても都に住める御代など、他になかった。魔界の王都に人間を住まわせた時代など、他に知らない。
あの日の事を、白状しよう。
私が王に食われたのは、単純に忠誠心だけではなかった。
側近でもない私がそこまで尽くすわけないだろう。
ニィへのちょっとした腹いせが入っていた。恋人を作った兄など、もう知らん!と思ったのだ。
我が振る舞いながら愚かしくて笑えてくる。
それにしても、勇者。あいつさえ、いなければ。
私の王が何をした? 魔物に秩序を与えるのが王だというのに。
どうして人間はこれほど愚かしい。人間界の魔物が暴れようが魔王が関係するものか。
食い合う魔物同士ならともかく。人間などに王が負けるなど。腹立たしいにもほどがある。
なぁ、ヘビー。
肉、美味いな。
王の肉な。
王都と、城と、私たち、全てを喰らった王の肉な。
ニィがあれから、ちゃんと倉庫にいれておいてくれたんだな。
・・・ニィが、いないな。
食事、ちゃんと用意してくれてるのにな。
誰もいない。
ニィも。王も。・・・リィナだっていない。
寂しいよ。
・・・は。そりゃ強くなっても、泣きもするよ。
なぁ。




