11.王
※ご注意:残酷描写有
ニィとリィナと勇者たちは、去って行った。王のいる城に向かうのだろう。
勇者などはどうでも良いから、ニィだけは助かればいいのに。
ニィ。私とニィとヘビーでここで暮らせたのは、王が珍重してくれたからだったんだぞ。分かっていたか?
残されたメドューが、ぼんやりしていると、シャーっと、隣のヘビーが鳴いた。
メドューもゆっくり頷いた。
「そうだな、腹が減ったな、ヘビー」
頭髪たちも、『お腹減った』『元気でない』とピィピィ喚いている。
先ほどの勇者との対峙だけで、一気に体力を消耗していた。
あと、いきなり失恋してしまった。気落ちした。
食べる物食べて回復しよう。そうしよう。
だが、部屋を出て、ヘビーと共に倉庫に向かいながら、メドューは気づいた。
「・・・待て。ニィがいないから、また倉庫、開かないんじゃないのか?」
絶対そうだ。
ガーン。絶望で目の前が暗くなりそうだ。
シャーっと、ヘビーが鳴いた。
ヘビーが倉庫ではない方を見るように促している。
「ん?」
ヘビーが促した先。
崩れた都が広がっていた。
自分たち以外のものが動いている気配のない、壊された町。
***
人間は。魔物を食わない。
ただ、殺して、捨て置くのだ。
***
勇者が打ち滅ぼした魔王の都で。
幼い少女と大きな蛇だけが、動いている。
鋭い鉤爪を持つものも。巨大な尾を持つ歪んだものも。硬い甲羅を持つものも。
角が折れている牛頭も。
食べながら、色んなことが思い出されて、悔しくて、泣けた。
***
ちなみに、良い方法に気づいたのだ。
お腹がいっぱいになって食べられなくなったら、身体を成長させればいい。
そうしたらエネルギーはすぐ消費される上に、大きくなった身体ならもっともっと食べられる。
だから、全てを、平らげよう。
ここに集まる、全てのものを。
食べ続ける。取り込み続ける。延々と。止めるものなど何もない。
止められるものなど、もういない。
***
〝メ ドュー おいで”
メドューは顔を上げた。感動で胸が震えた。
手に持っていた誰かの何かをポイと口に入れて一噛みして、飲み込んでから、口元を腕で拭う。
「ヘビー。王がお呼びだ。行ってくる」
シャーっと、ヘビーが鳴いた。『ついていく』
メドューは立ち上がって頷いた。
力が溢れだす、この身体。
何の苦労も無く、転移する。
王の元に。
***
「よく来た、私の可愛いメドューサ」
王は、見た事も無い姿をしていた。大きな蜘蛛タイプの魔物だったのだ。腕と脚が何本も伸びていた。
王はメドューに変らない嫣然とした笑みを浮かべる。
「メドュー、おいで」
メドューに相当な力がついている今、王の力がどれほどすごいものかがよく分かった。
今のメドューよりも、王の方が数倍強い。メドューはヘビーと食べ物を分け合う事が多いので、他の魔物より成長スピードが遅いせいもある。とはいえ、もしメドューとヘビーを合わせても、まだ王の方が格上だろう。
「コ、コハツ…なのか?」
ニィの声がした。振り返ると、魔王が張った防御幕の向こう、ニィとリィナとあの勇者がこちらに対峙しているのが見えた。他にも何人かいるようだが、他は全て戦闘不能状態に陥っている。
ニィたちはボロボロの姿をしていた。
「ニィ、なぜ、私の王を襲う」
純粋にメドューは疑問だった。
問われて、ニィが驚いてメドューを見上げている。メドューはヘビーと共に宙に現れ、そこに留まっている。
「おいで」
王に呼ばれて、意識を王に向ける。王は愛しげにメドューに手を伸ばした。
ヘビーを連れて、メドューは宙を移動し、王の手の元にスィと寄った。
王の美しい指先がメドューの頬を撫でた。
「随分成長したね。大きくなった。ひょっとして、王都全てを食べたのかい?」
「はい。私とヘビーとで」
「素晴らしいね」
王が満足そうに、成長を喜ぶように微笑む。
けれどどこか無理を感じさせる気配に、王の生命力が随分削り取られている事が分かった。
「・・・王。私の、王」
メドューは苦しそうに眉根を寄せた。
王は、苦い笑みを浮かべた。そんな表情は、初めて見た。
「メドュー。どうも勝てないようだよ。ねぇ、私はね。城で殺されたものたちを、全部、腹に収めたのだが」
とっさに、メドューは、自分とヘビーの果たす役割を悟った。きっと、その可能性を求めて、呼ばれたのだろう。
「王。私を、ヘビーを、食ってください。きっとお役に立つでしょう」
メドューはそう進言する。
このままでは、親愛なる王は、勇者なんかに倒される。
魔物の頂点に立つ者が、たかが、人間なんかに。
食うわけでもないくせに、ただ殺される。そんな事、許される事ではない。
少なくとも魔物にとって。
王は汗を玉のように浮かべながら、クスクス笑った。
「可愛いね、お前はなんて役に立つ子だ」
「コハツ! 離れろ! いますぐ魔王から離れろ!」
ニィが怒鳴って魔法を放った。その攻撃を、王は一本の脚を犠牲にすることで、断ち伏せる。王の犠牲の脚は大きな破片になって、宙を舞う。
王はその大きな破片を他の脚で捕えて、笑った。いつも通りの、美しい強者の笑みだった。
「メドュー」
王は、脚を、メドューの口元に差し出した。
「喰え。私を喰らって、私に喰われろ」
それは、とても甘い囁き声。
魔物は自分自身を喰えない。だから、命じるのだ。王の力を取り込めと。王の力を取り込んだメドューたちを、王は喰らって、己の力に変えるのだ。
口に運ばれた王の脚に、素直にメドューは噛みついた。
強くなった自分の牙は、王の脚を容易く砕いた。
ガリっという音と共に、外殻が割れて、弾力ある身に牙が刺さる。牙を伝って、狂わしいほど香しい王の血が、口の中に広がった。
なんて濃厚な。なんて甘美な。
体内を駆け巡っていく。強い魔力が供給される。
メドューがうっとり幸せを噛みしめたところで、王はメドューの横腹に喰いついた。
「!!」
王の、多くの腕と脚が。メドューとヘビーを掴む。食いちぎる。
己の身体から、赤が噴き出し飛び散るのを、ぼんやりと見た。




