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01.魔界の暮らし

メドューは扉を開けた。魔王からの呼び出しを伝えるために。

扉の向こう、振り返ったミノタウルスの眼から、熱波がビッと走った。


『メドュー! 危ない!』

『危ない!』

「うあぁあああ!!」

ボト、ボトッ…! しゅぅうううう…!

うっかり(?)放たれた熱波からメドューを守ろうと身を挺して、メドューの前髪の2匹の子蛇が焼け焦げ、地に落ちた。

メドューの髪はうねうね動く蛇だ。メドューは、メドューサという、人間に蛇をプラスしたような女の魔物だ。


髪を焼かれたメドューは激高した。

「おーのーれぇーミノタァアアアー!!! 私の大切な頭髪をっ!!!」

髪は命。前髪ですら自身を表す戦力である。


「ハ、すまねぇすまねぇ」

尊大に鼻を鳴らして、ミノタウルス(牛男)が涎を垂らして笑う。

「丁度焼けて旨そうだなぁあ、食わせろや」

「あほか! この野郎ー!! 毎回毎回狙いやがって!」

地面に落ちた元頭髪はまだ生きていてビチビチ動いている。この状態で食われたら明らかにミノタに力が受け渡される。絶対渡すはずがない。

メドューは怒鳴りつけ、地面の子蛇を回収するべく手を伸ばした。

「あっつぅ!!」

メドューは火に弱い。熱に弱い。火を戦力とするミノタと相性が悪すぎる。

「へっ、拾えもしねぇとは、脆弱だねぇ」

HAHAHA、と、ミノタが嘲笑する。


「くそボケこの牛野郎、お前、絶対絶対、いつか殺す!」

メドューの負け犬の遠吠えに、ミノタがHAHAHAと高笑う。


メドューはやっと、ビチビチしている前髪2匹を手に掴んだ。

「調子のんなよ、いまに見てろ、笑ってられるのも今の内だ」

「ハッハハハハハハ~」

ミノタの笑い声がさらに大きくなる。


メドューは踵を返し、部屋をでる直前に、早口でボソボソっと悪口を言った。

「みてやがれ、今に絶対後悔させてやる、絶対絶対、絶対だ、このやろう王がすぐ来いってよ絶対だバーカ」


ミノタは涎を垂らしながらずっと天を向く程に高笑っている。


馬鹿め。牛だけど。


***


ミノタが魔王に半殺しの目にあったらしい。魔王が呼び出したのに行かなかったからだ。


ふ。ざまあみろ。


魔王は伝令の『言霊』が発生したのが分かるとかで、伝令の言葉をミノタに向けて放ったのには違いないメドューが咎められることはない。どんな状況でも聞き取れなかった方が力不足なのだ。


机の上に肘をついてニタァ、とメドューは笑った。

してやった。前髪よ、仇はとったぞ。


ちなみに前髪は、生きてるうちに自分で食べた。早くまた生えてきますように!


ミノタ半殺しのニュースにメドューはふへへ、うふふ、と幸せにしばらく浸っていたが、ふと、自分の顔の下にビーカーが置かれている事に気が付いた。

「・・・あれ?」

「あ。よだれが垂れてたから、勿体ないし、机にまた穴があくから」


「あ、ごめんなさい」

メドューは慌てて口元を拭って、口を閉じた。

浮かれた余りに、口が開きっぱなしになって、毒牙からよだれ…結構な猛毒、が垂れまくっていたらしい。

置かれたビーカーの中には、銀を帯びた緑色の液体がすでに半分ほど溜まっていた。


「もう妄想は止った? これ、回収するよ?」

人間の男は、銀色の手袋をつけた手で、ビーカーを取り上げて、ため息をついた。

「分かってる? 蛇女の毒牙の毒はものすごく希少価値があってね、だからこそ高値で取引されている」

「うん、知ってる、分かってる」

「希少さを保つために、出し惜しみしなきゃいけないんだから。倉庫にコハツの涎が溜まる一方だよ…」

男は呆れている。再三、置き場所の確保が難しくなってくるから気を付けてと言っているのに、溜まる一方だからだ。ちなみに、捨てればいいのに、と思うのだが、人間界で高値で取引されすぎていて、捨てるのが惜しいそうだ。


ところで、男はメドューをコハツと呼ぶ。それは男の妹の名前だ。その妹は、今、メドューとして生きている。メドューがコハツを浸食したからだ。

完全に浸食が済んだのに、この男はメドューをそれでも妹だと言って譲らない。魔界に戻り住むメドューについて、男は魔界にまで来てしまった。

コハツを母体にしたので、メドューにはコハツの記憶と感情も残っている。コハツという幼い子どもは、すぐ上の兄が大好きだった。記憶と感情が受け継がれているから、メドューは、彼を食わぬまま、好きにさせる。それどころか、小言に頭が上がらない。

とはいえまさか、魔界までついてきて、せっせと金儲けやメドューの世話を焼くとは思っていなかった。


この男はメドューの毒を人間界で売り、手にいれる大金で、この男が魔界で無事に過ごせるアイテムを購入したり、住環境を整えたり、メドューのためにも珍しい肉を仕入れてくれる。メドューは食べる事が生きがいなのだ。


「ごめんごめん。なぁ、ニィ、今日は気分が良い。酒も飲もう」

男の名前はリオンと言ったが、コハツが兄の事をニィと呼んでいたので、そのままニィと呼んでいる。

「どの酒だい?」

男…ニィが首を傾げるように、メドューに尋ねる。


「昨年に王が盛大な血祭り踊り食いやった時に土産にって貰ったやつ」

「あぁ…」

ニィは若干渋い顔をした。ニィは血の匂いが濃いものが苦手らしい。メドューは知らんぷりである。


「ヘビーも飲むだろ?」

メドューは、部屋の壁際でとぐろを巻いている大蛇にも声をかけた。大蛇の名前はヘビーである。

いつからの付き合いか分からなくなったぐらい、ずっと共にいる。

メドューは身体が修復不可能になると新しい身体に種として宿り、宿主が成長するうち発芽するように意識を食らい、その身体を自分のものにする。そうして長い時間を生きている。その長い時間の大半を、ヘビーと共に過ごしている。ヘビーは頼れる相棒なのだ。


さて、食事を希望したので、ニィがテキパキと倉庫から材料などを運び準備をしてくれる。

ルンルン気分で、メドューたちは待っていればいい。


人間など目障りだ、しかもあいつ、美味しそうでない、役立たずだ。

そう色んな魔物に馬鹿にされるしニィを狙われもするけれど、ニィを食べる気も誰かに食べさせる気も全く無い。


万が一、ニィを食べたって美味しくない。

美味しくない理由は、ニィが魔物を恐れていないからだ。

恐怖こそが味わいを作るのに、ニィにはそれが無い。だから食べても、きっと味のない、ただの肉の塊。そんなものは、食べる価値なんてないのだから。

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