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マイペースな旅立ち(未遂)

2章開始です! そしてまだ旅立ちすらしていない……!

この章からスキルやらバトルやら、RPG的な部分が出てきます。

 

「ここは……」


 目を開くといつもの白い空間だった。

 どうやらまたここに来てしまったらしい。

 正面には神である少女がいて、腕を組みながらこちらを見ていた。


「アースちゃん、久しぶり」


 手を上げて少女――アースちゃんに挨拶をする。

 アースちゃんはいつも通り、ムスッとした表情で口を開いた。


「ちゃん付けはやめろ。私は神だぞ? もっとこう……敬う気持ちはないのか?」


 敬えって言われてもなぁ。


「じゃあ……敬いの気持ちを込めて舞おうか?」


「いい。いいって! いいって言ってるだろうが!」


 遠慮しているのかと思って静止の声を聞かずに舞ってみたが、どうやら本当に踊ってほしくないらしい。

 残念だ。俺の踊りは近所でも『神が光臨しそう。邪神系の』と評判だったんだけど。


「そちらの生活をなかなか楽しんでるみたいだな」


「お陰様で楽しんでるよ。あっ、そうそう。仲間もできたんだぜ。リーサって言ってな、可愛い狩人でさぁ」


「……ふん」


 俺が初めてできた仲間の話をすると、アースちゃんは不機嫌そうな顔を更に不機嫌にしてそっぽを向いた。


「山瀬がどんな女と仲間になろうが、私は興味ないし。……それよりも何か聞きたいことがあるんじゃないか?」


「聞きたいこと?」


「そうだ。ここに来たということは、お前の潜在意識が私に何かを尋ねたいという意思を持ったからだ」


 アースちゃんが言うには、ここの来るには俺が心の底から何かを尋ねいと思ったときとアースちゃんが自分から俺を呼びよせるときだけらしい。

 個人的には毎日でも会いたいんだけど……可愛いし。


 しかし聞きたいこと、か。

 そういえば聞きたいことがあったんだ。いつだったか、脳内に響いた声。

 アレが聞こえてから、妙な力を使えるようになった。一瞬で短い距離を移動したり。


 そのことを尋ねてみた。

 『頭に声が』の辺りで、リーサちゃんにこいつ頭がおかしいんじゃ?みたいな顔で見られたが、その後起こった現象について説明すると、なるほどと頷いた。


「『地格技』――か。そちらの世界から引き出した情報によると……うん。お前にも分かりやすく言うと『スキル』だな」


「スキル。ゲームとかに出てくる?」


「そうだ。どうやら『格能』と『格技』の2種類があって、前者がパッシブスキル……常時発動するもの。後者がアクティブスキル……能動的に発動するもの、らしい。頭についてる『地』はランクだな。『地』の上は『天』、更に上が『極』と性能が上がるらしい」


 下位スキルだったり、上位スキルってことか。

 アクティブスキルといい、パッシブスキルといい、本当にゲームみたいだな。まあ分かりやすくていいか。


「山瀬が会得したのは『地格技』の《アクセルムーブ》。下位の移動スキルだな。スキルを会得する方法は……色々あるみたいだ。『格』、つまりレベルを上げること。他人の技を見て覚える、特定の行動を繰り返す……など」


「ほうほう」


 とすると俺がこのスキルを覚えた原因は……なんだろう。思い当たるフシがない。俺がしたことなんて、森で彷徨ってキノコ食ってリーサに射られてリーサと同棲したくらいなんだよな。

 その中のどれかに原因が……?

 矢で射られた説が濃厚か?


「多分違うと思う」


 心の中を呼んだアースちゃんが言った。


「正直分からん。まあ、気にすることじゃないだろう。ちなみにスキルを発動するには、声に出すか頭で強く念じればいいらしい」


「声に出すのは少し恥ずかしいかな」


「……お前に恥って感覚があったのに驚いた」


 酷いことを言われた気がする。


「あ」


 ここであの感覚、自分がうっすらと消えていくような感覚を覚えた。

 どうやら時間切れらしい。


 アースちゃんに手を振る。


「じゃあ、行って来るわ」


「ふん。せいぜい死なないように頑張れ」


 そして意識が落ちる。


「……聞きたいことってそんなことか。もっと私自身のことを聞かれると思ってたのに……」


 完全に意識が消える寸前、そんな呟きが耳に入った。



■■■



「……はっ」

 

 そして俺は目を覚ました。

 目に入ったのは白い空間ではなく、普通の天井だ。


 はっきりと覚えていないが、アースちゃんと会って『格技』や『格能』、つまりスキルの説明を聞いた気がする。

 勉強になったぞ。そしてよく分からないけど、今度アースちゃんに会ったときは、何か彼女自身のことを尋ねた方がいい気がする。とりあえずパンツの色でも聞くとするか。


「えっと確か昨日は……」


 体を起こしながら、昨日のことを思い出す。

 昨日、俺は村長に別れを告げて村を出て、村の外でリーサと合流したのだ。

 

 それから翌日の今日。


「……くぅくぅ」


 横を見ると安眠中のリーサが。

 何だかんだで一緒の布団に寝ている気がするが……まあいい。


 俺とリーサが寝ているのは……リーサの家のベッドだ。


 なぜ旅立ったはずの俺たちが未だこのアメリ村にいるのか。

 それを説明しておこう。



■■■


「いいヤマセ? 気づかれないようにそっとね」


 鞄を忘れた俺とリーサは村へと引き返した。誰にも姿を見られないように静かに。

 リーサ曰く、旅立って1時間もしないうちに帰ってくるのは幾らなんでも恥ずかしすぎるとのこと。

 そういうわけで抜き足差し足、俺たちは忍んでいた。


 が、どうやら忍ぶ必要は無かったらしい。


「めでてえなぁ!」


「もっと飲もうぜ! どんどん酒持って来い!」


「いやぁ、あのちっこかったリーサがとうとう旅立つとはなぁ……俺も歳とるわけだ」


「なぁにしんみりしてんだよ! 今日はリーサの旅立ちを祝う宴会なんだからよ! 飲もうぜ!」


「おう!」


 とまあそんな具合で。

 村では宴会が行われていた。

 リーサの旅立ちを祝して開いたらしい。

 

 村の広場では全ての村人が集まってどんちゃん騒ぎをしている。

 この状態なら、こっそり忍び込んで忘れ物を回収するのも簡単だろう。


「……この隙に行こう」


 リーサが頷きながら言った。


 俺とリーサはどんちゃん騒ぎをする村人に見つからないように、ババアの家に侵入し鞄を回収した。

 そのままもう少し持って行きたい物があるというリーサに従い、リーサの家に向かった。


「……ただいまー」


 静かな声で呟きながら扉を開けるリーサに続く。

 誰にもバレずに侵入は成功した。リーサと二人、ホッと胸をなでおろす。

 村の外からは酔っぱらった村人が騒ぐ声が聞こえていた。


「しかしリーサ。持って行きたいものって何なんだ? あの鹿の剥製か?」


 俺は金持ちに家とかに飾ってそうな、鹿の頭がニョキっと出た剥製を指した。


「違うよ。あんなもの持って行っても邪魔でしょうがないでしょ?」


「じゃあこの虎の剥製か?」


 俺は金持ちの家とかで敷いてそうな、虎をロードローラーで轢いたような剥製を指した。


「だから違うって……」


「だったらこのゴブリンの剥製か?」


 俺は金持ちが抱き枕にしてそうなゴブリンの――


「だから違うって言ってるでしょ!? ていうかさっきから何で剥製ばっかりなの!? そもそもこの家剥製多すぎない!?」


「いや、最後は知らんけど」


 勢いで突っ込まれてみたが、剥製が多いのはリーサの趣味だろうに。

 大声で突っ込んだリーサが慌てて自分の口を押さえた。窓の外を覗き見るが、誰かに気づかれた気配は無い。ため息を吐くリーサ。


「ちょっと待っててよヤマセ」


 そう言うとリーサは、唐突に床板を外し始めた。

 外した板の下。そこは人が1人潜り込めるくらいの空洞になっていた。

 そこにあったのは箱だ。

 

 リーサが箱を開けた。


「いつか旅立つ日が来るかもしれないと思って、ここに色々保管してたんだよ」


 箱から取り出した、何かが詰まった袋を鞄にしまいこむリーサ。

 更に鞘に収まった厚手のナイフと剣を取り出した。


「父さんが冒険者をしていた時に使っていた武器なんかも入れれてね。ほら、ヤマセって丸腰でしょ? 父さんが使っていたのでよかったら、持って行ってよ」


「……いいのか?」


「うんいいよ。道具も誰かに使ってもらったほうが幸せだろうし」


 そういうことなら、ありがたく戴いておこう。

 俺も正直、丸腰で外に出ることに対して不安はあった。

 ちなみに山瀬ボーンから貰った杖は、村はずれに作った彼の墓標にしている。安らかに眠ってほしい。


 リーサが剣を手に取った。

 鞘に収められた剣。リーサが鞘を外すと銀色の刀身がキラリと輝いた。


「おお……カッコイイ」


 俺の上半身ほどの長さの剣は、さぞ切れ味がよさそうだった。

 これをもって魔物と闘う自分を想像する。

 ……やばいな、燃えるわ。


 生まれて初めて、博物館以外の場所で剣を見た俺は興奮していた。


「これが俺の物に……。そうだ、名前をつけよう。俺の剣――ヤマセの剣だ」


「前から思ってたけど、ヤマセって名前をつけるセンスが……い、いやヤマセがいいなら別にいいけど」


 リーサが何か言いたげだが、俺は目の前の剣に夢中だった。


「手にとってもいいか?」


「いいよ、これはもうヤマセのものだし。はい、結構重いよ?」


「ははは」


 リーサが片手で持ってるし、男の俺が持てないわけないだろ。

 笑いながら右手で受け取った。リーサが手を放す。


 ――瞬間、俺の右手に凄まじい重さがかかり、剣は床に落下。俺の右手は剣の下敷きになった。


「ぎゃああああああああ! み、右手がぁぁぁぁっぁぁぁ!! 俺の右手がぁぁぁぁぁっぁぁ!」


「ヤマセ!? あ、そういえばヤマセって全然力ないんだっけ……」


「い、いいからさっさとどけてくれ! このままじゃ……もう2度とピアノが引けなくなっちゃうよ!」


「結構余裕あるんじゃないの?」


 リーサが剣を持ち上げた。どうやら指は折れていないようだ。ちょっと赤くなっているが舐めていれば治るだろう。後でリーサに舐めてもらおう。

 しかし何て重さだ。よくよく考えてみれば、恐らく鉄で作られたであろうこの長さの物体が軽いはずないんだよな。

 これを軽々振り回す、ファンタジー世界の住人ってすごい。 


「うーん、しょうがないね。これは置いていこっか」


 リーサが剣を床下に戻した。


「なら、ヤマセ。こっちはどう?」


 リーサが鞘付きのナイフを差し出してきた。

 先ほどのこともあり、恐る恐る受け取る。


「……ん。普通に持てるな」


「よかった。じゃあヤマセの武器はそれに決定ねっ」


 両の手を合わせて笑顔を浮かべるリーサとは対照に、俺はちょっと不安な気持ちがあった。

 ナイフって……。盗賊じゃねーんだし。こんなんで魔物と渡り合えるのか?

 まあ無いものねだりをしてもしょうがないし、これを使うしかないか。

 じゃあリーサの親父さん。これ戴いていきます。


 親父さんのお下がりであるこの服は、親父さんが冒険者をしていたときに着ていたものらしい。

 ズボンのベルトは、ナイフが差し込めるようになっていた。


「よし、これで準備よし!」


 こまごまとした物を詰め込んでいたリーサが言った。


「あとは……」


「この家を燃やすだけか」


「燃やさないよ!? 何で燃やしちゃうの!?」


 俺が知っている物語では、結構な頻度で家を燃やしてたし。


「あとは村の皆にバレないように、村から出るだけ――しっ、ヤマセ。誰かこっちに来る……!」


 リーサが、腰をかがめながら言った。


「隠れなきゃ……!」


 どうやらよっぽど見つかりたくないらしい。

 俺とリーサはベッドの下に潜り込んだ。またベッドの下か……。これで2度目だぞ?

 こんなに潜り込んでたら、そのうちベッドの下に潜り込む系の都市伝説になってしまいそうだ。


「ヤマセ、もっとそっちに詰めて……!


 しかしベッドの下は狭い。もともと潜り込むように作っていないのだから、当然だけど。

 体を動かすと簡単にリーサの体に触れてしまう。


「ひゃっ、ヤ、ヤマセ……! ど、どこ触ってるの……!」


「お尻」


「正直だね!」


 リーサの柔らかいお尻に触れながら、息を殺す。


 扉が開かれた。入ってきたのは……ババアだ。

 酒を飲んでいるのか、ちょっと顔が赤い。


「……ふぅ。全く、ワシを酔い潰そうなど100年早いわ」


 ふらふらとした足取りで、こちらにやってくる。

 そのままドスンと音がして、俺たちが潜り込んでいるベッドが軋んだ。

 ベッドに座ったらしい。


「……しかし、あんなに小さかったリーサが旅、か。時が過ぎるのは早いわ」


 名前が出たことで、隣のリーサがビクンと震えた。


「ふ、ふふふ……父親が死んでから、ワシが育てるようになって……もうそんなに経ったのか。子供もいなかったワシに育てることなんて、できないと思っておったが……何とかやり遂げられて一安心じゃ。あんなに優しく、それでいて芯の通った立派な人間に育って、ワシは……満足じゃ」


 ババア子供いなかったのか……。

 リーサその事実を知らなかったのか、驚いた顔をしている。


「ああ、幸せじゃ。立派な娘が側にいて、その娘が旅立つところを見れた……ワシは本当に幸せ物じゃ……」


「……お婆ちゃん……ぐすっ」


 ババアの独白に感動したのか、リーサが鼻を啜り始めた。


「あとは孫の姿を見ればいつ死んでも悔いはない」


「まごっ!?」


 ババアの発言に驚いたリーサが急に頭を上げたことで、ベッドに思い切り頭を打ち付けた。

 一瞬浮くベッド。当然異変に気づくババア。


「だ、誰じゃぁ!? くせものか!?」


 い、いかん! このままじゃ俺たちの存在がバレてしまう。

 リーサに視線を向けるが、よっぽど痛かったのか頭を抱え込んでしまっている。

 ここは俺が何とかするしかない。

 定番の動物の鳴きまねで……!


「モ、モグー、モグモグー!」


「何じゃモグラか。どうやら地面から出てきた場所が、たまたまこのベッドの下じゃったのか?」


 よし! ババアちょろいわ。


「などと言うと思ったか? さっさと出て来い。3数えるうちに出てこんと、ワシ特製の皮膚が溶ける薬を投げ込むぞ」


 ……ババアはちょろくなかったよ。


 

 そして大人しく出て行く俺とリーサ。

 くせものが俺たちだったと気づき安心するババア。次いで自分の独白を聞かれて顔を真っ赤にする誰得なババア。


 ババアが戻ってこないので、様子を見に来た村人。

 俺たちを発見した村人が増援を呼ぶ。逃げようとするが、しかし村人達に回りこまれてしまった。

 そのまま宴会の中心に放り込まれる俺とリーサ。


■■■


「で、そのまま宴会を楽しんで、初めて酒を飲んで潰れてしまったリーサを家に連れ帰ったわけだ」


 一口飲んでぶっ倒れたリーサ。

 そのまま家に連れ帰り、俺も眠かったのでそのまま眠ってしまったのだ。

 そんなことがあって、旅たちが1日遅れたが……今日こそ旅たつぞ!


「おーいリーサ。朝だぞー。冒険に行くぞー」


 リーサを揺さぶる。

 何度か揺さぶっていると、リーサの瞼がゆっくり開かれた。


「や、やませ……?」


「そうだ。ヤマセだ。お前と一緒に冒険に行くイケメンの相棒だ」


「……そ、そうだ。冒険に、行くんだっ」


 慌てて体を起こすリーサ。が、急に頭を抑えて蹲ってしまう。


「……っ……あたま、いたい」


「二日酔いか?」


「……わかんない」


 そのまま布団に潜り込んでしまうリーサ。


 リーサの二日酔いは重く、その日回復することはなかった。

 結局、その日も家で過ごすことになってしまい、村を旅立ったのはその翌日になった。


 やれやれ先が思いやられる。

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