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1、ありがちなプロローグ

きちんとプロットを作ったファンタジーを書こうと思いました。

コメディ要素多目ですが、掛け合いの方に比重を置いてます。

 俺の目の前には白いローブを着て、手にはRPGに出てきそうな杖を持った少女が立っている。

 周囲は白いペンキをぶちまけたような真っ白な空間。

 俺はそんな場所で少女と向き直っていた。何故こんな状況に至ったのか、経緯が思い出せない。

 授業をサボって帰っていたはずなんだが。


 少女が口を開いた。


「私は神だ」


「丁寧にどうも。俺は山瀬だ。ドカベンに出てくる山田太郎の『山』、瀬戸内国立公園野呂山の『瀬』で山瀬だ」


「名前の説明がクソみたいに下手だな!? そして野呂山の山も入って山が被ってるじゃないか!?」


「その突っ込みよくされるわ」


「じゃあ変えろよ!」


「変えたらその突っ込みされなくなるじゃん」


「されなくなったら何か困ることでもあるのか!?」


「いや、だってその突っ込みされるの趣味だし」


「趣味なのか!? 何だそのクソみたいな趣味!?」


 さっきからクソを連呼するこの少女は何だ……? 名前が神田さんってことは分かったが……。


「一応言っておくが、名前じゃない。神様の神、だ。いわゆるゴッドだ」


「今、俺が考えてることを……!? エスパーか!?」


「神だって言ってんだろ!」


 神田改め、神は唾を飛ばしながら叫んだ。

 苛立たしげに杖をガンガン床に打ち付ける。


「そんなに床ガンガンしたら、下の住人に怒鳴られるぞ?」


「いるか!」


「一戸建てだから?」


「そーいうことじゃねー!」


 なおもガンガン杖を打ちつける神。床に打ち付けられる杖が可愛そうになってきた。


「お前ちょっと黙れ! 話が全然進まないだろうが! お前、神である私に何回突っ込みさせる気だ!?」


「108回は目指したいと思ってる」


「煩悩か! 神だけにか! 上手いこと言ってんじゃねー!」


 凄い突っ込みへの対応だな……。俺への突っ込みに関して俺の妹の右に出る者はいないと思っていたが……これは改めた方がよさそうだ。

 この神には妹以上に右に出る者として期待したい。


「期待すんな! そんなわけの分からないものの右に出るつもりなんて毛頭ないわ!」


「じゃあ……一旦俺が妹と君の間に入る。こうすると妹が右に出るから、君は左に出る。……これでいいか?」


「左右の話じゃないわ! お、おまっ、ほんと1回黙れ……! この短い時間の間にどんだけ神である私を混乱させる気だ……」


 神はぜーぜーと荒い息を吐いた。

 喘息もちなのかもしれない。

 喘息もちの相手に無理をさせるのはやぶさかではないので、少し黙ることにしよう。


「……ふぅ。いいか? もう一度言うが私は神だ。そしてここはお前が存在していた世界の『外側』、神である私の領域だ」


 なぜ俺がそんなところに? ……俺も神になったのか?


「そんなほいほい神になられてたまるか! いいか? ――お前は死んだんだ」


「え?」


「……ふん、流石に戸惑うか」


「で、でも俺まだ……童貞なんだけど」


「腹上死じゃねーよ! 何で自分の死因でまずそれが思い至る!?」


 自分でも分からん。

 だが死んだのは確かなようだ。何故だか分からないが、この少女の言っていることは正しいと、本能的にそう感じる。


「そうだ。死んだと言ってもすぐに納得する奴は滅多にいないからな。私の力を使って、私の言葉が真実だと理解させている」


 凄い力だな……まるでエスパー……。


「だからエスパーではない。神だ。お前は死んだ。だが、普通死んだ人間は自動的に輪廻転生の輪に組み込まれる」


「輪廻転生?」


「ああ。生前の行いによって決められた、新しい命に生まれ変わるんだ」


「新しい命……サメとか!?」


「い、いや……まあサメになる可能性もあるが……何だその食いつき……こわっ」


 神が得体の知れないものを見る目で見てくる。 

 が、そんのはどうでもいい。サメになれる可能性があるなんて……輪廻転生サイコー!

 生まれ変わって死んで生まれ変わってを繰り返してたら……いつかはサメになれるんだよな! よーし、次生まれ変わってサメじゃなかったらすぐに死のう!


「どんだけ刹那的に生き方なんだよ! 命を粗末にするなアホ!」


「……ごめん」


「い、いやいきなりシュンとして謝られたら、それはそれでペースが狂うんだが……」


「怒られたら取りあえず俺が悪いから謝れって、妹からよく言われてるんだ」


「そ、そうか……その妹は正しいな」


 だが妹は俺のスマホにGPSを取り付けるだけでは飽き足らず、俺の服や靴にGPSを取り付け四六時中俺の位置を把握しようとするちょっと頭のおかしい子だが……これは言わなくてもいいだろう。


「言わなくても分かっちゃうわ! 神だから! 怖いよお前の妹!」


 妹の怖さはそれだけではない。俺はイケメンなので、結構女の子が寄ってくるのだが、大体近づいてくる前に落とし穴に落ちたり、木の上に吊るされたり、どこからかやってきた黒服に囚われて船に乗せられたりするのだ。

 そうこうしていると俺の周りには、学園最強を誇る剣道有段者の先輩、金の力を使って対抗する金持ちのクラスメイト、忍者の末裔である後輩……といった個性的な面子が残された。

 そんな俺達の日常は毎日が退屈しない。


「凄い日常だな……ま、まあいいか。とにかく普通は死ぬと輪廻転生の輪に取り込まれる」


「うん」


「だがお前はここにいる。何故ならお前は本来死ぬはずじゃなかったからだ」


 死ぬはずじゃなかった?


「この世に生きる全ての人間がいつ死ぬか、それは最初から決まっている。定められたその時に死に、定められた手順に乗っ取って新たな命へと生まれ変わる」


 全部決まってんのか……なんかそれはそれで、こう……抗ってやる、みたいな反骨精神が生まれてくるな。


「だが稀にイレギュラーが現れる。死ぬべき時に死なない、そして死ぬべき時ではないのに死ぬ。お前は後者だ」


「つまり……死ぬはずじゃなかったのに、死んだと」


「そうだ。覚えているか? お前は道を歩いていて、トラックに引かれる寸前の子供を見つけた」


 神の言葉に、徐々にだが記憶は戻ってきた。

 そうだ……俺は学校をサボって家に帰っていた。そして本屋に寄り道をして、エロ本を買った。衝動買いだ。いや、エロ本自体にそこまで魅力はなかったが、本屋の店番をしているお姉ちゃんがとても可愛かったので、恥ずかしがるリアクションを見たくて実行したのだ。

 顔を真っ赤にして本を詰める大学生風のお姉ちゃんはとてもよかった。ついでにLINEのID渡したら、これまた恥ずかしがりながら受け取ってくれた。本屋を出てすぐにデートの約束を取り付けたら、すぐにイエスの返事が来て――


「いらんことまで思い出すな!」


「だってこういう時にいらんことを思い出しとかないと、本当にいらんことを思い出しちゃいけない時に困るだろ?」


「わぁー! もう黙れ! 続けるぞ! お前はトラックにはねられそうになる子供を見つけた」


 そうだな。確かそうだった。


「そしてお前はそれを助けた。そこまではいい。お前が子供を助ける、それは定まっていたことだ」


 そうだったのか……。


「お前は子供の前に飛び出し、トラックは奇跡的にお前達を避けて停止する……そうなる予定だった」


「だった? ……俺、助けようとしたよな」


 確かに俺は助けようと思ったはずだ。そして行動をした。


「確かにお前は子供を助ける行動をとった。――だがそこにイレギュラーが発生した」


「イレギュラー?」


「何を思ったかお前はその場で――自分のズボンを下ろした! 即座に! 一瞬で!」


「何で?」


「んなもん私が聞きたいわ! 何故おろした!? そして何故トラックは子供を避けてお前に突っ込んできた!? 意味が分からんわ!」


 本当に混乱しているのか、目の端に涙を浮かべている神。

 ここで『神の見えざる手が働いたんだよ』と返すと知的でカッコいいけど、実際言葉の意味をよく知らないのでやめといた。

 頑張って思い出してみる。

 何故俺がその時、ズボンを下ろしたのか。よく意味のない行動をとって学校では『予測不可能男』とカッコいいあだ名をつけられ、あまりにその呼び方が気に入ったのでテストで名前欄にうっかり書いちゃうくらい予測不可能な俺だが、流石に人の生き死にがかかっている時に意味不明な行動はとらないだろう。多分。


 そうだ! 思い……出した!


「思い出しのか!? さあ、教えろ! 神である私にも分からなかったその理由をすぐに答えろ!」


 神が密着するほどの距離に近づいてきた。

 だがそこまでたいした理由じゃないんだが……まあいい。教えるとしよう。


「トラックのオッサンがホモだったからな」


「……は?」


 神は完全に言葉の意味が理解できていないようで、頭の上にハテナを浮かべた。


「ホモだったんだ。筋金入りの。だから俺はズボンを下ろすことで、オッサンの気をこちらに逸らした。それが答えだ! ……それが答えだ」


 思いのほか『それが答えだ』という言葉に響きがカッコいいので、二回も言ってしまった。いいな……それが答えだ。


「ま、待て! そ、それが……理由なのか? い、いやいや! そもそも何故その男がホモだと分かった!?」


「心を読んだんだ」


「お前エスパーだったのか!?」


 いや、嘘なんだけど……でもこのままエスパーと言い切ったら信じそうだな。

 実際は後輩の忍者にホモの見分け方を教えてもらっただけなんだが……まさかあんな時に役に立つとは思わなかった。

 ん……でも普通に助けてたら、俺も子供も助かったんだよな……。俺って無駄死に?


 まあ……いいか。こういうこともある。決まりきった人生なんてつまらないからな。こういう波乱万丈が会ったほうが楽しい。


 神は俺がエスパーだということを真に受けたようだ。「それなら納得できる! 神である私が理解できなかった理由はエスパーだったからだ!」と興奮した様子でまくし立てている。心を読むのも忘れているようだ。


「で、このミスター山瀬はどうなるんだ?」


「エスパーっぽい……! あ、ああ。お前の死はイレギュラーなものだ。そしてイレギュラーな死を迎えたものはこうやって私の元へ来て……別の世界に旅立つことになる」


「新宿二丁目か!」


「違う! そういう意味の別の世界じゃない!」


 よかった……いくら俺でも新宿二丁目でレズビアンバーを経営して億万長者に成り上がれって言われても……3年はかかるだろうしな。


「まさかの自信だな! ……い、いいか? 輪廻の輪に取り込めない以上、お前の存在はここではない別の世界に旅立たなければならない。そうしなければここで消滅してしまう」


「消滅? 穏やかな話じゃないな……」


「ああ、私としても神である自分の子供とも呼べるようなお前を消滅させたくはない」


「ママって呼んでもいいのか?」


「呼ぶな! 気色悪い!」


 年下の少女をママって呼ぶの、結構憧れてたんだけどな……。妹にそのこと話したら『じゃあうちをママと思っていいですよ』って言われたけど、妹で母親とか倒錯しすぎて背徳感がどうこうじゃなく人としてダメになりそうだから拒否した。

 妹も残念がってたな。まあ、色々あってウチに母親はいなかったし、妹も母親的存在に憧れていたのかもしれない。


「お、おい……反応に困るようなことを考えるな。なんか悲しくなるだろ……」


 母親がいないことに対して同情したのか、困ったような表情を浮かべる神。ちょっと泣いてるっぽい。


「と、とにかく! お前には別の世界に行ってもらう。元の世界に未練はあるだろうが、こればかりは仕方がない。私の力が及ばないのだ。その……すまない」


 神が頭を下げた。ちょっと面食らう。


「いや、いいよ。どんな世界か気になるけど、あれだ。『住めばええとこやんここ』って言葉があるだろ。どんな世界だって俺は楽しむ自信があるぞ」


「住めば都な、どんな間違いだ。……だが、まあそう言ってもらえると、その……ありがたい」


 先ほどまでなかった、はにかんだような笑みを浮かべる神。整った容姿と相俟って非常に可愛い。

 俺の言葉に神は一瞬で顔を赤くした。


「か、かわっ……!?」


「山!」


「何だ!? いきなりなんだ!?」


「いや、合言葉と思って……」


 だとしてこのタイミングで必要とする合言葉とはなんだろう……。


――ゴゴゴゴ……


 突然響いた地響きのような音に、そちらを見ると黒い渦のような物が発生していた。


「時間か。あれは先ほど言っていた別世界、その入り口だ」


「合言葉で開いたのか!?」


「違う! たまたまこのタイミングで開いただけだ!」


 それはそれで凄いな……タイミング。


「その渦をくぐれば別の世界だ」


「一体どんな世界なんだ?」


「渦が開いたことで情報が流れ込んできたが……ふむ。なるほど、お前に分かりやすいように言うと……剣と魔法の世界、といったところか」


「エロゲみたいな世界ってことか」


「剣と魔法からどうしてその発想が浮かぶ!?」


 そりゃ俺が剣と魔法が出てくるファンタジーなエロゲばっかりやってるからだろうな。

 最早、魔法が出てくる学園物で普通の人が『○リー・ポッター』と浮かべるところを俺だったら『ウィズ○アニバーサリー』が出てくるくらいエロゲに汚染されてるし。


「攻略ヒロインはどれくらいなんだ?」


「うっさい! ええい、もうっ、さっさと行け! 行ってしまえ!」


 どんどんと背後から杖で突かれる。


「あ、待ってくれ。最後に聞きたいことあるんだけど」


「何だ!?」


「いや、神様の名前。聞いてなかったなーって」


「な、名前? そんなものを聞いてどうする?」


 名前でググッてツイッターのアカ見つけて恥ずかしい呟きを見てニヤニヤする……と返すといい感じに突っ込みが返ってきそうだが、どうも本当に時間がないらしい。

 自分の体をよく見ると、足の先がうっすらと透けていた。


「だって神様なんだろ? これから俺、困ったときは普通に人がよくやるみたいに『助けて神様』って祈るよ。でもその時『神様』だと何かこう……他人行儀な感じがして呼びにくいだろ。だから名前を教えて欲しい」


「……何だその理由は」


 神様は笑った。見た目相応の少女の笑みだ。


「そんな理由で私の真名を知りたがるとは……お前は初めてだ。まあいい。私の名前は――」


 名前を聞いて満足した俺は、そのまま背中から渦に飛び込んだ。

 多分これから困ったときとか感謝するときに思い浮かべるだろう神様の顔を見ながら。

 



■■■


「……行ったか」


 少女はゆっくり息を吐いた。

 これほどまでに疲れたのは初めてだった。

 だが疲労感とは別に、胸の内に灯る感情があった。

『楽しかった』という感情。

 日々世界を見つめてるだけの拷問のような仕事。たまに来るイレギュラーを別の世界に送るだけ。

 そうして疲れきった心が、ほんの少しだがほぐされていた。


「山瀬、か。全く、あんなに余裕のない旅立ちは初めてだ。――そ、そういえば碌に『力』の説明もできなかった……」


 イレギュラーに渡す『力』。神の恩恵であるその力を全く説明せずに送り出してしまった。

 だが、不思議と心配はしていなかった。


「あいつなら……まあ何とかなるか」


 ほんの数十分の会合であったはずだが、何故かそう思った。

 どんな時でも何とかなる。山瀬という男にはそう思わせる何かがあった。


「……」


 ふと山瀬が旅立った渦があった場所を見た。人差し指大の小さな渦がある。

 少女がいる部屋には同じような小さな穴がいくつもあった。

 少女は自分が管轄している世界以外に干渉することができない。

 だがこの穴を通して、管轄外の世界の様子を見たり限定的だが声を届けたりすることはできる。


「……あ、あれだ」


 少女は言い訳のように呟いた。


「せ、説明もできなかったしな! 他のちゃんと説明して送りだした奴と差があっては不公平だからな! ちょっと覗き見てたまーに助言を与えるくらいいいよな!」


 帰ってくる言葉はない。少女は一人だ。

 あるはずもない否定の意見が聞こえなかったので、少女は黒い穴を覗き込んだ。





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