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銘柄市ターン

 私は今現在のこの現状に対して、あまりに不満がない。

 いつもの様に毎日三食ご飯が食べられるし、屋根の下で眠る事が出来る。自由な時間もあって、実に楽しい人生を送っている。今住む家も、これ以上ないくらいに私は気に入っているのだから、私はこれ以上は望めないし特に望む事も思い浮かばない。

 私は非常に今の日常に満足しているし、人生が充実しているとそう思っている。

 それに、それは周りである程度までの悪い出来事が起こったとしても、やはりこの私の幸福な気持ちが、大きく変わる事はないと思う。気にせず順応できると思う。

 大げさな話をすれば、きっとこの地球が宇宙人の手に落ちても、私はそこに不満なく住める自信があるし、普通に現実的な話ならば、何十年も掃除していない部屋でも、屋根の無い雨が防げない家でも、殺人犯が潜伏している部屋だとしても、正直住めば都と言う概念が私には適応する。通用するとそう考えていたりする。私はそれを気にしないし、それが気にならない。

 私は自分の事をどんなに自分にとって悪い環境の場所だとしても、最低限の餌で生きることが出来る昆虫みたいな、そのような人間だと自負している。そんな人間でいるつもりである。

 そんな人格の人間であるこの私は、今日からこの西向第四高校の二年四組に転入した転校生、であり、名前は「銘柄市告」と言う。そして職業は女子高校生である。


 今現在、掃除場所から駆け出した私は、職員室へ向かい駆け足をしていて、ちょうど今目的地に着いたところである。ドアを開き、そして私は口を開く。


「失礼します。二年四組の銘柄市です。小匙川こさじかわ先生はいらっしゃいますか。」

 私が職員室の入り口から中を覗くと、目の前に丁度担任の席がある。私が声を掛けると、担任の先生。フルネーム「小匙川サカ」先生は小走りですぐにこちらに来てくれた。

「どうしましたか? 銘柄市さん。」

 そして面と向かって、私は単刀直入に話を切り出す。

「小匙川先生。私、部活動を決めました。「帰宅部」に入ります。」

「銘柄市さん。それは部活ではないですよ……。」

 あははと苦笑いしながら「あの、では……。無所属という事ですか?」と、問われた。

 勿論答えは「その通りです。」だった訳ですが、私はそこで初耳の事実を知る。

「は、はい。では、銘柄市さんは必然的に「部活動補助係ぶかつどうほじょがかり」に所属することになりますが、大丈夫ですか?」

「……? その、何の事ですか。」

 土産屋君はそんな事何も言ってはいなかったが、今の先生の言葉で既に私は完全に、ぬか喜びさせられた気分である。

「えっと、帰宅部の人が強制的に入らされる係活動ですね。」

「……。どういった内容なのですか。」

 まあ、一応一通り、取りあえず話の続きを聞こうと首をかしげて耳を傾ける。

「簡単に言うと、他の部活の手伝いをひと月に一回以上してもらうという係ですね。」

「ひと月に一回ですか? それなら問題はないです。」

 なんだ、たった月に一回ですか。それならば何ら支障がないですね。痛くも痒くもないです。

「そうですか。解りました。では後で係の説明をするのでこの職員室の隣の部屋に来てください。あ、……それはそうと銘柄市さん。」

「はい。何ですか先生?」

 一転して声のトーンを下げながら若干顔をむすっとさせた先生からは、「怒り」が伝わってくるようだ。先生は何か怒っていらっしゃる。

「土産屋君に聞きましたが、最初の私《古典》の授業中。チャイムの音を鳴らしたのは銘柄市さんだったそうですね。ああいうのは困りますよ。録音か何かは知りませんが、転校早々何をしているんですか! 全く貴女は……。」

「え、あ……。」

 何故土産屋君はそんな事をしたんだ。まったく余計な事をしてくれたものだ。

「銘柄市さん。とにかくその、録音機? みたいなものは没収ですよ。」

「持っていませんよそんなもの。」

 何せあれは口真似である。証拠品なんて物は存在しない。

「そんな事よりも、先生って若くてお綺麗ですよね。」

 という訳なので、話を逸らしてしまおう作戦。開始。

「話を逸らさないで下さい。」

「先生、可愛いです。凄く、物凄く可愛いです先生。」

「や、止めてください。何なのですか銘柄市さん。私は本気にはしませんよ。」

「いいえ先生本当に可愛いですよ。可愛さの秘訣教えて下さい先生。」

「そんなものないですよ! そんなことより銘柄市さん。」

「認めてくれましたか先生。そうなんですよ、先生は可愛いんですよ。」

「止めてください銘柄市さん。」

 顔を若干赤くして取り乱す先生を見ると、普通に冗談なんて抜きで可愛いのだろうと思う。

「それに、そんなに感情のこもっていない褒め殺しなんて私には効きません。」

「いえいえ本当に可愛いですよ先生。今のむっとした仕草なんてもう、もしも私が男だったらイチコロですよ先生。可愛い可愛い可愛い可愛いですよ先生。」

「もう、どうでもいいことです銘柄市さん。そんなに私に怒って欲しいならいっぱい怒ってあげますよ。いいですか?」

 その後結局、私は十分近く叱られたのであった。多分余計な事を言ったせいだろう。今度からもしもこういう事になったならば、素直に普通に下手な抵抗などせずに怒られよう。

 しかしまあ、私は全く反省するつもりも止めるつもりもないのだが、正直叱られるのは嫌だ。

 そしてこの先生に時間前にチャイムが鳴るというこの技が通じなくなってしまったではないか。今回は何とかごまかしたけれど、もしまたチャイムが時間前に鳴るような事があれば、そうなったらまず私が疑われるだろう。土産屋君。いつも何を考えているのか解りませんが、取りあえず彼には後で痛い目を見せよう。と、この時私は強く強く思いました。

「……解りましたか銘柄市さん?」

「あ、はい。解りました。小匙川先生。」

「では、放課後に「部活動補助係」の説明がありますから、二階にある「係活動用教室」へ来て下さいね銘柄市さん。」

「はい、放課後に二階の教室ですね。」

 やっと先生から解放された私は、教室へ戻る。

「て、あれ? 放課後って今ですよね。」


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