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掃除中にての会話

 

 そして昼食の時間は終わり、俺は午後の授業を無難に終えた。

 放課後前の「掃除」の時間。掃除場所、「教室」にて。

「掃除って、こう毎日してもやはり次の日には汚くなってしまいますよね。」

 会話を投げかけながら掃除中にマスクをして、埃に対して完全防御を試みる銘柄市さん。

 それを横目で見ながら、俺はその会話を繋げる。

「そうですね。「ゴミ」と言うものは結局いつまでも増え続ける一方です。」

「困ったものですね。このまま行くと冗談抜きで、地球はごみになってしまいますね。」

 銘柄市さんは「こう」、と手を大きく広げるジェスチャーを披露しながら語る。

「この調子でゴミが増え続けたら、「水の惑星地球」なんてお洒落な呼び名ではなく「ゴミの惑星地球」みたいな残念極まりない星になってしまいますね。」

 銘柄市さんは相変わらず声のテンションを変えずに淡々と口を動かし続ける。

「そうですね。」

 彼女はこんなに早口で喋っていて、よく噛まないものだなと感心した。

「それはそうと土産屋君。私は転校生なのに、何故周りの人は寄って来ないのでしょうか?」

 ほうきで器用にゴミを集めながら、ふと思いついた様に短い黒髪を揺らしながら首を傾げ、話を切り替えてくる銘柄市さんは、「つまらない」と言った様な雰囲気を出す。

「知らないです。」

 机を運びながら答える俺には、彼女の考えている事が解らない。意図が汲めない。

「転校生と言えばあれですよね。ちやほやされて、揉みくちゃにされて長々と質問攻めにされるものですよね。それがこうも周りが無反応な対応だとがっかりですよね。」

「そうですか。」

 銘柄市さんは如何どうやら転校生を誤解しているようだ。と、そう思った。

「で、じゃあこのゴミはそこのゴミ箱でいいのですか? 土産屋君。」

「ああはい。当たり前にそこです。銘柄市さん。」

 無駄な質問をした少女は、大きく「燃えるゴミ」と書かれている屑籠へゴミを入れる。

「ああ、このごみ箱の中もういっぱいですね。こんな感じで地球がゴミでいっぱいになる日も近いですね。土産屋君。」

「まだそのゴミのくだり続いていたんですか? 銘柄市さん。」

 ゴミ箱の中を覗き込む銘柄市さんは、如何やらゴミの話が好きなようだ。

「あ、土産屋君。このゴミの中に何か入っていますよ。」

 そう言いながらおもむろにゴミの中に手を突っ込む少女。

「ゴミを漁らないで下さい。銘柄市さん。そして水道へ行って手を洗って来て下さい。というか、そんな事をしているからクラスメイトが無反応なのでは、というか既に引かれているんじゃあないですか? 銘柄市さん。」

「……そうですかね。あ、取れましたよ土産屋君。」

 人の忠告を全く聞き入れない銘柄市さんは、結局ゴミ箱から何やら取り出した。

「土産屋君。未開封の飲み物が入っていました。」

 そう言い、飲料の入ったペットボトルを此方に向ける少女は、ふと考えてから口を開く。

「……飲みますか?」

「いいえ。」

 流石にゴミ箱の中に入っていた飲み物を飲むのは正気ではないと思う。

 まあ、どうしても飲まなければならない状況ならば躊躇はしないだろうが、今現時点で、この状況でゴミ箱の中に入っていた飲料を飲もうとは思わない。俺はそんな常識外れな人間ではない。そしてそんな事を普通に目の前の銘柄市さんにもしては欲しくはない。

 そして銘柄市さんは言う。

「そうですか、もったいないですよね。どうしましょうか。私にはゴミ箱の中に入っていた飲料を飲む趣味はないですし、困りましたね土産屋君。」

 如何やら普通にその飲み物を飲んだりはしないようで安心はした。

「そうですね、もったいないですが捨てましょうか銘柄市さん。そして手を洗ってきましょうか銘柄市さん。掃除を続けましょうか銘柄市さん。」

 ここで俺は銘柄市さんへ喋り、畳み掛ける。

 すると俺のその台詞を聞いた銘柄市さんは、

「……解りましたよ。中身を捨てるついでに水道へ行って来ます。」

 と言って、少女は廊下へ走って行く。


 そして数分後、机を前の方へ運び終わる頃に丁度銘柄市さんは戻ってきた。

「ペットボトル用のごみ箱とはこれですか? 土産屋君。」

 と、教室に入りながら少女は結局聞く。

「そうですね、はい。それですよ銘柄市さん。」

 またもこのやり取りをしたのち、「ペットボトル」と書いてある紙が貼られた容器へ中身の無くなった透明のペットボトルが捨てられる。

「で、それはそうと唐突ですが。土産屋君はどうして一人暮らしなんですか? さっき弁当の話の時に言っていましたよね、土産屋君が一人暮らしだと。」

「……一人暮らしをしている理由。ですか? いきなりですね銘柄市さん。」

 実際に唐突に出された質問に、若干の間を俺は開けてしまった。と言うかゴミの中に手を入れながら聞く事じゃあないだろう。が、まあ普通につい昨日知り合ったばかりの相手に振る話題としては平凡なものだったので、俺はすぐに答える。

 淡々と同じトーンの発声で、長めの文を、言葉を紡ぐ。

「それは……簡単に言うと、母は結構前に死んでしまっていて父しかいないんですが、あの人は基本家に帰ってこないので実質一人暮らしと言うだけです。まあそれが理由ですね。」

 簡潔に答えたつもりの俺は、運んだ机を置き、また別の机を運ぶべく移動する。

「……そうですか。」

 すると自分から聞いた割には素気ない反応を見せた銘柄市さんは、続けてまた前の話とは何の関係もない、脈絡のない質問する。

「土産屋君は何の部活に所属しているんでしょうか?」

「帰宅部です。」

「……それは無所属って事ですか? この高校にはそれがあるのですか?」

 急にここで、少女の雰囲気が明るくなる。無駄に食いついている事が、なんとなく伝わる。

「……この高校には帰宅部があるんですか。それは良い事です。第三高校は部活動の入部が強制で必須でしたから。そうですか、帰宅部ですか。という事はすぐに帰ることができますし、願ったり叶ったりですね。よし。私も帰宅部に入ります。じゃあ私はその旨を今すぐにでも担任の先生に伝えに行きますね。じゃああとは宜しくお願いです。土産屋君。」

 そう長々と無表情に言い残し、かき出した埃を一か所に集めてから箒を俺に押し付けた。

「では、行ってきます。」

 そして速攻でマスクを外し、おそらく職員室へ向かうべく走り出す少女。

「あ、言い忘れましたが……。」

 よって、俺が言いかけたこの言葉は、この時点で見えなくなったその少女を、止めることは出来なかった。少女の耳には声が届かなかった。

 まあ俺が伝える情報は最後まで彼女に渡らなかったが、すぐに解る事だ。問題ないだろう。

 そして少女を見送った俺は、掃除を続ける。


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