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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
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97話:しふぉんVS愛美

 展開された極大の【力場】に、愛美は、若干驚くが、全盛期のしほりの実力を考えれば、何もおかしくないことに気づく。愛美は、同様に、極大の【力場】を展開させる。愛美自身は、攻撃に向いていない戦い方をするのだが、この塔には、「夢見」の力が作用している。それは即ち、その一端ならば、愛美にも操れるかも知れないということである。


「【力場】収束、モード・大型銃撃(バスター)!」


 しほりが、攻撃の態勢に入る。ステッキを構え、その前に【力場】を重ね合わせ、回転させ、【力場】の力を相乗的に跳ね上げる。大きな力の塊が球状に収束される。愛美は、撃ち放たれる前に、先手を取る。


「【力場】収束、周辺術式(アナザー)制御を自展術式(マイン)回路に投影(コピー)。……っ?!この術式って黙示録の櫓の術式?!」


 自分のステッキの周囲に存在する力を制御しているシステムを自分のステッキにコピーした愛美。そのシステムが、かの夢見櫓だと知り、驚愕するも、構えを崩さない。


最終砲撃散弾(エン☆ド)!」


 しほりのステッキから放たれた無数の【魔力】と【力場】の複合砲撃に、愛美は慌てて、夢見櫓のシステムを利用した障壁を構成する。


「収束【力場】の4分の1(クウォーター)を【幻影なる蜃気楼(ファンタジア)】へ接続(コネクト)。周囲【力場】に加算する(プラス)周辺【魔力】によって、【幻影なる蜃気楼(ファンタジア)】を顕現!」


 即時に極大の【力場】の四分の一と周辺に散らばった【魔力】を寄せ集めて、ファンタジアを形成する。すると、見えない壁が現れ、愛美の位置を揺らがして相手に見せる虚像の壁が出来上がる。その壁自体にも防御性能があるため、ちょっとやそっとの攻撃は通らない。


撃て(ファイア)ッ!」


 しほりの砲撃が威力を増すように光り輝いて愛美の方へと飛んでくる。それが【幻影なる蜃気楼(ファンタジア)】に衝突し、【幻影なる蜃気楼(ファンタジア)】もろとも霧散した。


「収束【力場】の4分の3を【幻想砲撃(アルカディア)】へ接続(コネクト)。周囲【力場】に加算する(プラス)周辺【魔力】によって、【幻想砲撃(アルカディア)】を顕現。周囲全方位(オールレンジ)に展開、再接続(リコネクト)。【夢ならざる夢(リアル)】を常駐(ポーズ)。コード【愛深櫓】、【愛深き者(マナカ)】起動。【力場】拡散を抑制、不足【力場】を貯蓄(チャージ)全砲門(オールバスター)、一斉砲撃、撃て(ファイア)ッ!」


 しほりを囲むように四十八の砲門を置かれた【幻想砲撃(アルカディア)】は、急速に【力場】を展開して、しほり目掛けて一斉砲撃を開始する。一発一発の威力は、山河を砕くほど。床や壁に着弾すれば塔も危ういのだが、そんなことは一切気にしていない。


「にゃんと!」


 しほりは、一斉砲撃に驚きながら、次の最善の一手を考えた。そして、考え付いたのは、曲げること、だった。


「【力場】収束、【魔力】回路全展開(フルオープン)!【力場】を反射(リフレクト)へ、【魔力】を制御(アシスト)へ!【反射表層面――重界式】を周囲に全力全方位(オールラウンジ)展開(オープン)!」


 しほりは自分の周囲に、全ての力を反射し別の方向へと跳ね返す術式を最大展開する。それも多重に。そして、砲撃が始まる、その瞬間、一番上の層の反射を切って素通りさせる。


――ギュルゥン!


 まるで、何かを巻きつけるような音を上げながら四十八の砲門から【魔力】と【力場】の複合特殊砲撃が放たれた。


 それは、しほりの一番上の層の術式を素通りする。そのまま、二番目の術式に当たった瞬間、しほりは、一番上の層の術式を元に戻す。それにより、全ての砲撃が【反射表層面】の間でぶつかり合い消滅する。


「くっ……、コード【幻想櫓】!【夢溺れる者(ムゲン)】起動。【天より雨の如き剣(ムゲツ)】に全ての【魔力】を補充(チャージ)。【天より雨の如き剣(ムゲツ)】で全てを終わらせるよ!」


 【天より雨の如き剣(ムゲツ)】。後に【夢月(むげつ)】と呼ばれた刀の名付け元、由来である。


「じゃあ、まなちゃんがその気なら、こっちも全身全霊(フル)でいっくよ~!」


 そう言って、しほりが、己の術式を最大解放する。フロアの大気が揺れ動く。全てがざわめき出す。


「【早神速雷(シルファ☆リオン)】!」


 フロア全体に雷撃が走る。それとともに、風が渦を巻き、空間が揺れた。それこそ「シューゼル・S・シルファリオン」、【シヴァルザの足を貰った者】、【シュラードに祝福を受けし者】である彼女の面目躍如と言った力だろう。


全刀放出(オールリバース)!」


 愛美は、【天より雨の如き剣(ムゲツ)】を放つ。フロアの上空に、ぽっかりと空いた穴のような場所から光の刀が無数に現れた。


「行っけぇえええ!」


 しほりの叫びとともに、フロアを風雷が迸る。だが、それを天井から降り注ぐ刀の雨がかき消した。


「きゃうっ!」


 しほりが、ころりと転んだ。そして、そのまま白い光の粒子となっていく。そんな状態のしほりが声を洩らす。


「ありがとね、まなちゃん。……わたし、待ってるよ」


 それは、もしかしたら、石化したまま眠るしほり本体の意思だったのかも、しれない。そして、こてり、と床に転がりこむ愛美。愛美は声を洩らす。


「しふぉ、待っててね。必ず、王司さんと……」

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