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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
92/103

92話:詩春VSチーム三鷹丘

 第七楽曲幸福神奏・第七典神醒存在・【夢見櫓の女王】白城詩春。


「白城……っ?!白城王城の血縁か?」


 清二の言葉に、詩春は、「う~ん」と唸った。ついでに、少し考えるような仕草をしてから、清二に言う。


「さあ?わたしの子孫なのかも?あ~、違う。わたし、生娘(きむすめ)だわ」


 自称生娘の白城詩春。生娘、おぼこや処女とも言う。確かに詩春は、性経験はなく、子供もいない。親もなくなっており、従姉妹の橘家に厄介になっていたし、橘の家は白城とは完全に関係を断っていた。その上、従姉妹の両親も亡くなって、璃桜だけが唯一の縁者だったので、血縁関係があったとしても、凄く遠縁になるだろう。


「まあ、零士ちゃんとわたしの子とかだったらいいな、ってゆー妄想?まあ、とりあえず、この夢見櫓、本領を発揮していないうちにどうにかしたほうが身のためよ?」


 清二は知っていた。夢見櫓と言うものの能力を。恐ろしさも、知っていた。それは、人智を超える力にして、個人が所有してはならないほどの恐ろしい力。


 ――「夢見櫓」――。それは、支配の力。人の視覚も、嗅覚も、触覚も、聴覚も、味覚も、第六感ですら、支配してしまう強欲な力。目の前にある全てを完全に支配するための悪魔のような力。それこそ、人を手玉に取り、自由自在に操るための力なのだ。


 白城の強欲をまさしく体現した、白城のための力。


「夢見櫓とはよく言ったもんだな」


 清二の言葉。くすっと笑う詩春。清二は言葉を続ける。


「人を思うままに夢へ誘う。目の前にあるのが本当か嘘か。聞いている声が本当か嘘か。触っているものが本物か偽者か。感じている感覚が本当か嘘か。そして、今覚えている記憶が嘘か本当か。例えば、あんたが俺に、俺はあんたの(しもべ)だって記憶を見せれば、俺はあんたの(しもべ)になっちまうんだろ?」


 清二が言うと詩春は、きょとんとして、そして、考えだす。ブツブツと呟く言葉の断片が聞こえる。


「なるほど、(しもべ)。性奴隷。いいわね……。イケメンだし……」


 不吉なことを聞いた気がして、清二は身震いする。そして、あんな例を出さなければ良かった、と心の底から思った。


「なんかやばそうな感じなんだが、行くぜ《蒼天の覇者の剱》!」


 清二の髪が、瞳が、体内に展開された【蒼い力場】によって蒼色に染め上げられる。【蒼刻】と呼ばれる力。そして、清二の手に握られる一本の剣。淡い蒼色に輝く、その劔の名前こそ、【蒼王孔雀(そうおうくじゃく)】。【琥珀白狐(こはくびゃっこ)】、【緋王朱雀(ひおうすざく)】と並ぶ三刀一対の大剣。かつて、三神へと至った彼らが三神になる前から愛用していた伝説の劔だ。


 清二の持つそれは、ダリオスの創ったデュランダルの模倣である《死古具ダリオス・アーティファクト》の《殺戮の剱(デッド・ソード)》と蒼天の創った模倣品の七本の聖剱の中の一本である《切断の剱(デュランダル)》から創り上げたものである。本物と同等のデュランダルに、【蒼き力場】を流し込み、【蒼王孔雀】へと造り替えたもの。さらに、そこに、先日、某世界にて手に入れた本物の【蒼王孔雀】を砕き混ぜ込み、完全な【蒼王孔雀】としたものが、今、清二の手にあるものだ。


「ふぅん、まあ、害蟲(がいちゅう)相手よりも幾許か面白そうかなぁ」


 そう言って、笑う詩春。詩春はつくづく、自分が表面上いくつもの人間性を持っているな、と自身で呆れる。


「うん、今日は、堅苦しい神醒存在みたいな口調は、一切なし。いつもの、わ・た・しで行っちゃうよ~」


 かつて、夢の世界での第七典神醒存在は、ある程度の恥ずかしいと言う気持ちや、神醒存在が集まってきたときに偶然なわけがないと怒ったりするような、真面目な性格をしているように思えた。しかし、それもまた、詩春の一面に過ぎない。詩春の化けの皮は一枚や二枚ではない。真面目、ひょうきん、変態、姐御肌、天才、戦闘狂、甘えん坊、冷徹、それら全てを持ち、全てを気分で使い分けるのが白城詩春と言う精霊の人間性なのだ。精霊なのに、人間性と言うのもおかしな話だが、元を辿れば、彼女達は全員が人間である。聖然り緋奏然り。


「魔装鎗昆・夢見櫓の威力、とくと見よ!ってね」


 【白夜の力場】が展開される。それは、精神に直接関与する【力場】。夢見櫓に通常の【力場】を与えることで発生する異常な【力場】なのだ。


「いや、これは、まずいな」


 そう清二が呟いたのも無理は無い。【蒼き力場】で【白夜の力場】の干渉を防いだ清二はまだしも、他の全員が、夢見櫓に囚われる。


「ありゃ?取り残しがいちゃったか……。ねぇ、ところで何で、わたしが第七楽曲幸福神奏の精霊に選ばれちゃったか、分かる?」


 清二に問う詩春。その問いに対して、清二は、苦々しい笑みを浮かべて、言いたくないことを言うように答えた。


「何でかって?そりゃ、【夢見櫓の女王】と謳われていたからだろ?嫌なことは忘れる、無かったことにできる、永遠に覚めることの無い夢を見続けられる。それが幸福だからだろ?現実は残酷だ。だから夢は幸福。もしあんたを選んだのが神様って奴なら、そいつは、ホント、現実を知り尽くした神様なんだろうぜ。現実が如何に残酷か知っている、そんな神様だ」


 清二の言葉。清二の先祖も神なのだが、その神が何をしたのか、三神が何をしたのかは、知れた話である。三神が神醒存在を選んだわけではない。もはや、その前に既に神醒存在は存在していたかもしれないのだ。そう言うと、おかしな点が生まれてくる。聖が生まれたのは、確実に三神が生まれた、いや三人が神に至った後である。それは、当たり前のことなのだ。初妃と蒼天の間に子供ができたのは、蒼天が神になった後であり、つまり二人の子孫である聖がそれよりも前に存在しているわけが無いのだ。これに関しては、先代がいただの、生まれるまでは空位だっただの、諸説ある。


「たぶん、正解~。神様って夢があるかと思いきや無いよねぇ」


「いや、夢があるからこそあんたを幸福の象徴に置いたんじゃねぇのか?」

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