09話:神装の魔剣
七峰紫苑と言う女性は、謎が多かった。ただ、本人にも分かっていないことが多すぎる。それゆえ、答えが出ない。
「ただ、青葉君が先ほど話していた方が言うように、何か、わたしと青葉君は似ているんです」
王司はてっきり、シンクロを使っているから、王司の思考が紫苑の思考と重なり、王司に似ているのかと思ったのだが、どうやら違うらしい。シンクロする以前に、似ているらしいのだ。
「もしかしたら、凄く遠い血縁かもな」
そんな適当なことを言った王司。しかし、王司の発言は意外と的を射ていたのかもしてない。
「まあ、それはそれで、嬉しいです」
目を輝かせる紫苑。
「もう一人、弟が欲しかったんですよ」
頬に手を当て、にこやかに笑う女性に、王司は、何も言えなくなった。またしても絶句したのだ。
「わたしの《古具》は、《神装の魔剣》」
そう紫苑が言った瞬間、紫苑の手元に刀身が輝く透明なクリスタルで形成された二対一刀の双剣が現れる。片方の柄は青。片方の柄は赤。
「何故、わたしの《古具》が剣、なのでしょうね。《古具》に目覚めるまで、剣どころか、棒すら握って振るったことはないのに」
それは王司も一緒だった。せいぜい、授業で剣道の竹刀を握ったことがあるくらいで、他に剣にまつわる自身のエピソードは無い。
「そして、何故、これほどまでに、わたしの手に、この双剣が馴染むのか、それが不思議でならないんですよ」
王司も同じだった。あの大剣は、王司の手に馴染んでいた。いや、馴染みすぎていた。剣人一体。剣と己が一つであるように感じるほど、馴染む。
「《古神の大剣》」
王司は自身の《古具》を呼び出した。銀色の煌きを放つ大剣が、王司の手元に、現れた。
「俺も、この大剣が手に馴染むことに疑問を覚えていた。そして、何で、この《古具》に選ばれたのかも」
握る大剣。そして、王司は言う。
「なあ、試しに、稽古してみないか?練習試合。直当て禁止」
王司の提案に、あまり乗り気そうではない紫苑。しかし、一度、振るってみたい気もあった。
「よし、じゃあ」
「ええ、やりましょう」
二人は、自然と剣を構えていた。構え方など、知るはずもないのに。王司は、両手で《古神の大剣》を握り、体の手前で、構えを取る。剣道で見合っている時のような体勢。一方、紫苑は、《神装の魔剣》を両方逆手に持って、トンファーのような握り方をして構えていた。それがいつもやっていた姿勢であるように、自然に構えていた。
「ハァ!」
王司から切りかかる。上段から一気に振り下ろした。それを、腕を交叉させるように前へ出した紫苑の双剣に防がれた。逆手に持つことで、刀身だけで受けるよりも、腕を支えにし、より重たい一撃を防げるようにしたのだ。それも、本能的に。それは、普段から、相手に攻撃をさせ、後攻することになれた人間であることを示している、のだが、無論、紫苑は剣を振るうのは初めてである。
「きゃっ」
紫苑が押し負けそうになるが、そこで、王司の足を払う。急に力を入れていた方に加重され、バランスが崩れる。
「うおっ」
思わず王司は、声を上げてしまう。そして、剣先を地面に突き立て、その反動で、バランスを直す。しかし、そこに紫苑が、右手の剣を軽く上に投げ、順手に持ち替えた。
「せいっ!」
そのまま紫苑は、突く。刀身があまり長くない双剣は、一本ならば、振るよりも突いた方が、威力が出る。
「くっ」
王司は、咄嗟に《古神の大剣》を地面から抜こうとするも、間に合わないと悟る。そして、抜かずに、身を屈め、盾のようにし、まず、突きを凌いだ。そして、刺さっている刀身の先を蹴り、地面を抉りそのまま土を巻き上げながら、剣を振るう。
「ふっ」
その土を双剣で払う。しかし、大剣の切っ先は、紫苑を捕らえている。そして、紫苑に直撃する寸前で、止まった。
「……っ!」
息を切らす二人。自分達が行っていた行動が、現実のものかどうか、自分達でも分からなかった。
「今のは……」
「なんでしょう。まるで……」
二人は、まるで、過去にこのように対峙したことがあったかのような、そんな気がした。
「い、今のは、本当に俺か……」
珍しく狼狽して、声が震える王司。紫苑の声も震えていた。それどころか、全身が震えている。
「わ、わたし、今、剣を……」
二人して、驚愕に陥り、そして、うろたえる。
「青葉君、わたし……」
「ああ、俺は……」