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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
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89話:第一階層

 そして、彼らは、塔へと足を踏み入れた。塔の入り口、大きな門をくぐるなり深紅が奇怪そうに呟いた。その表情は、なんか釈然としない、と言う表情だった。


「蒼天回廊じゃないな」


 蒼天回廊とは、霧を起点に無限に続く廊下を生み出す結界型のトラップだ。前回、年配組ことチーム三鷹丘が訪れた時は、まんまとかかってしまったので警戒していた深紅だが、そんな罠は無く拍子抜けだった。


「ああ、だが、警戒して損だった、とは言わねぇよ。警戒していて無駄になることは無いからな。ありがとうございます、深紅さん」


 清二がそう言って、深紅に微笑んだ。それに対して深紅は頬を少し染めてしまい、慌ててそっぽを向いた。その様子をジト目で見る彼方の視線が痛かった。


「まあ、気を抜かないで……っ?!」


 気を抜かないで行くぞ、と深紅が言おうとした瞬間、深紅が敵の気配を察知した。察知したのはサルディアも同じだった。


(敵ですわ!大きな【力場】が一つ。……この反応?!鳳泉(ほうせん)夜空(よぞら)ですわよ!!)


 サルディアの言葉に、王司が、思わず確認の意味を込めて言う。


「鳳泉夜空っ?!」


 その言葉に、一斉に、皆が王司の方を向いた。そして、王司の視線の先を辿る。無論、王司にも夜空の姿が確認できているわけではないが、気配の方向は分かる。そして、その視線の先に漆黒の薄い布地の服を着て、羽織を羽織った女性が現れた。


 碧色の長い髪先をカールさせたお嬢様のような見た目。新緑の様な深緑色の瞳。太陽を目掛けて伸びる草のように長く伸びた睫毛。忍装束のように布地の少ない漆黒の衣装。見える真っ白な肌。そして、羽織っている《二》の文字の刻まれた羽織。


 羽織は、時空間統括管理局飛天王国理事六華直属烈火隊の一から四までの隊長の証。《二》は、二番隊、二門を表している。


「どーも、天龍寺元三門さん」


 くすっ、と笑いながら言う夜空。その様子は、まるで深紅を馬鹿にするようだった。しかし、深紅はそれを特に気にしない。


「おいおい、初っ端から大物が出てきやがったな。お前くらいの奴は、上の階で待ってるべきだろ」


 チッと舌打ちをしながら深紅は、夜空を睨みつける。そして、王司たちへ向けて言葉を発する。


「おい、お前ら、先に行け。コイツの相手はオレがする」


 深紅の言葉に、全員、先へと向かう階段を上っていく。そのとき深紅が「ちょ、え、オレの心配ちょっとくらいしてくれてもいいんじゃね?」と言う物悲しげな表情をしたが、誰一人気にかけなかった。


「あら、いいんですか?こちらは、二門。貴女は元三門。序列的に考えて、どー考えてもこっちが有利。それに、貴女の武器って《古具(アーティファクト)》ってやつなんですよねー?」


 嘲笑う夜空。そう、確かに、夜空は二門だ。そして、深紅は元三門。序列的には夜空のほうが上だろう。だが、よく考えて欲しい。深紅の代の二門は植野春夏。春夏の実力は、通常時の無双にも匹敵するほどだ。だから深紅は三門だった。つまり、序列は、あまり関係ないのだ。確かに【氷の女王】は無双に並ぶかもしれない。だが、二門同士が同じ実力なわけがない。むしろ、あれほどの実力者が二人いたほうがおかしいのだ。


「へっ、序列だぁ?そんなもん、関係ねぇよ」


 そうやって笑う深紅。それを強がりだと思った夜空は、両手に剣を生む。それは、夜空の能力。


「《夜空の朝日(フェリアドス)》」


 その剣は、一本は、輝かんばかりに白い光を放つ白色の長剣。名を《朝日の剣(ドーン)》。効果音ではなくDAWN。そしてもう一本は、禍々しい黒い気配を放つ短剣。名を《夜空の剣(ダークネス)》。DARKNESS。


「じゃあ、オレも、行くとするか!」


 そう言って、深紅は《古具(アーティファクト)》を呼び出す。鉄の鎧が深紅の身を包む。右の籠手には赤い宝石。左の籠手には青い宝石。胴体には黄色の宝石。右足には茶色の宝石。左足には緑色の宝石。合計五つの宝石がついている。


「《龍王の遺産(ドラゴン・グリッター)》!」


 重い鎧を身に着けた深紅に向かって、身軽な夜空が、急接近する。しかし、かつて、無双が……、清二が、対峙したときに推測したように、鎧だけを出す《古具》ならば、それは、遠くへの攻撃方法を持っていることになる、と。それは、重いのに動かなくてもいい攻撃手段があるから、だ。


「《火竜の業火ドラゴニック・ブレイズ》!!」


――《Blaze(ブレイズ)》!


 接近してきた夜空に向かって真っ赤な炎が放射される。それをらくらくいなした夜空だったが、その炎は罠だった。


「かかったな」


 にやりと深紅が笑った。それに嫌な予感を感じた夜空。だが、もう遅い。右籠手の宝石が光を放つ。赤色の光を。


「燃え尽きなっ!」


 深紅の言葉とともに、炎の竜巻が夜空を包んだ。その業火は、全てを燃やす龍の業火、の模倣品。


「くすっ、やっぱり、三門はその程度かー」


 夜空の声がする。そして、パァアンとけたたましい音とともに、炎が弾けとんだ。高速の剣撃。それが夜空の武器。夜空は、元・時空間統括管理局特務調査部隊の人間だけあって、速さと静さと気配の薄さには定評がある。それゆえの剣速。しかし、夜空は、それだけではない。《光》と《影》。その二つを得意とする異常者だ。

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