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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
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87話:聳え立つ巨塔

――カラン、カラン


 唐突に世界の時が停止する。祐司と八千代の一件から暫く経った、夏休みを目前に控えた王司たちの世界は唐突に停止する。そして、古の地、三鷹丘に聳え立つ巨大な塔。何処からともなく、轟音とともに世界を揺らし現れたそれは、【天宮の塔】。塔の主は、蒼刃蒼天。創ったのは第七典神醒存在。その塔の天辺には、《夢見櫓》がある。


 ――終焉の地――。この塔は、かつて王司の父、青葉清二が仲間らとともに乗り込んで、ダリオス・ヘンミーを打ち倒した場所でもある。そして、王司の先祖、蒼刃蒼天の最後の地でもあるのだ。


 そんな塔の存在に気づいたのは、生徒会室で徹夜をした王司と紫苑だった。王司が書類に目を通して、時計に目をやったときに、動いていないことに気づき、時計が止まっているのかと思い、校庭の時計を確認しようとした時、眼前に聳え立つ巨大な塔に気がついたのだ。


「うおっ」


 思わず驚き声を上げた王司の思考を読み取った紫苑が、巨大な塔の存在を知り、慌てて窓から外を見た。


「な、なんですか、これは……」


 その大きさに、紫苑は目を見開いた。巨大なダンジョンが、突如目の前に現れたようで、眩暈がした。サルディアが、王司たちとは別の意味での驚きの声を上げる。


(【天宮の塔】……?!な、何故、これが再びここにあるんですの?!あれは、鳳泉(ほうせん)が管理していたのではなかったのですの?)


 鳳泉(ほうせん)とは、現在、時空間統括管理局飛天王国理事六華直属烈火隊二番隊隊長になっている春夏の後任のことである。


 そんなとき、生徒会室に眩い閃光が現れて、その奥からプラチナブロンドの髪を靡かせた女性が現れた。


「や、やっぱり……!」


 女性は、現れてすぐに窓の外を見ると恐ろしいものを見たように呟いた。そして、慌てて飛び出そうとする。しかし、そこを紫苑に止められた。


「って、きゃっ!」


 女性は、紫苑に手をつかまれ、飛び出そうとしていた窓の縁に頭をぶつけてしまう。そして、おでこを押さえて、子供っぽく立ち上がる女性は、そこで初めて、紫苑と王司を認識した。


「う~、痛い。だ、誰よ……」


 プラチナブロンドの髪を持つ女性。かつて、清二と出会った頃は、幼い少女の姿だったが、いまや、全ての制約が解かれ、普通に成長するようになり、とても美人に育った氷室(ひむろ)白羅(びゃくら)だ。


「それはこちらの台詞なんだが。ここは、三鷹丘学園の生徒会室だ。そして、俺は会計。こっちが会長。そして、あんたは部外者。何者か名乗って、状況を説明して欲しいものなんだが」


 王司の言葉に、白羅は、しぶしぶ、と言った表情で口を開く。ちなみに、この時点では、王司の顔をよく見ていないので、王司が清二の息子の「王司」だとは全く気づいていない。


「私は、氷室白羅。龍神の子の一人で今はチーム三鷹丘の一員よ」


 そう言う。そう、彼女こそ、龍神の子等の中で、【血塗れ太陽(ブラッディー・サン)】と同じく氷の龍をその身に宿した第六龍人種だ。


「チーム三鷹丘?それって、確か、親父達の……」


 王司のその言葉に、白羅がようやく王司の方を向いた。そして、王司の顔を確認して、目を丸くした。


「お、王司君?」


 白羅の言葉に、王司は「やはり親父の知り合いか」と確信を持った。





              ◇◇◇◇◇◇





 その頃、真希は、自宅で熟睡しているところを急に部屋のドアを開けて入ってきた母親の久々李(くくり)にたたき起こされた。


「ん~、なによ……」


 眠い目を擦りながら、真希は、リビングに入る。そしてそこに居た真剣な顔つきの両親を見た。真琴が口を開く。


「真希、大変な事が起こっているんだ、話を聞いて。僕ら、《古具》使いにとって、大変な事が起こっているんだよ。あれが見えるかい?」


 そう言って、夜中だというのに、開けっ放しのカーテンの所為でよく見える窓の向こうを見た。


「ん?……え?な、何あれ」


 真希の眠気は吹っ飛んだ。昨日まで何もなかったところに、突如塔が聳え立っているのだから流石に眠気が吹っ飛ぶ。





              ◇◇◇◇◇◇





 ルラと秋世は、天龍寺家の本家に顔を出していた。天龍寺の家の一室には、ルラと秋世の他に三人の女性が居た。


 天龍寺深紅。かつて、三門だった女性。無類の強さを誇る。


 天龍寺紅紗(くしゃ)。深紅の姉にして、彼方、秋世、秋文(あきふみ)の母親でもある。


 天龍寺彼方。清二の仲間で、秋世の姉である。元三鷹丘学園の会長でもある。


「また、あの塔がでてきやがったな。まったく、サボるとは思ってたが夜空(よぞら)の奴……」


 深紅がそうやってぼやく。それに対して、彼方は、焦りの表情で言う。


「あの塔、清二君達と一緒に登ったあの塔ですよ!あれがあるということは、もしかしたら奴が……」


 彼方の言葉に秋世もルラも危険だと言うことを感じ取ったのだった。

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