85話:二人の未来
王司の簡潔な話と言う名の長い話を聞き終えた祐司と八千代は、頭をフル回転させて、話を整理した。そのおかげで、どうにか《古具》の概念を理解できた二人である。【八咫鴉】は、《聖具》などの他世界的概念は、敵として、或いは味方としての知識を得ているが、《古具》のように、一個人が創った《創造物》に対しての知識はさほど無い。そのため、八千代も《古具》関連に関してはからっきしだった。
「しっかし、古具に関しては分かったが、王司、お前の相棒とやらはなんなんだ?七峰会長には声が聞こえてるみたいだけど、俺にはさっぱり聞こえねぇし」
祐司の言葉に、そう言えば、そっちの解説はしていなかったか、と王司は思い、暫し、考えてから、簡潔に言う。
「一言で言えば天使」
王司のとても簡潔な言葉に、祐司の目が点になった。そして、コイツ何言ってんの?と言う目で王司を見てから八千代達の反応を確認する。しかし、八千代は、理解している様子をしていて、祐司は、「え、理解できないの俺だけ?」と言う表情になった。
「ほら、前に、この話題一回してるぞ?」
王司の言葉に、祐司は記憶を漁りだす。「小さな頃から天使と共同生活なもんで」と言う王司の言葉を思い出した。
「そう言えば……」
曖昧な記憶のため、ぼんやりとしか覚えていない祐司は、王司にもう一度説明して欲しいんだが、と言うと、王司の代わりに八千代が口を開く。
「祐司先輩の考える天使とは少し別のものなのですけれど、神の使いではなく、それ個人で存在する高域存在です。人とは根本的に違う存在でもあり、しかし、人と似た構造を持つ存在だ、とヴェーダさんがおっしゃっていました」
そう、そして、王司のように、シンフォリアの存在に選ばれた者は「神遣者」、全ての《聖具》を記す【悠久聖典】に選ばれた者となるのだ。
「よく分からんが、つまり王司の相棒は、天使ってことか?」
祐司はあまり理解していないようだが、仕方のないことだろう。一般人には、すぐに理解できる話じゃない、と王司も思っていた。
「ああ、ようするにそう言うことだ。それも美人天使だ」
余計な言葉を付け足す王司。祐司とふざけ合う時の感覚で話しているが、方向性がどんどんずれて行っているのは、王司が徹夜で眠いからだろう。
「美人か。しかしな、王司。俺はいまや立派な彼女持ちだ。俺は、そんな言葉に惑わされない。八千代以上に可愛い女はいない!」
堂々宣言した祐司に、紫苑は呆気にとられ、八千代は頬を真っ赤に染め、王司は微苦笑を浮かべた。
「ラブラブだな」
そう言う王司。王司は、未だに、これと言った意中の女性がいないため、少しうらやましくもあった。そんな王司を心配そうに見る紫苑。
「王司と七峰会長ほどじゃないさ。言っとくけど、マジでお似合いだぜ?」
そう言う祐司とその言葉に何度も頷く八千代。ただ、王司は、どこか遠くを見るような目をして、言った。
「いや、俺にはやらなきゃならない事がある。それは、きっと、一生区切りのつかないことだと思う。だから、きっと俺は、誰かと結ばれることは無いと思う。せめて、あいつ……、【白王会】とやらとの決着をつけたら、一区切りつくんだろうが、肝心の奴等が、どこに居るのかすら分からないしな」
その言葉に、八千代が「【白王会】……、あの」と驚いていた。紫苑は、王司を見つめていた。
「あの……、【白王会】に一体、どのような」
八千代が言った。王司は、八千代を見た。そして、暫し考えてから、【八咫鴉】をあえて敵に回す必要は無いし話すことにした。
「昔、いろいろあってな。子供の頃、助けてくれた女の人が、【白王会】の【白城王城】って言う女に刺されてな。助けてくれた人が、最後に言ったんだ。正義を託すって」
その言葉に、八千代が、「まぁ」と驚いたように言った。
「その助けてくれた人は、霧羽未来って言うんだが」
「え?霧羽……。まさか、四門。いえ、前四門ですか……。あの、ですが、あの方は確か……。いえ、わたしからは何も言えませんね」
そんな風にブツブツと呟く八千代。
そうして、祐司と八千代の恋と嫉妬の物語は幕を閉じる。いや、幕を開けたのだろうか。




