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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
灼月編
85/103

85話:二人の未来

 王司の簡潔な話と言う名の長い話を聞き終えた祐司と八千代は、頭をフル回転させて、話を整理した。そのおかげで、どうにか《古具(アーティファクト)》の概念を理解できた二人である。【八咫鴉(やたがらす)】は、《聖具(セイクリッドアーク)》などの他世界的概念は、敵として、或いは味方としての知識を得ているが、《古具》のように、一個人が創った《創造物》に対しての知識はさほど無い。そのため、八千代も《古具》関連に関してはからっきしだった。


「しっかし、古具に関しては分かったが、王司、お前の相棒とやらはなんなんだ?七峰会長には声が聞こえてるみたいだけど、俺にはさっぱり聞こえねぇし」


 祐司の言葉に、そう言えば、そっちの解説はしていなかったか、と王司は思い、暫し、考えてから、簡潔に言う。


「一言で言えば天使」


 王司のとても簡潔な言葉に、祐司の目が点になった。そして、コイツ何言ってんの?と言う目で王司を見てから八千代達の反応を確認する。しかし、八千代は、理解している様子をしていて、祐司は、「え、理解できないの俺だけ?」と言う表情になった。


「ほら、前に、この話題一回してるぞ?」


 王司の言葉に、祐司は記憶を漁りだす。「小さな頃から天使と共同生活なもんで」と言う王司の言葉を思い出した。


「そう言えば……」


 曖昧な記憶のため、ぼんやりとしか覚えていない祐司は、王司にもう一度説明して欲しいんだが、と言うと、王司の代わりに八千代が口を開く。


「祐司先輩の考える天使とは少し別のものなのですけれど、神の使いではなく、それ個人で存在する高域存在です。人とは根本的に違う存在でもあり、しかし、人と似た構造を持つ存在だ、とヴェーダさんがおっしゃっていました」


 そう、そして、王司のように、シンフォリアの存在に選ばれた者は「神遣者(アーシャス)」、全ての《聖具》を記す【悠久聖典(アシャノス)】に選ばれた者となるのだ。


「よく分からんが、つまり王司の相棒は、天使ってことか?」


 祐司はあまり理解していないようだが、仕方のないことだろう。一般人には、すぐに理解できる話じゃない、と王司も思っていた。


「ああ、ようするにそう言うことだ。それも美人天使だ」


 余計な言葉を付け足す王司。祐司とふざけ合う時の感覚で話しているが、方向性がどんどんずれて行っているのは、王司が徹夜で眠いからだろう。


「美人か。しかしな、王司。俺はいまや立派な彼女持ちだ。俺は、そんな言葉に惑わされない。八千代以上に可愛い女はいない!」


 堂々宣言した祐司に、紫苑は呆気にとられ、八千代は頬を真っ赤に染め、王司は微苦笑を浮かべた。


「ラブラブだな」


 そう言う王司。王司は、未だに、これと言った意中の女性がいないため、少しうらやましくもあった。そんな王司を心配そうに見る紫苑。


「王司と七峰会長ほどじゃないさ。言っとくけど、マジでお似合いだぜ?」


 そう言う祐司とその言葉に何度も頷く八千代。ただ、王司は、どこか遠くを見るような目をして、言った。


「いや、俺にはやらなきゃならない事がある。それは、きっと、一生区切りのつかないことだと思う。だから、きっと俺は、誰かと結ばれることは無いと思う。せめて、あいつ……、【白王会】とやらとの決着をつけたら、一区切りつくんだろうが、肝心の奴等が、どこに居るのかすら分からないしな」


 その言葉に、八千代が「【白王会】……、あの」と驚いていた。紫苑は、王司を見つめていた。


「あの……、【白王会】に一体、どのような」


 八千代が言った。王司は、八千代を見た。そして、暫し考えてから、【八咫鴉(やたがらす)】をあえて敵に回す必要は無いし話すことにした。


「昔、いろいろあってな。子供の頃、助けてくれた女の人が、【白王会】の【白城(しらき)王城(おうじょう)】って言う女に刺されてな。助けてくれた人が、最後に言ったんだ。正義を託すって」


 その言葉に、八千代が、「まぁ」と驚いたように言った。


「その助けてくれた人は、霧羽(きりゅう)未来(みらい)って言うんだが」


「え?霧羽……。まさか、四門。いえ、前四門ですか……。あの、ですが、あの方は確か……。いえ、わたしからは何も言えませんね」


 そんな風にブツブツと呟く八千代。






 そうして、祐司と八千代の恋と嫉妬の物語は幕を閉じる。いや、幕を開けたのだろうか。

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