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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
灼月編
83/103

83話:嫉妬の終焉

 祐司と八千代は、とうとう、保健室で次の日を迎えてしまった。真っ暗な室内。電気をつけることは無い。空の星明かり、月明かりだけで十分だった。それだけで二人の世界には十分すぎる灯りだった。


「暖かい……」


 八千代と祐司は、保健室のベッドで一緒に寝ていた。制服に皺が入ってしまうが仕方が無い。その辺は諦めた。ちなみに、王司や紫苑は、頻繁に生徒会室で寝泊りしているため、制服の皺など気にしないレベルだ。まあ、酷い時は、龍神のいる次元の狭間で寝て、生活道具があるのでアイロンを掛けて、戻ってくることもある。


 そんなことを知らない祐司と八千代は、割と気にしていたが、それよりも二人の時間を大事にしたいと言う思いが強くなって、服を気にしなくなった。


「ねぇ、八千代」


「なんですか、祐司先輩」


 祐司が「八千代」と呼ぶようになったのと同じように、八千代も祐司のことを「祐司先輩」と呼ぶようになった。


「ん……、可愛いな、ってそれだけ」


 祐司の言葉に真っ赤になる八千代。そして、ふざけたように、祐司の頬をつつきながら八千代が言う。


「もぅ……。祐司先輩もカッコいいですよ」


 さながらバカップルの如く、二人は、いちゃいちゃした。その様子を誰かが見ていたら、いらっとするほどいちゃつきあっている二人。


「うっ……」


 でも、その甘い空間の終わりは突然に訪れる。苦しそうな声を上げたのは、祐司だった。突如、心臓を掴まれたかのような痛みがする。


「ゆ、祐司先輩!」


 そして、祐司の痛みは、熱となって全身を駆け巡る。痛みと熱さ。二つが同時に全身を襲い、苦しみに気を失いそうになる。


(こ、これが、もしかして……《恋女の嫉妬(レヴィアタン・ヘラ)》、か)


 祐司は苦しみの中で、自分の身に起こっていることを理解した。しかし、自分は八千代に【嫉妬】していないのに、何故こんなことになったのかが分からない。


「ゆ、祐司先輩……。……ごめんなさい。ごめんなさいっ、全部、ぜんぶ、わたしの所為です……」


 そう言って、ぽろぽろと涙を零す八千代。そして、八千代の右肩も疼きだす。熱い。ただ、熱い。二人は、熱さと痛みに苦しみながら抱き合った。


 不思議と和らいだ気がした。二人はぎゅっと抱きしめあった。深く深く、溶け合うように、抱き合う。


「祐司先輩……」


「……八千代」


 唇を重ねる祐司と八千代。痛みを忘れるように、唇を重ねた。


「……んん、んふぅ」


 二人の思いを確かめあうように、唇を重ねあう。


「八千代。もし……」


 そして、唇を離して、苦痛の表情を浮かべながら祐司は、言う。


「もしも、このまま、俺が死ぬんだとしても……、俺は……」


 若干の間が空く。そして、言う。


「俺は、君と死ねるのなら、本望だよ」


 その言葉に、八千代は、泣きそうになる。


「わ、わたしも、です。先輩……」


 そして、二人の中の熱は、最高潮になる。薄れ行く意識。溶け合うように、二人は――。


 薄れ行く意識の中、眩い、銀の日差しを見たような気がしながら、二人は、――。




              ◇◇◇◇◇◇





 二人は、朝日とともに目を覚ました。拍子抜けしたくらいあっさりと目を覚ましたのだった。


「あ~、恥ずかしっ」


 祐司は、穴があったら入りたい気分になった。


「まあ、その、生きていたからよかったじゃないですか……」


 そう言って、保健室で身だしなみを整えていた八千代が、保健室に付属している机の上を見て、あることに気づいた。


「え……?」


 二枚の紙に文字が書いてある付箋が貼ってあった。


「学内特別宿泊届け?」


 八千代の声に祐司も寄って来た。


「ホントだ。こんなの昨日の夜には無かったのに。何々?『お前等、泊まるなら届けを貰うくらいしろ。追伸、その力をどうにかしたければ生徒会室に届けを持ってきたときに教えてやる。王司』……だって?」


 驚愕する王司と八千代。





              ◇◇◇◇◇◇





 夜。王司は、サルディアとともに、【断罪の銀剣(サンダルフォン)】を持って保健室へ向かった。チリンと耳飾りを鳴らしながら、誰もいない廊下を歩く。手には二枚の紙。学内特別宿泊届けだ。この学園内の施設に宿泊する場合、後日提出、もしくは前日提出する書類だ。


「さて、と。【嫉妬】を斬るとするか」


(ええ、そうですわね)


 保健室に入る。苦しむ二人。王司は、銀色の光を放ちながら、彼らの【悪】を【裁く】。断罪、そしてそれは【正義】。


「【断罪の銀剣(サンダルフォン)】!」


 銀の光が、《恋女の嫉妬(レヴィアタン・ヘラ)》を一時的に無力化する。


「さあて、と、帰るか」


 王司は、そう言って、保健室を出た。八千代と祐司の寄り添う二人を見て、柔らかな笑みを浮かべながら。

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