81話:レヴィアタン
レヴィアタン。先にも祐司が言っているように七つの大罪で「嫉妬」を司る悪魔である。悪魔と言うことや、七つの大罪の「嫉妬」を司ることは、割と一般常識的に知っていることである。
では、七つの大罪について、それはどう言うものか説明しろ、と言われても説明できるものは、そう多くないだろう。それこそ王司のような特殊な知識を多く持った人間でもなければ、難しいだろう。
七つの大罪と言う呼ばれ方が一般的に定着しているが、英語やラテン語などの大元の言葉では「七つの死に至る罪」であり、それはすなわち、死に至る欲望のことであることから、日本のカトリック教会では「七つの罪源」と呼ぶ。
その原典は、四世紀、エジプトの修道士が記した八つの枢要罪である。枢要罪とは、枢要……中枢などのように大事な部分を表す枢、要と言う言葉の通り大事な部分を表す要、即ち、物事の最も重要なところと言う意味。つまり、物事において犯してはならない最も大事な八つの罪と言う意味である。厳しさの順序は「暴食」、「色欲」、「強欲」、「憂鬱」、「憤怒」、「怠惰」、「虚飾」、「傲慢」である。いろいろと矛盾しているのはわかっている。最も重要な罪と言いつつ八つある上に、厳しさに順位があるのだ。おかしな話だ。まあ、その辺は、七つの大罪とは関係の無いうえに、日本語に訳して「枢要」なので意味の相違などがあるのだろうから割愛するとしよう。
六世紀後半に、八つから現在の七つに直され、「虚飾」は「傲慢」の中に入り、「怠惰」と「憂鬱」は一つになった。そして、「嫉妬」が追加され、現在の「七つの大罪」と呼ばれるものになった。
日本では、海外の言葉を訳しているため、訳し方の違いなどにより、記載されている場所により変わる事がある。現在の日本で言われているものは、「高慢」、「物欲(貪欲)」、「ねたみ(嫉妬)」、「憤怒」、「貪食」、「色欲(肉欲)」、「怠惰」の七つである。
また、「七つの大罪」を悪魔や動物に関連付けることもある。
「傲慢(高慢)」。ルシファー。グリフォンやライオン、孔雀など。
「貪欲(強欲)」。マモン。狐やハリネズミなど。
「嫉妬」。レヴィアタン。蛇や犬など。
「憤怒」。サタン。ユニコーンやドラゴン、狼など。
「暴食(貪食)」。ベルゼブブ。豚やハエなど。
「色欲」。アスモデウス。サソリやヤギなど。
「怠惰」。ベルフェゴール。クマやロバなど。
※大罪。悪魔。動物。の順番で記す。
そして、書いたとおり「嫉妬」の悪魔はレヴィアタン。そのレヴィアタンについて知られていないことも多くある。
レヴィアタンは、悪魔とされることも有るが、旧約聖書に存在する海の怪物と同義である。良く聞く名前で言えば「リヴァイアサン」である。「ねじれる」、「渦巻く」と言ったヘブライ語が語源であり、大きな怪物とされる。その鱗はどんな攻撃をも弾くと言われていた。龍のイメージが強い場合、それは、最終ではないのに最終と言い続ける幻想なロールプレイングゲームの所為である場合が多い。イザヤ書のラハブ(海の怪物)やバビロニア神話……メソポタミア神話内のティアマトと混同、同一視の考えもある。また、ドラゴンとされる考えもある。
悪魔だと考えられるようになったのは中世以降である。元来のリヴァイアサンと同様、攻撃を通さない力から転じ、悪魔祓いが一切効かないとされている。
と、ここまでの話が、全て一般的なことである。ここから先は、《古具》やそれに関する事象でのレヴィアタンについてである。
例えば、レヴィアタンにまつわる《古具》はいくつも見つかっている。しかし、それらは、原典がレヴィアタンと言うだけであって、ほとんどに、《古具》を創った主である蒼刃蒼天の改良や改竄などが行われていて、あまり原典が残っていない場合が多い。
《無効の鱗鎧》。読み方に原典が一切残っていないため上、直訳すれば絶対の鎧である。ここからリヴァイアサンの伝承にたどり着くことはほとんど不可能である。効果は、無論、あらゆる攻撃を通さない鎧である。この点で、《古神の大剣》の力と矛盾するわけだが、この場合、《古神の大剣》だったら透過できず弾かれ、《勝利の大剣》ならば、鎧を無視して攻撃ができる、となるだろう。
《捩斬の三矛》。一撃で全てを捩じり切る三叉の矛。リヴァイアサンの「ねじれる」と言う名が原点になっているが、一切面影が残っていないため分からないであろう。
《滅祓の無効》。レヴィアタンの特性である悪魔祓いを一切受けない力。持っていてもあまり意味をなさない力である。
《恋女の嫉妬》。嫉妬の化身のような力であり、相手の嫉妬で相手の身を焦がす力。しかし、処理しきれないほどの嫉妬を抱えると自分の身を焦がすようになってしまう。そして、力が溜まりきると、――。
このように、幾多の力がある。しかし、形状をはっきりと持つものが少ないため、《勝利の大剣》の様に姿が複数ある例はない。




