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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
灼月編
75/103

75話:許されざる罪

 三鷹丘学園の一角。とある場所にて、――。


「はぁ、んっ、あっ……。っぐ……、ぁん」


 彼女は、苦しんでいた。右肩が焼けるように熱い。そして、その右肩には、深く深く、禍々しい黒色の呪印が刻まれていた。それが熱を持って身体を焼くように熱いのだ。彼女は、その呪印を烙印だと思っている。魔に手を染めた、自分の烙印。最初は、右肩に軽い蝶のような模様があっただけだった。それがしだいに広がり、いまや二の腕から胸に掛けて広がってしまっている。


「んぅ……、くっ……」


 そして、少女は、熱さと痛みに耐え切れず、気を失った。バタリと倒れる彼女。未だに右肩は、禍々しい呪印が熱を放っている。


「~♪」


 そこに、偶然通りかかった青年。彼は、日々、新聞になるネタがないかと校内のあちこちを歩き回っていた。本当に偶然だった。


「っ、大丈夫?!え~っと、この子は確か……」


 記憶を探るように彼女の名前を思い出そうとする。青年は、学内のほとんどの生徒の顔を記憶していた。


「あっ、烏ヶ崎(からすがさき)八千代(やちよ)さん。一年の」


 青年は、そう言ったが、しかし、彼女の返事はない。気を失っているからだ。青年は、慌てながらも、彼女を抱きかかえた。


「うおっ、何だ、熱っ」


 青年は、驚きながら抱えて、彼女を保健室へと駆け足で運ぶ。しかし、途中で保健室は、先生不在のため開いていない、と今朝言っていたのを思い出し、目的地を変更した。保健室以外で唯一寝られる場所がある部屋で、もし誰かいても知り合いである可能性の高い部屋。それは、そう、生徒会室である。


「失礼しますっ!」


 そう言ってノックもなしに、部屋に入るが、幸いなことに室内は空っぽだった。青年は、無断なのは悪いが、生徒会室の応接スペースにあるソファに彼女を寝かせた。


「ひとまず、これが精一杯だな」


 そう言って、青年は、制服の上を寝ている彼女にかける。そして、青年は、一度彼女の顔を見てから、「ふぅ」と息を吐いて立ち去った。






 彼女……八千代は、不意に眼を覚ました。痛む頭を押さえるように手を額に当て、身体を起こそうとする。しかし、上がる途中で訪れた眩暈に、起き上がるのを諦めた。そして、起き上がろうとしたことで、上に乗っていた制服のブレザーがずれて、乗っていたことに気づいた。


「これって……」


 八千代は、ブレザーの内ポケットから手帳がはみ出していることに気づく。妙に分厚く付箋だらけの手帳が気になって八千代は、取り出してみた。すると、表紙のところに、「月丘祐司の丸秘手帳」と赤文字で書いてあった。


月丘(つきおか)……祐司(ゆうじ)、さん?」


 くるりと裏面を見てみると、二年三組月丘祐司ときちんと記入されていた。八千代は、手帳を開いてみる。すると書かれていたのは、個人情報からガセネタまで様々なこの学園に関する知識だった。


「新聞……?」


 そして、手帳の合間に挟まった一枚の校内新聞。その新聞の一面に目をやると、記事:月丘祐司の記述があった。


「新聞部?」


 そう、月丘祐司は、新聞部の部員だ。そして、それが分かった八千代は、どうしよう、と動揺した。


「こ、これって、凄く大事なものなのでは……。だとしたら、困っているでしょうね……。あまり人と関わるのは……」


 そう言って、疼く自分の右肩を左手で押さえる。ドクンと脈打つ気がした。それを気のせいと自分に言い聞かせながらゆっくりと立ち上がった。


「月丘先輩……」


 そして、肩のソレを誤魔化すために、祐司のブレザーを抱きしめる。そして、そのブレザーを羽織った。


「あったかい」


 そう、「熱い」ではなく「あったかい」。久々の温もりと言うものに、八千代は、頬を赤々と染めるのだった。それが自分にとっての禁忌だと分かっていても。

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