73話:夢の少女
王司は、珍しく騒がしいクラスに、少し違和感を覚えつつも、さほど気にせずルラや真希と話をしていたのだが、そこに祐司が話に無理矢理入ってくる。
「お~っす、何だ、やっぱあの話してんのか?」
祐司の言葉に、違和感を覚える王司。そして、ルラと真希が鬱陶しいと言う目で祐司を見た。
「あの話ってなんだよ?」
王司が祐司に対して言った。すると、祐司が「え?知らないの?」と言う様な目で王司のことを見た。
「あの話って、決まってんじゃん。ほら、生徒会役員なら知ってるだろ?今日、このクラスに編入生が来るんだよ!」
祐司の言葉に、王司は、「初耳」だ、と思った。しかし、クラス分けの関係上、どのクラスも人数がいっぱいいっぱいのはずだ。三年生は、二年から三年に上がった段階で幾人か抜けたため編入生が入る余裕もあった。なお、そのときの編入生こそ彩陽である。
「どのクラスもいっぱいだろ?それに俺、聞いてないぞ」
生徒会役員なのに、と付け足す王司。それに対して、祐司が、「え?聞いてないの?」という顔をした。
「そもそも、この学園、海外からの編入や、良家、名家なら、編入に対して割りと緩やかでクラスの人数の条件とかあまり関係ないんだってよ。学園の名前を売りたいのと、良家や名家との縁を作るため、だったかな」
と、言うのは表向きの話しであって、実際は、良家、名家には《古具》使いが生まれやすいため、その《古具》使いの観察を行うため、と言う目的があるのは、極一部の人間しか知らないことである。
「へぇ。で、どんなやつが来るんだ?そもそも何でうちのクラスなんだよ?」
王司の疑問に、祐司が、「お前本当に生徒会役員か?」と言う目で見た。しかし、実際のところ王司には検討がついていた。
(まあ、このクラスには生徒会役員が三人もいて、担任も生徒会顧問。厄介事を押し付けるには丁度いいクラスだよな)
そんな風に答えがわかっているのに分かっていないように嘘をつくのは、今でもやっていることだ。そして、祐司が「さあな」と答えると、王司は、祐司は何も知らないと判断し、聞くことをやめた。
朝のホームルームが始まる。鐘の音が響いた。実際には鐘などではないのだが、一先ず、そんなことはどうでもいい。秋世が教室に入ってきた。そのことにより教室が騒がしさを増す。
「はいはい、静かに。え~知っている人もいるとは思うけれど、本日、このクラスに編入生が来ます。……それも中々の曲者が」
最後に付け足した言葉は、誰にも聞こえていないだろう。そして、「入ってきて」と編入生に向かって呼びかける。
教室のドアが開いて、まず目に入ったのは、鮮やかな赤銅色の束ねられた扇状に広がるもっさりとした髪である。そして、予想していた身長よりも幾分小さく、みんなの視線が一気に下がる。大きな瞳。瞳は、虹色に輝いていた。低すぎて、後ろの方の席の人間には、髪の毛しか目視できないような状態だ。
「はい、はい、静かに~。彼女は、飛び級よ」
飛び級と言う精度で、この学園に編入した少女……なのだが、実際の年齢は、この中で誰よりも年上である。いや、サルディアとは同じ位か。
そして、その少女の姿を認識した王司は、眩暈がするような気がした。そんな王司ににこりと微笑みかけてから少女は口を開いた。
「この度、このクラスに編入します、よろしくお願いします」
そう言った。王司は、「やれやれ」と思いながら、少女に向かって話しかける。その口調は、あまり嬉しいと言う感情が含まれているようには思えなかった。
「愛籐愛美。あんたか……」
王司の言葉に、「あははっ」と軽く笑う。王司の顔は、少し引きつっていた。もう、何も言う気になれなかった。
「と言うわけで、今、王司さんが言ったように、愛籐愛美って言いまーす。王司さんと運命の糸で繋がった美少女なので、どーか、よろしくー」
その言葉に沸き立つクラス。そして、新聞部の祐司が、愛美に向かって質問を始めた。まず、なんと言っても王司との件について問う。
「運命の糸で繋がっているって、どう言うことですかー!」
祐司の問いに、愛美は、「にゃはは」と笑う。その笑いは、いたずらっ子の笑いに近かった。しかし、クラスメイトは質問の答えを聞くのに夢中である。
「そのままだよー。わたしと王司さんは『勝利』って言う糸で繋がった、切っても切れない仲なんですよー」
その言葉に、「何故に『勝利』?」「でも、なんか、うん」「いや、確か青葉ってロリコ……」とクラスメイト達がざわついた。
「おいおい……」
もはや、王司は、諦めていた。いろいろと。
「王司さん、サルディア、えっとくりゅーさん?とそしてわたしは、切っても切れないんですよ」
勝利と言うワードで繋がる者たち。そう、それは切っても切れない、そんな勝利に愛された王司へと集った者たち。
そう愛美は魔法少女。夢に囚われていた魔法少女。しかし、魔法少女は夢を見せる者。そして、勝利の瞳を持つ魔法少女、愛籐愛美。他の勝利を持つ者と同じく、王司と深く繋がる少女なのだ。




