71話:夢想Ⅸ
王司たちは、アデューネに連れられるように、城の天辺にたどり着いた。意外にも広そうだな、と思ってドアを開けた王司の目に、色とりどりの眩い光が差し込んだ。その眩しさに、目が眩んだ。
「なっ、何だ?」
王司の声に、光が点滅を始め、余計鬱陶しいので、王司が「眩しい!」と怒鳴ると、暫し、沈黙の後に、白い光を残し、全てが人の形を取った。見覚えのある人物に、王司は、眉根を寄せた。
「スターゲイザー……?」
王司の言葉に、スターゲイザーは、笑った。いや、正確には笑ったように思えた。目元は、相変わらず仮面で隠れて見えないからだ。
煌く、先ほどの光と変わらないくらいの眩さを持つ黄金の髪。目元を覆う銀の細やかな装飾が入った美しい仮面。金色のマントの所為で身体の凹凸などは見えにくいが、女性であることは分かる。身長が王司よりも少し高いくらいある。【流星を見上げる者】、スターゲイザーの二つ名を持つ、リューラ・ハイリッヒ・ステラ。
それ以外の人物は、王司の後ろに現れたアデューネとシイロ以外、覚えがない人物だった。
神々しい、そう言うに相応しい様々な色に見る事のできる七色の髪。柔和な顔立ち。身長は低く、隣に並ぶシイロと比べると中学生くらいに見える。体の凹凸も少なく、女性っぽい体つきか、と問われると微妙だが、それでも美しい、美少女である。【虹色洗礼】と言う二つ名と【不可侵神域】と言う【霊力】、そして、不可侵神域に住まう存在である。シンフォリア天使団や先のレイルシルの精霊王たちとも交流のある謎多き少女。
茶色の髪が【力場】により紫色に染まった紫の髪。同じく【力場】で染まった紫の瞳。そして、サルディアに似た大きな紫色の翼。紫藤紫色と言う人間の名を持つ身でありながら、龍の血も混ざっていて、後に天使となった異形の存在である。体つきは、さほど筋肉があるわけではない、どちらかと言うと柔な体つきのように見える青年だ。
そして、スターゲイザーの横にいる少女のような見た目の青髪の女性が口を開いた。その女性に王司は見覚えがあるような気がした。
「私は、蒼刃聖。貴方の叔母に当たるわ」
そう言った聖。体内に常時展開している【蒼き力場】によって蒼色に染まった髪。同じく蒼色に染まった瞳。どこかの中学校の制服を着た彼女は、何処となく浮世離れした雰囲気があった。そして、確かに血縁と言うだけあって、少し王司に似てなくもない顔立ち。中学生の見た目のまま年を取ることのなくなった……正確には思念だけの存在となった幽霊のような精霊である。現在は、王司の父・清二の中に、王司にとってのサルディアのような状態で存在している。
「叔母……?」
少し疑問の声を出すが、それに聖が答える前に、聖の隣で、聖と仲がよさそうにしている女性が喋りだす。
「あ、私は、狂ヶ夜緋奏です。聖さんとは仲良くさせていただいて……。この間は、娘が貴方のお父さんに助けていただきました。第一典神醒存在です」
そう言って笑う女性に、王司は目を見張った。第一典神醒存在だと言ったからだ。まさか、神醒存在がこんなにもでてくるとは思っていなかったからだ。
漆のような艶のある黒髪が、体内の【力場】によって緋色に染まっている。同じように目も緋色に染まっている。娘同様たわわに実った大きな胸は、王司が今まで見てきたどの人物よりも大きかっただろう。女性らしい、魅力的で蠱惑的な美人だ。そして、優しげな表情が清楚さを際立たせる。
「この間助けた……。ああ、龍神様が言っていた、異世界への用事とやらはそれか」
すぐさまそれだと悟る王司。そして、そう言えば、俺も最近は異世界へ行く事が多くなったな。などと思った。それにあわせるかのように、別の女性が喋る。
「はじめまして、ですわね。わたくしは、ブリュンヒルデ。オーディン様から、神性を奪われて地に堕ちた哀れなワルキューレですわ」
その名前を聞いてすぐに第五典か、と思ったのは、この間、彼女が発端とも言える事件に巻き込まれたからだ。
ブリュンヒルデ化した彩陽と同じく長い薄水色の髪をハーフアップにしている。そして、彩陽とは違う、薄紫の瞳。彩陽の眼が黒く染まるのは、【堕天】を表し、現在の彼女は、第五典の「魔性」により薄紫に染まっているものの、完全に【堕天】状態になっているわけではないので漆黒ではない色である。そして、彩陽と同じように、胸の形に合わせるようについた鎧。鎖帷子はなく、白い肌が露出している。しかし、その白い肌のいたるところに、黒い【聖刻】が刻まれていた。
「あんたが、ブリュンヒルデっ。彩陽に呪いをかけた、勝利に通ずる者、か」
王司は、別に彩陽に呪いをかけたことを恨んだりはしていなかった。むしろ、あの呪いは、彩陽が望んだから掛けられたようなものであり、恨む、恨まないのはなしではないのだ。しかし、まあ、呪いの呪縛が妙な形で中途半端になっているため、彩陽はブリュンヒルデ化できるが、呪いによるダメージはないと言う都合の良い状態にある。
「話はまとまったかしら?」
白い光が話しかける。その光こそが第七典神醒存在であるのだが、王司はまだ知らない。そして、白い光が点滅しながら王司に話しかける。
「もう、この子が……愛美が目を覚ますわ。マナカ・I・シューティスターと言ったほうがいいかしら?」
そう、愛の名を持ち、「I」のアルファベットを持ちながら、マナカとシューティスターの名前すらを名前に内包する少女。愛籐愛美。彼女こそがこの世界に王司が来た全ての発端だった。




