70話:夢想Ⅷ
土煙が晴れた。五つの影は未だに健在である。
「中々に強いな……」
スーラの言葉に、皆が、構えを取った。そして、全員が技を放とうと【霊力】名を叫ぶ。
「凍て【蒼き彗星】」
「融け【炎熱の紅牙】」
「駈け【天空の走者】」
「轢け【槌重ね土竜】」
「断て【風塵の結界】」
そして、五人が【霊力】を発動しようとした瞬間のことだった。五人と王司の眼前に虹色の光が現れた。
「はい、そこまでです。戦闘中止!ここを破壊する気ですか?」
その聞き覚えのある声に、その場の七人(精霊王五人と王司とサルディア)が声を揃えた。
「「「「「「「アデューネ(様)?!」」」」」」」
そう、第三典神醒存在、アデューネ。先ほどまで天辺にいたが、音と声を聞きつけやって来たのである。アデューネがシンフォリア天使団とは旧知の仲であり、七界の中では比較的に近くにあった小世界のレイルシルにいた精霊王の七人(火、水、空、土、風、時、空間)とは面識がある。
「何でアデューネがここに……」
スーラの言葉に、アデューネは、少し悩んでから、少し艶やかな声を出しつつ精霊王達に言った。
「ぃゃん❤。……えっと、むしろ貴方達がここにいる事がおかしいの。実は貴方達は、記憶の断片。愛籐さんの記憶の絶望から作られた存在です。と言うわけで、とっとと消えた消えた」
追い出すように点滅し、精霊王達の姿を消し去ったアデューネ。残ったのは、呆然とした王司とサルディアとメイドだけだった。
「あら?アノール?」
アデューネの言葉にメイドは、「またですか?」と首を傾げ、迷惑そうな顔でアデューネに言う。
「わたくしは、シュピードです」
そう言うメイドに対してアデューネが「シュピード……」と暫し考えるように点滅をする。
「シュピード・オルレアナ?」
アデューネの言葉にメイドが「はい、そうですが」と頷いた。
「こりゃまた凄い夢の世界ね……」
アデューネの呟きに、「どう言う意味だ?」と疑問符を浮かべる王司とサルディア。それに対してアデューネは答える。
「シュピード・オルレアナ。【月龍天紅】の異名で名を馳せた化け物様がメイドとは……。って、シイロ。今シリアスな話をっ、んぁっ、ちょっ、そこは……❤」
【月龍天紅】。【カオス・オブ・レッドムーン】と言う名前で、戦場を駆けたと言う逸話がある。かの【血塗れ太陽】と対決をしたこともある強者。カオス、混沌。レッドムーン、紅の月。【混沌に塗れた紅の月】。
「え?何、化け物?」
王司が思わず聞き返した。それに対して答えたのは、サルディアの方だった。流石のサルディアも、【月龍天紅】の方は聞いた事が合ったらしい。
「カオス・オブ・レッドムーン。先の次元の狭間で起こった戦争にて、【氷の女王】のクローンや【血塗れ太陽】、【紅蓮王】、【血塗れの月】、【ラクスヴァの姫神】、【妖精王女】たち統括管理局サイドと戦った化け物だと聞いていますわ。まあ、この戦いにおいては、どちらも化け物揃い、と聞きますけれども」
なお、ラクスヴァの姫神に関しては、清二とも面識があり、一時期級友だったこともある間柄でもある。ダリオスの一件以降は公務の関係もあり慌しいようだが。
「ふむ、その辺は、良く知らないんだが……」
王司の言葉に、サルディアが、少し迷ってから、少し大きな話を始める覚悟を決めた。前回の続きにもあたるだろう。
「この間、次元の狭間、時空間にある組織について説明をしましたわよね。それに繋がる話なのですけれど。一番大きな組織が『統括管理局』だったのですけれど、あるとき内部分裂が起こったのですわ。それが俗に『白城事件』と呼ばれる事件にして、そこから分裂した組織が『白王会』なんですの。そして、『統括管理局』と『白王会』が潰しあった事件こそが『白城事件』。その後、失った一門を含めた烈火トップ四の解任や新任など、様々な事柄がおき、次の内部分裂により『統括管理局』と『フェニックス』の争いになりますの。それが『不死鳥事件』。そして、その次に起こった、『第一次時空戦争』こそ、先ほどの話になりますわ。時空間にある組織の対立が広まり、そんなことが起こったと言われていますわね。まあ、その頃は、まだ、シンフォリア天使団は小世界で燻っていた頃なんですけれど……」
第一次、と言うからには第二次もあるのでは、と思うかも知れないが、今のところ、第二次時空戦争は起きていない。
「それで、そんな化け物が何でメイドなんだ?」
「さあ、噂では、スーパーメイドだったとか、なんとか……」
そして、魔法幼女すぺしゃる≠しふぉんとも旧知の仲だったとかなんとか。そして、そんな話をしている頃、アデューネは「ぁあん❤」だの「ぃゃ❤」だのと声を上げていた。




