07話:翼蛇の銃
真希の手には、一丁の銃が握られていた。二匹の蛇が銃身に絡み付いており、その蛇からは、翼が生えている。弾を入れるところがどこにも無い。そんな不思議な形状の銃だ。真希は、何故、このようなものを自分が持っているのか分からず、慌てる。
「え?え?!な、何よ、これ。何なのよ?!」
慌てすぎて、思わず、引きがねを引いてしまう。
――バァアン!!!
耳を劈く轟音に、真希も近くに居た王司、ルラ、秋世も驚いた。
「みぎゃっ?!」
真希の変な悲鳴よりも、王司は、銃口から天に放たれた閃光を気にした。閃光、と言うより、ビーム兵器。光線銃。赤く禍々しい閃光は、おそらく、それ自体が、熱や質量を持つ危険極まりない光線。
「ケリュケイオン、か」
王司が思考をめぐらせる。
(ヘルメースの持つ杖『ケーリュケイオン』のことか)
王司が言う通り、伝令の神、ヘルメースが持つ杖をケーリュケイオン(長母音を省略してケリュケイオンとされることも)と呼ぶ。
「これが目覚めた《古具》。まあ、遺伝と言うか、なんと言うか、親が《古具》使いなら子も《古具》使いってことかしら?」
などと、秋世は言う。
「とりあえず、真希、走るぞ」
そう言って、王司は、真希の手をとって走り出す。あれだけ派手な音がしたのだ。一般人が集まってくる可能性は否めない。
「え、あ、うん」
真希は、いつの間にか消えている《翼蛇の炎砲》を気にせず、王司に掴まれている方とは逆の手で写真を拾い、駆けた。
「とりあえず、生徒会室だ」
王司は、秋世とルラにそう言った。
走ったおかげで、ものの数分で生徒会室にたどり着いた。
「さて、と。真希、今から、お前に状況を説明するんだが、その前に、見てもらった方が早いな」
王司は、ルラに目配せをしつつ、呼ぶように言葉を出す。
「《古神の大剣》」
王司の手元に現れる、美しい銀色の剣。手に馴染むような感覚がする剣を、手足のように軽く振るう。無論、生徒会室内なので、大きく振ったり、振り下ろしたりはしない。
王司の意図を悟ったルラも同じように、《古具》を呼ぶ。
「《古神の大鑓》」
ルラの手元に禍々しい槍が出現する。
「これが《古具》って呼ばれるものだ」
王司が、真希に説明するように見せた。
「《アーティファクト》……?」
分からない、と言うような表情で王司を見た。王司は、素の人の悪い笑みを浮かべ、説明する。
「人智を超えた力の総称。《古具》は、人の感情の大きな変化で『開花』する。まあ、持っている人間も稀少らしいが。この街では、《古具》が生まれる可能性が高いらしい」
王司の解説にも首を傾げる真希。それを秋世が分かりやすく噛み砕いた説明で補う。
「要するに、普通じゃありえない力に目覚めると《古具》と言う、さっき真希さんが使ったみたいな力が使えるようになるんです」
秋世の説明に真希は、「お、おぉ~」と納得したのかしてないのか分からない声を上げた。
「よくわかんないけど、分かった。それで、王司は何でそんな悪っぽい風に笑ってんの?」
自分の置かれている状況よりも王司の笑いに興味を引かれた真希は、それを聞くのだが、王司ではなくルラが答えた。
「篠宮さん、貴方が見てきたのは、王司の仮面だった、と言うことよ」
それに対して、真希は、あっさり言う。
「あ~、いや、まあ、それは知ってたけど、愛想良くすんのやめたのかなぁって」
王司は、小学校までは今と同じ態度だった。中学に入ってから態度を改めたのだが、王司と真希、祐司は、小学校が同じ、三鷹丘学園付属小等学校で、その後、中学で一端別れて、高校から、同じ三鷹丘学園高等部に入学したのである。だから、真希は、昔の王司を知っているだけに、今の王司とのかみ合わなさが少し残っていた。だからこそ、時折見せる、あの頃の王司とのかみ合いから、仮面を使っているのは分かっていた。
「まあ、愛想良くしても、無駄に女子が寄ってくるしね」
真希の検討違いの推測。
かつて祐司の書こうとした没記事に、三鷹丘女子生徒に聞いた憧れの王子様ランキングと言うものがある。それによると、女子生徒のうち、半数あまりを一人で獲得した王司と半数より少し少ない票を獲得した真希の二強により、ランキングが成り立たなかったから没になった。ちなみに、三鷹丘男子生徒に聞いた憧れのお姫様ランキングでルラは二位に入っている。
「ん?あまり女子に言い寄られた試しは無いんだが……」
王司が言っていることは事実で、王司は、遠目から見て高嶺の花に感じる王子様のような雰囲気を持っている。その所為で女性から言い寄られず、遠目から見られることの方が多い。
「そう言えば、王司と仲のいい女子って私か篠宮さんくらいよね。意外なことに」
相棒も女性としてカウントするならば、三人ほど。王司が男子から妬まれないのも、直接仲よくしている女性の数が少ないからだ。まあ、実際のところ、ルラと真希の見ていないところで数人、仲の良い女子がいるのだが。