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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
夢想編
66/103

66話:夢想Ⅳ

 王司は、蒼銀の髪を揺らしながら、「ククッ」と笑って、《勝利の大剣(フラガラッハ)》を再び構えながら思う。


(そう言えば、前に戦った【鉄壁神塞】とか言う奴らの中に《聖鏡の盾(アイギス)》って言うやつを持っている奴がいたな)


 そんなことを思いながらも、構えは崩さない。そして、石化の能力が在るのは察せたが、どの程度でどうやったら発動するのかが分からず少し迷う。だが、それでも突っ込むのは、【蒼刻】状態だからだろう。


「セイッ!」


 思いっきり斬りつけようと、王司が跳躍した瞬間だった。ブンッと石眼の白蛇(メデューサ)は尻尾を一薙ぎし、王司を弾き飛ばす。あたる際間で、王司は咄嗟に刀身を盾に身体への直撃は避けたが、地面へ激突する時は流石に受身も取れずに、《勝利の大剣(フラガラッハ)》を盾にすることもできなかった。


「グハッ」


 痛みに思わずこみ上げてきたものを吐き出した。それは血だった。どうやら、身体を地面に打ち付けた際に、体内のどこかをやられたらしい。しかし、王司はそれでも立ち上がる。普通なら立ち上がれないほどの痛みがする状況でも、王司の身体は根を上げない。身体の中には【蒼き力場】と【銀の力場】が混在していて、それが補強しているため、ちょっとやそっとの怪我くらいなら、どうにかなる。


「あ~、痛ぇ」


 王司が立ち上がり、《勝利の大剣(フラガラッハ)》を構えようとした、その瞬間だった。眩い閃光が空間を支配する。


――ギュン!


 そんな何かが打ち出されるような音と主に、王司の眼前に、灰色の閃光が撃ち迫っていた。


「マズッ!」


 ショートワープで逃げようかと思ったが、間に合わないと悟り、王司は体内に展開されている【蒼き力場】を全力で解放した。そのことにより、身体から漏れ出した膨大な蒼いオーラにも似た【力場】が灰色の閃光を打ち消す。そして、【力場】が石化した。


 【力場】すらも石化させるなどと言うありえない出来事に、王司は、目を見開いた。そして、体内にある【力場】を解放していなかったらどうなっていたか、と思うとゾッとした。


「ちょっと、無茶をしすぎですわよ!一先ず引いて態勢を整えるべきですわ!」


 サルディアの叫び。しかし、王司は引かない。王司は、【力場】を自分の身を守るように四方八方に展開した。


「蒼銀境界面」


 即興で【力場】を活用する技術。こんな真似、そうそうできない。普通は、あらかじめ決められた通りにしか【力場】を使う事がない。このように、即時編み出し、実際に使うと言うのは、まずないことである。


「多重結界の真似ですのね……!これなら、確かにあの石化の攻撃を防げますわね」


 多重結界とは、多重に膜を張ることで相手の攻撃を弱めたり防いだりするものである。本来は、【力場】で行うものではない。と言うより、普通の人間に、それほどの量の【力場】は発生できないので不可能である。


「ハッ!」


 気合を込めた気迫溢れる声と共に、蒼く淡く光を放つ《勝利の大剣(フラガラッハ)》を握る。瞬間、体中に【聖痕(スティグマ)】が浮き上がった。まるで刺青のようなそれは、淡く銀の光を放っている。


「叩き斬るっ!」


 四方八方に展開した【力場】をショートワープにも利用し、素早く石眼の白蛇(メデューサ)に詰め寄る。そこに、石眼の白蛇(メデューサ)の尾が素早く薙がれた。しかし、展開した【力場】がバネのように跳ね返す。


「ここだっ!」


 思いっきり力んで、斬りつける。その瞬間、石眼の白蛇(メデューサ)の目が灰色の光を放ち無数の石化の弾丸となって王司に迫る。されど王司は怯まない。


「うぉおおお!」


 石化の弾丸が、王司の周囲にめぐらせた【力場】を蝕んでいく。されど王司は、怯まない。自分の中の【力場】を《勝利の大剣(フラガラッハ)》と周囲の【力場】に全て流し込む。


「うぉぉぉおおおおおおおおおお!」


 そして、蒼銀の斬撃が石眼の白蛇(メデューサ)の胴体を真っ二つに切り裂いた。巻き上がる砂煙。そして、石眼の白蛇(メデューサ)の割れた胴の隙間から無数の光が巻き上がる。その光こそ、喰われた魔法少女達の魂だったのかも知れない。


「ふぅ、まずは、終わったかな」


 そう言って、王司は、深い息をついた。徐々に収まっていく蒼い光。どうやら外に大量に流したおかげで、体内の【蒼き力場】の収束が早まったようだ。そのため、最初の銀色の状態に戻っている。


「もう、無茶しすぎですわ!」


 サルディアが怒鳴りながらも駆け寄ってきた。その後ろをメイドは静々とついていく。


「とりあえず、第一の難関は突破できた、と言うことですわね」


 そう言ってサルディアは、ほっと一息ついた。

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