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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
夢想編
63/103

63話:夢想Ⅰ

 夢、そう、夢だ。幻想、幻影、夢想、御伽、どう言っても構わない。これは、囚われた幻想の彼方に眠る一人の少女の章。古の地の果て、彼の精霊の眠る場所。第七典神醒存在の眠る場所に囚われし全ての「愛」を司る少女の物語。





 王司は明晰夢を見ていた。明晰夢とは、自分が夢を見ていると分かる夢のことである。それは、妙な夢だった。


「なあ、相棒。どうなってんだ?」


 なぜか実体化しているサルディアに聞いてみる。するとサルディアは、ローブをはためかせて、近寄ってきた。ちなみに、ローブの形状から見て、翼がないようだ。


「さあ、分かりませんわね。私の翼も何処へ言ったのやら……」


 杖をトントンと突きながら、王司の元へ歩み寄るサルディア。その風貌は、いかにも魔法使いを髣髴とさせるものだった。


「それにしても、この格好。まさかとは思うが、勇者とでも言いたげだな」


 王司が、自分で自分に言う。王司は、鎧を身に着けていた。終極神装(ラグナロク)の時と同じ格好である。髪も銀色に染まっている。

 と、不意に、コンコンとノックの音が響いた。


「勇者様、そろそろ御出立の用意を」


 メイドがそう言って室内に入ってきた。その顔を見て、サルディアが噴き出しそうになる。


「ぶっ、アノール」


 【拒絶する緑壁(アブディエル)】のアノール。旧知の仲、と言うより同じシンフォリア天使団の超高域なのである。


「アノ……?なんのことでしょう。わたくしは、シュピードです。勇者さまの奴隷ですよ」


 その言葉に、サルディアと王司が噴き出した。


「あ、間違えました。メイドですよ」


「どうやったら間違えるんだよっ!」


 王司がつっこんだ。そして、王司は自分が勇者である、と言う扱いを受けているのだと分かった。


「それで、何処を目指しているんだっけか?」


 わざとらしく、王司は、メイドに聞いてみる。メイドは、ニッコリと笑って答えた。


「そのぐらいちゃんと覚えとけ……ではなく、え~、ファリエルの丘の先の城です」


 何処だよ、そこ、と思わないでもない王司と何か悪口が聞こえましたわ、と思うサルディアだった。


「ふぅ~ん。そこに姫様でもいんのか?」


 メイドが「何を言ってるんだ、この勇者、クズが」と言う目で王司を見た。


「記憶力がないんですかねぇ……ではなくて、ええ、いますよ。全ての『愛』を司る姫が」


 そう、その姫は、全ての「愛」を司り、「I」を証として持つ少女。彼の地に眠る第七典の祝福を受けしもの。【究極力場到達点】へ至る少女にして、【イリスの愛を受けし者】、【アイシスに愛を捧げし者】。


愛籐(あいとう)愛美(まなみ)姫です」


 ここに来て、急に出てきた日本名に、王司は、思わず噴き出しそうになった。サルディアは、その名前に聞き覚えがあるような気がした。


「まさか、MS独立保守機構のマナカ・I・シューティスター最高責任者?!」


 サルディアの発言に、メイドが「何言ってんだ、この魔導師、あたしより可愛いからって調子のんじゃねーよ、不思議キャラかよ」と言う様な目でサルディアを見た。


「MS独立保守機構?こないだ言ってたやつか?でもなんだ、その名前」


 王司の声に、サルディアが少し迷ってから答える。


「MS独立保守機構には、それぞれにコードネームのようなものがあり、上層部の面々は、アルファベットをミドルネームにしているんですわ」


 サルディアの話を聞き、王司は、胡散臭そうな顔をした。なお、アルファベットがミドルネームにならない者たちは、者たちでもっと変な名前なので、一概に変とは言えない。


「まあいい。で、その最高責任者とやらが、何で俺の夢に出て来るんだよ?」


 王司がもっともな事を言った。サルディアがでてくるのは、繋がっていると言われれば納得がいくが、そんな知りもしないやつが出てくることは明らかにおかしい。


「さあ、彼女は、夢見を得意としているんですのよ。三百年近く姿を消しているとのことでしたので、大方、暇つぶしに、あちらこちらの夢の中でも探検していたのでは?」


 そんな風に言ったサルディアの言葉に、王司は、「三百年近く姿を消してるって、どんなババアが姫をやっているんだ……」と思った。しかし、まあ、彼のパートナーであるサルディアもそれ以上生きているので、見た目どおりの年齢とは限らないのだが。


「と言うか、夢見が得意って言うのは、なんだ?《古具》か、《聖具》か?」


 王司は、《古具》と《聖具》以外の異常な力を知らない。しかし、この世にはいくらでも異常はある。


「本人達の言葉を使うなら、『魔法』ですわね。どちらかと言うと【力場】が一番的確なのですけれど」


 サルディアの言葉に、王司は、眉根を寄せる。「魔法」とはまたけったいなものが出てきたな、と思いながらも、ないとは言いきれないのが、悲しい、とも思った。


「それで、その魔法使いとやらが、姫様だとして、何で、自分の夢で、見ず知らずの姫様を助けに行かなくちゃならないんだ?つーか、覚めるまで適当に暇つぶしでもしてるべきか?」


 王司は、そう言った。何も馬鹿正直に、姫様を助けに言ってエンディングをみる必要はないのでは、と言うことだ。


「今も言ったように、マナカ・I・シューティスターは、夢見を得意としていますのよ?おそらく、この暇つぶし、飽きるか助けるかするまで、起きられないと思いますわよ」


 そう、彼らはまだ知らない。これが、誰の意思による物語なのかを。そして、愛美が本当に囚われていることを。

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