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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
九龍編
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60話:夢幻の剣士

 眩い閃光に連れられ、王司たちが転移した先は、見知った場所だった。具体的には、龍神のいる場所だった。今回は、王司の中にサルディアがいないし、彩陽の中には何もいない。そのため、【空白】に囚われることなく自由に来ることができた。


「あ~失敗っぽい?また転移よね」


 沙綾が呟いたが、王司は、それを手で「待て」とサインし、そして、呼ぶべき存在を呼ぶことにした。


「龍神様、いるか?」


 王司の声に、部屋の上空に巨大な龍が現れた。余談だが、バロールとの戦闘で破壊されたものは全て元通りに戻っている。


「ん?ああ、清二の……。確か、王司と言ったな。何のようだ?」


 龍神の低く響く声に、彩陽は、「ほぇ~」と抜けた声を出し、沙綾が、中々面白い物を見たというような顔をした。


「すまないが、俺たちの世界に帰してもらえるか?」


 王司の注文に、龍神が、「ああ、それは構わんが」と答えて、王司達を生徒会室へ転送させようとしたのだが、龍神が苦悶の声を上げた。


「できないな。どうやら、そちらの二人は、元の世界との繋がりが切れてしまっている。そちらの御仁……、その最後に行った場所になら元の世界に戻せるが?」


 つまりは、生徒会室ではなく沙綾が最後に行った場所になら行く事ができるということだ。


「じゃあ、とりあえず、そこでいい。携帯さえ通じれば、秋世に迎えに来てもらえる」


 王司の言葉に、龍神は、「あまりタクシーのように使ってやるなよ」と思った。そして、再度確認する。


「では、そちらの御仁の最後に行った場所へ転送するぞ」


 龍神のその言葉とともに、眩い閃光に包まれ、王司たちは、場所を移動する。




              ◇◇◇◇◇◇





 雨月(あまつき)無限(むげん)は、久々に、義理の母である九龍綾花の元を訪れていた。無論、妻であるルミアも同伴で、だ。


「ねぇ、夢幻(むげん)。いつも思うんだけどさー、夫の義理の母ってさー、ワタシにとってどーゆー立場になるわけ?」


 そんなことを急に言い出したルミア。日本語が堪能であるが、金髪碧眼の見た目通り、外国人である。


「そりゃ、義理の母じゃないのか?」


 無限のツッコミに、ルミアは、「うーん」と首を捻る。そして、しばらく唸っているであろうと、いつものように、綾花がお茶を淹れに席を立つ。

 きっかり三分、綾花がお茶を淹れて戻ってきたのと同じくらいのタイミングでルミアが言う。


「義理の義理の母なんじゃないの?」


 訳の分からないことをまた言い出したな、と言う顔で無限は、ルミアを半眼で見る。それに対し、ルミアは「だって、」と言い訳を始める。


「義理でもなんでもない親子の子供と結婚した場合、親の方は義理の親になるんでしょ?でもこの場合は、義理の親子の義理の子供の方と結婚するわけだから義理の義理の親じゃない?」


 言っている事が分からなくもないけれども分からないな、と無限が思考を諦める。何を言っても意味がないのは良く分かっているからだ。


「あ~、はいはい。ソーダネ」


 棒読みで答える無限。無限は、ルミアとのそれなりに長い付き合いで、その対処方法がわかっていた。


「それにしても、相変わらずね、この家」


 ルミアの言葉に、綾花が「うふふふ」と口に手を当て、上品に笑った。無限も、懐かしいな、と思い部屋の中を見回す。無限もルミアも昔はこの家に住んでいたのだ。


「まあ、懐かしいわねぇ」


 綾花がそう言って、それにより、無限も「はい、そうですね」と義理の母に優しく笑った。


【八咫鴉(やたがらす)】の一件があった時はホントどうなることかと思ったけどな」


 無限がそんな風に懐かしむように言った。ちなみに、本当に八咫鴉の一件は危険だった。各方面に多大な迷惑を掛けたため、無限は未だに、思い出すだけで冷や汗が出る。


「ああー、全くよー。夢幻、あんたねぇー、かなり危ないってゆーか超危なかったんだから」


 ルミアがそんな風に言う。ちなみにだが、ルミアが無限のことを「夢幻」と呼んでいるが、どちらも正しいというのが正解。


「ん?何か、来た?」


 ルミアの言葉に、無限が周囲を警戒する。しかし、警戒虚しく、無限の眼前に、突如三人の男女が突如現れた。


「うおっ」


 無限が思わず声を上げた。無限の眼前には、沙綾の胸が迫っていた。男の(さが)として、見ずにはいられない無限は、注視してしまい、ルミアがそれを見てキレる。


「痛ぇな。ここ、何処だ?って、ああ、彩姉んちか」


 王司は、急に妙な位置に現れてしまったため、不恰好な状態で場所の確認をする。そして、その上に、彩陽がいる。彩陽の両腕は、倒れた王司の横に立ち、胸は、王司の眼前に迫っている。これは流石の王司でも、冷静ではいられない。


「王司ちゃん、ここ、お姉ちゃんの家だねぇ~」


 のんきに言う彩陽に、王司は、視線を逸らしながら、少し大きな声で言う。


「い、いや、彩姉、ちょっとどいてくれ!」


 「ん?」と小首を傾げる彩陽。それは、とても可愛らしかった。

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