59話:時空間の詐欺師
王司は、驚いていた。彩陽が持っていたレイピアが《古具》だったからだ。まさか、彩陽までもが《古具》使いだとは思っていなかったのだ。しかし、こうなると、王司と同世代の《古具》使いの大半が攻撃である。それも剣が多い。剣使いが三人もいるというのは驚きだ。
「さて、これからどうするか、だな。ここがどこかは分からないが、おそらくブリュンヒルデの世界が崩壊した後に、どこか別の世界に飛ばされたっぽいが」
そう言うと、王司は、「う~ん」と唸り始める。どうにかして移動する方法を模索しているのだ。
「ねぇ~、王司ちゃん。どぉ~しよ~もないなら~、お姉ちゃんとぉ~、いっそこの世界で暮らすって言うのもぉ~、ありかもよぉ?」
そんな彩陽の言葉に、王司は、苦笑した。流石に笑えない冗談だと思ったが、笑えなさ過ぎて逆に笑えた。
「ん?こんな人気のない場所に、二人だけって、どう言う状況かしら?」
そんな時、急に少しとぼけた声が聞こえた。明るく、少し馬鹿っぽい声だった。その声に彩陽は覚えがあった。
「あれぇ?もしかしてぇ?沙綾おばあちゃま?」
沙綾おばあちゃまこと、九龍沙綾。彩陽の祖母だ。
「ん?ああ!彩陽!」
祖母と言うには、圧倒的に若い二十数歳の見た目だが、沙綾は、優しい呪いではなく、時空の呪いだ。
「どうしてこんな辺境の地にいるの?あたし見たく偶然跳んだみたいな話じゃないでしょ?」
沙綾は偶然跳ばされた世界が、王司と彩陽の落ちてしまった世界だっただけだ。しかし、ラッキーとばかりに王司は、声をかける。
「えっと、沙綾さん、でいいのか?ちょっと頼みがあるんだが。俺と彩陽を元の世界に返して欲しいんだ」
王司のその願いに沙綾は、変な顔をした。珍妙なものを見る変な顔をした、と言うべきか。
「あんた等、ここまできといて帰れないって、どーゆーこと?」
普通、異世界へ移動できるのならば、帰れないと言うことはないはずなのである。沙綾のように、自分の意思で移動先を選ぶことができない場合を除いて。
「いや、俺たちの意思でここまで来たわけじゃないからな」
王司の返答に、沙綾は再び変な顔をした。じゃあ誰の意思で来たんだよ、と言いたげである。
「ブリュンヒルデの導きってことか……?」
王司が適当に言った言葉に、沙綾は妙な顔をせざるを得なかった。
「何よ。狂った世界で第一典神醒存在んとこの子やらと調節したら、今度は第五典神醒存在なの?」
沙綾もまた、つい先ほどまで聖と同じ様に、とある世界で狂っていた歯車を調律していた人間だ。
「まあいいわ。どのくらいでつけるか分からないけれど、運がよければすぐにでもつけるでしょうから一緒に行きましょう」
そう言って、沙綾は、王司と彩陽を連れて世界を渡るのだった。
◇◇◇◇◇◇
一方、紫苑たちは、王司たちを助ける方法を模索していたが、全く方法が見つからずに困っていた。
「とりあえず、九龍さんの家に行って見ませんか?九龍さんのお母様なら何か知っているかも知れませんし」
紫苑の提案に、秋世は「ふむ」と少し考えてから、目で紫苑やサルディアの様子を確認し、決断をする。
「ええ、そうね。行ってみましょうか。って、場所、どうやって知るの?生徒名簿から消えたから住所とか分からないんじゃない?」
秋世のもっともな言葉に、紫苑が、スマートフォンを見て、住所をメモしてある、正確にはスマートフォン同士でアドレスを交換する際に情報カードをお互いに交換したために、住所がそのまま記載されている、そのため、住所が判断できた。
「ここですね。場所は割とここから遠いですね……」
紫苑のその言葉は、要約すると「天龍寺先生、面倒だから《古具》で飛ばしてください」なのだ。無論、きちんと秋世には伝わった。
「はいはい、じゃあ、一気にいくと面倒だから、断続的に行くわよ」
そう言って秋世たちは、九龍家へ向かって転移するのだった。




