54話:蒼の少女
「私の名前は、蒼刃聖よ」
その名前に、一瞬、生徒会室内の時が止まったように静寂が空間を支配した。そして、それを真っ先に切り崩したのは、サルディアだった。
「第六楽曲洗礼神奏・第六典神醒存在。【滅びの龍を内包せし者】の蒼刃聖」
サルディアの言葉に、聖は、あっけらかんと笑っている。そして、笑いながらどこか寂しげに彼女は言う。
「ええ、そうよ。滅びの第六龍人種、蒼刃聖。またの名を、第六典神醒存在、蒼刃聖よ」
陰りある表情に、少し、大人びた雰囲気。それらは、とても少女とは思えないほどだ。それもそのはずで、同率存在の上に、「神醒存在」でもある稀有な存在な聖は、もはや年齢と言う概念の埒外に居る。
「今、青葉君がどう言う状況か、知っているんですか?」
紫苑の問いに、聖が、即答する。
「ええ。知っているわ。どこに居るかも」
その言葉に、紫苑は、一安心する。
「じゃあ、今、青葉君は……」
紫苑の問いに、聖は、沈黙した。いや、言わざるべきなのではないか、と暫し、間を置いたのだった。
「生きてはいるわ。それだけは言える。でも、無事かどうか、と問われると……」
その言葉に、サルディアと紫苑は、息を呑んだ。無事じゃなかったらどうしよう、と言う心情だ。
「無事じゃないの?」
秋世の率直な問いに、聖は、少し曖昧に、それでいてはっきりと答えた。どちらなのかと言えば、曖昧だ。
「無事じゃないかもしれないと言うことよ」
それから聖は、「ふぅ」と息を吐く。
「おそらく、彼女、呪われし少女につられて【黒き炎の棘森】に囚われてしまったはず。彼がもし、少女にとって運命の『恐れを知らない男』だったならば、無事でしょうけれど、そうでなかったら、きっと彼は無事ではないでしょうね」
言っている意味が分からないのか、紫苑と秋世が首を傾げた。サルディアは何かを思い出しかけている。喉元まで出掛かっているが、おそらくそれが何のきっかけもなくでてくることはないだろう。
「じゃあ、もし無事じゃなかったら、一体どうなってしまうの?」
秋世の問いに、聖は、「聞きにくいことをズケズケ聞く人ね」と呆れたように秋世を見てから答える。
「もし無事じゃなかったら、彼は今頃、炎に焼かれて永遠の苦しみを味わっているでしょうね」
その言葉に紫苑が震え上がった。
「永遠の、苦しみ……」
その言葉に、聖が笑って、紫苑の肩を叩いて言う。それは、紫苑にとって悪いことでありいいことでもある。
「大丈夫よ。おそらく、青葉王司……私の甥っ子は、おそらく彼女にとって運命の相手だから無事なはず。でも、だとすると、貴方にとっては少し残念かしらね。貴方も王司の事が好きなんでしょう?」
その聖の言葉に、紫苑が何かを噴出しそうになった。何とか堪えて、そして、笑って聖の言葉に答える。
「ええ。まあ、大好きですよ。そして、この気持ちは、青葉君も知っているでしょうね」
(何せ、彼とわたしは繋がっているのだから)、そう心の中で呟きながら言葉を続ける。
「そう、ですか。わたしと彼は結ばれませんか……。でも、それでも、構いませんよ。彼が生きてさえ、居てくれるならば」
そう言った。それは偽りなき紫苑の心からの言葉。そして、紫苑が己の中で出した答え。その答えを聞いた聖は、「ほぉ~」と感心したような声を洩らした。
「まあ、結ばれないと決まったわけじゃないんだけどね」
その聖の声に、思わず紫苑は椅子から転げ落ちそうになった。
「いえ、だって、運命の糸で結ばれていたからといって必ず結婚するわけじゃあるまいし。お兄ちゃ……兄だって、ほら、意外なことに副会長と結婚したじゃない?そう言うこともあるから」
そんな風にあっけらかんと言う聖に対して、紫苑は、「わたしの格好つけた部分丸々意味ないのね……」と深刻な精神ダメージを負った。ちなみに、秋世は「確かに意外よね、あの二人が結婚するのって。私は姉さんか、白羅さんか、大穴で恵李那さんだと思ってたし……」とそんなことを思っていた。
「まあ、だから、別に運命どうこうと言うよりも彼が、彼女に選ばれているかが重要ってことなのよ」
それに対し、暫し紫苑は考える。選ばれるかどうか、と言うことについて。そして、断言できると思った。
「間違いなく選ばれていると思います。青葉君と九龍さんの仲は、かなりいい方で関係も深いと思いますし。子供の頃から二人でいろいろと過ごしていたみたいですから」
その言葉に、聖は「へぇ」と声を洩らし、サルディアは「まあ、私も一緒だったのですけれども、表立ってはいませんでしたわね」と思った。
「じゃあ、大丈夫なんじゃないかしらね。……話を元に戻しましょ。この呪いの主の話よ」




