48話:修行の時間
「精霊へ至った妹、ですの?……まさかっ、第六楽曲洗礼神奏・第六典神醒存在。【滅びの龍を内包せし者】の蒼刃聖のことですの?」
サルディアの問いに、清二が頷いた。その後、清二が暫し考えてから、紫苑に言葉をかける。
「七峰さん、だったね。確か《古具》は剣系統だったろ?少し実力が知りたいんだが、手合わせいいか?」
清二の言葉に、紫苑は暫し固まった。何を言われているのか理解できなかったのだ。停止状態が五秒くらい続いてから、ようやく口を開く。
「い、いえ、わたし、全然戦闘経験ないですし、実力なんて、そんな」
それが逆効果だった。戦闘経験がない場合、足を引っ張る可能性がでてくる。そうなると鍛えなくては危険と言う風に思考が動くのが清二と言う人間だ。
「じゃあ、なおさら、訓練が必要だな」
そうして、紫苑を引きずるように引っ張りながら、扉の奥へと紫苑を連れて行く。その光景を皆呆然としてみていた。
紫苑がつれてこられたのは、白銀の園。一面雪景色の部屋だった。不思議と寒くはないと感じた。
「さあ、とりあえず、本気でかかってこい」
突然すぎて、どうすれば分からないままに、紫苑は、《神双の蒼剣》を呼んだ。そして、その瞬間、心の奥に疼く【蒼】に身を委ねる。瞬間、紫苑の全身に【力場】が形成される。それは魂の慟哭。【蒼き】力。【蒼刻】。
「……っ!【蒼刻】かっ?!」
清二が驚きを示した。青葉……蒼刃に宿る力である【蒼刻】を操るその存在に驚愕したのだ。
「《蒼天の覇者の剱》!!」
まずいと思った清二は、即座に《蒼天の覇者の剱》を生み出す。そして、自身も【蒼刻】を発動する。
【蒼刻】とは、本来、自身の体内のあちこちに【力場】を形成して、【力場】のエネルギーを、体中の【力場】同士に干渉させて何乗にも【力場】のエネルギー量を上げる力である。この力は、本来ならありえないもので、まず体内の各所に【力場】を大量に発生させるというのは、下手をしたら、【力場】がバラバラに広がり体が裂ける恐れもあるほどに危険な行為なのだ。しかし、それを成り立たせるのが【蒼刃】の【蒼い力場】。特殊な【力場】であり、それを形成させる事ができるのは【蒼刃】の血を引くものだけだという。その結果体中にある【蒼い力場】から、力があふれ出し、全身から蒼いオーラがでているように見えるし、体内の【力場】から【力場】をエネルギーが移動するため、全身が蒼く染まる。髪も、眼も、蒼くなるのはそのためだ。これは、【蒼刃】の人間の本能のようなものであるため、危機状況になると無意識に【力場】を体中に展開してしまう。だから本能の力であり、そして、【力場】は【魂】からの影響を受けやすい、ゆえに【魂】の力でもある。
「はっ!」
紫苑が清二に距離を詰める。一瞬で、清二の前に迫っていた。そして、右手の剣が真上から振り下ろされる。それを清二は《蒼天の覇者の剱》でカバーする。
「せいっ!」
だが、紫苑は、右手の剣をわざと、カバーに来た《蒼天の覇者の剱》に当て反動を利用し、自身の体を少し浮かせ左手の剣を清二に突き出す。それを清二は上体を逸らして避けた。
「なっ!」
清二は思わず声を洩らす。避けた先に紫苑の膝が迫っていた。所謂膝蹴りと言うやつだ。眼前に迫る膝に清二は思わず思う。
(速すぎるっ!)
清二でも流石に驚くほどの身体能力だった。まるで、ずっと剣を握って戦ってきた剣士と戦っているような感覚。
「ぐっ……」
清二が何とかしゃがんで膝を躱すと、紫苑は、《蒼天の覇者の剱》に足を乗せ、それを足場に、跳躍し、大きく後ろに下がった。そして、紫苑は、双剣を逆手に構え、刃に【力場】を形成し、体内の【蒼い力場】のエネルギーを流し込む。
「なっ、まずっ!」
清二がまずいと思った。ちなみに鯰と言ったわけではなく、「なっ、まずい」と言いたかったのである。
「【蒼き風】よ!」
清二は、咄嗟に風の防壁を張る。そこにクリスタルの刀身が青白く光る《神双の蒼剣》の二閃がそこを目掛けて飛んでいく。
――ドォオン!!
清二は、最大級に強度を高めた【蒼き風】すらも突破され、かなりギリギリだったが、防壁で威力が減っていたため、傷を負わずに済んだ。そのまま眠るように意識を失う紫苑。後遺症で、身体のあちこちの【力場】から残った分の蒼が抜けきらず、まだ蒼い髪の紫苑。清二は慌てて駆け寄りながら言う。
「どのへんが、戦闘経験がない、だよ」
そう言いながら紫苑を抱え、扉から龍神たちの元へ出る。




