47話:聖覇の男
全てが終わり、王司を抱える女性に、秋世が口を開いた。警戒八割、驚き二割と言った雰囲気だろうか。
「貴方、誰」
秋世の言葉に、サルディアは、答えようとするが、何と言えばいいのか分からない様子だ。それを見かねた紫苑が助け舟を出す。
「青葉君の相棒さん、よね」
紫苑の言葉に、サルディアは少し迷ってから、笑って答える。その笑みは、普通の少女の笑みに見えた。
「ええ、そうですわね。貴方は、七峰紫苑さんでしたわね。それから皆さんの名前も存じておりますわ。ずっと、主とともに聞いておりましたから」
そう言うサルディア。そして、少し壊れたソファに王司を抱えたまま座る。王司の頭を自分の膝の上に乗せる。所謂膝枕だ。王司の髪を撫でながら、サルディアは、皆に自己紹介をする。
「主に仕えるサルディア・スィリブローですわ」
そう言って、左耳についている銀十字の耳飾りを揺らした。この耳飾りは、終極神装の時についていたものだが、終極神装が解けた後でも残っているらしい。それも外すことのできないものだ。
「貴方は、一体、いつから王司と……」
これは美園の言葉だ。美園は、王司とそう長く居たことはないが、このような人智の超えた存在が息子の近くに居たのに気づかないことはないと思い、王司とサルディアの出会いは割りと最近だと結論付けたが、違った。
「そうですわね……。十二年くらい前ですわね。確か、あの頃は、まだ主が五歳でしたから」
その言葉に、美園が目を丸くした。十二年前といえば、ホテルが瓦解した事件があった年である。と言うより、それがきっかけで王司はサルディアを呼んだわけだが。
「まさか、白城の……」
あの旅行の日、王司は、ホテルに置き去りにされたのは、清二と美園が【白王会】と言う組織を調べていたためだ。危険を伴うためにホテルに放置したのだが、逆に危険を招いてしまう結果になった。
「美園、いるか?」
そんなタイミングがいいのか悪いのか分からない不穏な空気が漂い始めているため、結局のところタイミングが悪いのではないかと思われるタイミングで、一人の男が、美園や彼方と同じように、扉から入ってきた。丁度、王司から少し鋭さを抜いた感じの風貌の男。
「清二君」
彼方がその人物の名前を呼んだ。そう、その人物こそ、青葉清二。《覇》の古具と《聖》なる劔を持つ者。
「ん?秋世、か……。それに……今日は妙な客が多いみたいだな」
そう言ってから、部屋の惨状に目が行く。ボロボロになった部屋の有様に、清二は、この部屋で戦闘があったことを悟る。
「美園、何があった?」
全てを悟っていながら、あえて美園に聞く。だから、美園は、あえて、ほとんど何も言わない。
「敵は、自分のことをバロールと称していました」
その言葉に、清二が動揺する。それは、清二がバロールと言う魔眼の魔神について知っているからだ。
「バロール……魔眼の魔神か」
王司と同じことを呟いてから、美園の「バロールとはなんなのですか?」と言う目でされた質問に答える。
「ケルト神話に登場する見たものを殺すとされる【魔眼】を持つ魔神、それがバロールだ。本来は、ルーと言うバロールの孫である太陽神がバロールの目を貫いて殺しているはずだったんだが……」
まるで王司のように、と形容するのはルラや真希、紫苑だけ。秋世なんかは、王司を「歩く図書館二世」と呼ぶように、「歩く図書館一世」こと清二が本家だと思っている。
「ケルト神話で、貫くといえば、ブリューナク、か」
清二の言葉に、ルラが「えっ」と思わず声を洩らした。自分の持つ武器と同じ名前だからだ。
「しかし、誰が、どうやって倒した?この現状からして、大魔法並みの高威力で消し飛ばしたと見えるが」
清二の言葉に美園が、静かに言った。その言葉には少し迷いが、躊躇いがあったように思えた。
「王司が……。王司がやったの」
その言葉に、清二が一瞬、理解不能に陥った。しかし、それはほんの一瞬。美園でなければ気がつかなかっただろう。
「王司。王司が居るのか……」
美園の視線が王司の方を向き、それに釣られ清二も見る。そして、王司を認識した。とびっきりの美女に膝枕されている我が子の姿に、清二が、一瞬唖然とする。
「あ~、とりあえず、この子達は、誰だ?」
まず、清二は、王司の周りの人間の自己紹介を促し、隙を作って、心を落ち着けようとする。そうして、少女たちは、自己紹介をするのであった。最後にサルディアが自己紹介をする頃には、清二はいつもの冷静さを取り戻していた。
「それで、最後の君だが……、人間ではないね。深い【力場】が見える」
清二のその言葉に、サルディアは意外そうに驚きの顔を見せてから王司の頭を撫でながら言う。
「ええ、人間ではありませんわ。ですが、貴方も【力場】を認識している時点で本当に人間かどうか怪しい感じがしますわね」
その言葉に清二は、若干引きつった笑みを浮かべて、少し迷ってから、溜息をついて言った。
「まあ、俺の魂は、妹と……、精霊へ至った妹と繋がっているからな」




