46話:断罪の天使
サンダルフォン。罪を犯した天使を裁き、幽閉する場所の階層支配者とされ、かの大天使メタトロンの双子の兄弟とされている。
そして、その名を受け継ぐ【断罪の銀剣】のサルディア・スィリブロー。天使を裁く劔を授かり、そして、【金色の炎柱】のメルティア・ゾーラタの義理の妹でもある。それは【正義】の象徴であり、全てを裁く者へと至る。
「【断罪の銀剣】っ!!!!」
だから、それは、一体となる王司にも分かる。そして、使える。断罪のための輝く剣が。天使たちに伝わる聖なる宝具が。
《聖具》。天使たちが持つ力。一つ一つが大きな【力場】を発生させる。そのため、世界にも使用者にも大きな力の負荷がかかるのだ。そのため、《古具》よりも扱いづらい。
「邪神バロール。貴様の【悪】は、俺が全て裁く。【正義】の名の下に」
そう言って掲げる銀の剣。柄は銀色で三十センチほどの長さ。鍔は、幅広で、刀身にピタリついている形。特に装飾はない。刀身は、一メートル八十センチほどの長さで、大体身長と同じくらいだ。そして、銀の刀身の細部には、細かい術式が組み込んである。それこそ、【断罪の銀剣】。
「【我を裁く……】、【笑わせるな、小僧】」
歪な声でそう言うバロール。だが、王司は、振るう。銀の【正義】を纏った天使の剣を。まず一振り。
――ドォオン!!
銀色の剣閃。眩い光とともに、バロールの横を通り過ぎる。その一撃は、周囲を消し飛ばすほど強い一撃。
「【何】」
バロールの歪な声での驚き。そして、王司の髪が、瞳が、【力場】によって染まっていく。眩い銀色に。
「えっ……」
ルラが、紫苑が、真希が、秋世が、美園が、彼方が、龍神が、全員が全員、驚いた。その劇的な変貌に。全てが銀に染まり、そして、王司の背からは、銀翼が顕れていたのだ。
「【これは、何だ】」
バロールすら動けない。そんな中、王司は、奏でるように、囁くように、その言葉を唱えた。
「終極神装」
その言葉とともに、王司の周囲が変容する。王司の横に、銀髪の女性が現れていた。まるで寄り添うように。
それと同時に、王司と女性の服装が変わる。王司が先ほどまで来ていた制服ではなく、銀で出来たプレートアーマーのような鎧。そして、耳飾り。銀細工の精巧な十字のような耳飾りが右耳についていた。
女性……サルディアも王司と同じく、服装が変わる。銀の腰部プレート。まるで、胸部を守るだけのような胸の形に添った形状の銀のアーマー。右手だけ銀製の籠手を装備している。露出が多い、到底身を守る用の鎧とは思えない。そして、左耳に、王司のものと対になる銀十字の耳飾り。
「「我等が【正義】の裁き」」
王司とサルディアの声が、同時に響く。まるで、言霊を唱えるように、そう言った。それと同時に、聖なる陣が刻まれる。その瞬間、王司とサルディアの身にもその【聖痕】が刻まれる。
「「【断罪の天使】は咎人を裁く」」
二人は、宙へ舞う。そして、二人で一本の劔を持つ。その劔は、先ほどまでの【断罪の銀剣】とは違う。刀身は倍以上に伸び、細部に蒼い【聖痕】が刻まれている。それが、本当の【断罪の銀剣】の姿である。咎人……罪深き天使を裁く剣。
「【裁き】、【フザケルナ】」
それでもバロールは、言う。しかし、その言葉は、意味をなさない。もはや、バロールの攻撃は、届かない。
「「全てを裁け――」」
そして、【聖痕】の力を解き放つ。莫大な【力場】を解き放つ。それこそ、因果の狭間が揺れるほど。
「因果に干渉をしている?!」
龍神の驚いた声。因果、それは手の触れようもない絶対の理。それに干渉をすると言うことは、理の外に居る存在である証。
「「【断罪の銀剣】」」
銀翼が天を舞う。羽がひらひらと花弁のように舞い落ちる。それと同時に二人の【聖痕】が光を放つ。地面に刻まれた陣も呼応するように光る。
そして、銀の太陽が生まれた。
そう思ってしまうほどに大きく眩い光が【断罪の銀剣】から放たれた。それは、バロールを巻き込み、そして、完全に消滅させる。
それと同時に、二人の姿が元に戻る。サルディアは未だに顕現したままである。気を失った王司をサルディアが抱えている。
「【悪】は滅びる。そして、【正義】は勝つ、ですわね」
そう優しく王司に微笑むサルディア。ちなみに、サルディアが顕現したままなのは、王司が気を失っているため、因果の狭間では、許可なしに同化できない状態なので、顕現したままで居るしかないからだ。




