43話:神醒存在
「そう言えば、だが」、とそんな風に、龍神が口を開いた。そして、何か言おうとして、気づいたように別のことを口にする。
「ふむ、そう言えば、ずっと立ちっぱなしだったな。すまんな、気が利かず」
そう言って、龍神は、ソファに座るように促した。それにしたがって、皆、ソファに座りだす。もう、王司達が、この因果の狭間に入ってから小一時間は経過しているはずだろう。しかし、先も言ったとおり、此処は時の流れが隔離されている。そのため、此処で数日過ごしたところで、元の場所では数時間も経っていないことだろう。
「それで、だが、そう言えば、清二の奴がこの間、出かけて行ったことを思い出してな……」
龍神は、そう言った。王司は、父の情報に、眉を顰めた。そして、王司が龍神に問いかける。
「何処に出かけたんだ?母さんと一緒だったのか?」
二つの問いを龍神に投げかけた。今や、どこに居るかも分からない、何をしているかも分からない両親についての情報を知りたかったからだ。それを龍神は、答える。
「ふむ、どこ、と言われても……。確か、聖の知り合いのところだったか……。一人で行っていたな。帰ってきたときに、実体の『蒼王孔雀』を持っていたことには流石に驚いたな」
そんな風に言った。それに驚いたのが秋世だった。秋世は、目を丸くして、龍神に問いかける。
「聖さんの知り合いって、一体……?」
秋世の声に、龍神が唸る。ちなみに青葉聖に秋世が「さん」付けをしているのは、次元的存在として上位種だからだ。青葉聖、清二の妹にして、第六典神醒存在。
「確か、狂ヶ夜緋奏と言ったか」
その名前に、サルディアが驚いた。その驚きは、王司の脳に響き、王司が思わずソファからずり落ちそうになった。
「狂ヶ夜……緋奏……。第一典神醒存在?!」
そして、度々でる「神醒存在」と言う単語に、紫苑が首を傾げる。はっきり言って意味が分からないのだ。
「あの、そう言えば、神醒存在とは、どう言う意味なんでしょう」
紫苑が突如口にした。その言葉に、秋世と龍神が「むぅ」と謎の声を上げる。ちなみに、サルディアの声は、皆に聞こえていないため何の脈絡もなく急に紫苑が「神醒存在ってなんですか?」と言い出したようにしか思えない。
「急に何でかは分からないけれど、まあ、清二さんの妹の聖さんとかのような存在のことね。えっと……【神】の曲に目【醒】めし【存在】で神醒存在」
秋世の言葉に、それでも首を傾げる紫苑と真希。まあ、「神の曲」とは何ぞやと言われても秋世にも、龍神にも答えられないのだが。
「そもそもどんな人なんですか?」
紫苑の言葉に、目聡く王司が反応する。いや、王司と言うよりはサルディアが反応したのだろうか。
「いや、神醒存在は、その名の通り、『人』ではないと思うぞ」
その言葉に、サルディアも頷いている。そう、神醒存在は、元が人であろうと、もはや成った時点で、人ではなくなる。
「第六楽曲洗礼神奏・第六典神醒存在。それが聖さんだったはず。清二さん曰く、『精霊の類』だそうよ」
第一楽曲讃美神奏・第一典神醒存在・【狂った調律者】狂ヶ夜緋奏。
第二楽曲結合神奏・第二典神醒存在・【流星を見上げる者】リューラ・ハイリッヒ・ステラ。
第三楽曲夢零神奏・第三典神醒存在・【虹色洗礼】アデューネ。
第四楽曲天神神奏・第四典神醒存在・【武神】――――。
第五楽曲魔境神奏・第五典神醒存在・【炎中で眠る姫騎士】――――。
第六楽曲洗礼神奏・第六典神醒存在・【滅びの龍を内包せし者】蒼刃聖。
第七楽曲幸福神奏・第七典神醒存在・【――】――――。
それら、七人こそ第七……神に選ばれた神聖にして新生する真精で【神】の曲に目【醒】めし【存在】。
「精霊……妖精とは違うの?」
真希の素朴な疑問だ。それに答えたのは、王司だった。王司は、頭の中で簡単に精霊と妖精の違いについて考えた。
「精霊は、精神霊体系統の総称のことなんじゃないのか?それで、妖精は、その中の一つ。あ~、要するに、ライオンはネコ科だろ?それと一緒で精霊科の妖精って種族みたいな感じだろう」
王司がおおよその説明をしてから真希でも分かるように、説明しなおした。それを聞いて真希がなるほど、と頷いた。
「青葉君、そう言えばですが、お父さんの名前に関しては頻繁に会話中に出てきますが、お母さんはどのような方なのですか?」
紫苑が何の脈絡もなく、突然に切り出した話題。あまりの突然ぶりに王司が「何を言っているんだ?」と固まった。秋世も固まっている。そして、龍神すらも固まっている。
「あの、どうかしましたか?」
王司が、渋々と口を開こうとする。しかし、何と紹介すればいいのか分からず、「う~ん」と悩む。いつもの素振りではなく、本当に、真剣に悩んでいる。
「あ~、まあ、皆も姿は見たことあるはずよ……」
秋世が言う。その言葉に、紫苑もルラも真希も首を傾げた。そして、王司すら首を傾げた。
「って、何で王司君も首を傾げてるの?!」
秋世が驚いて声を上げたが、王司には、何で皆も姿を見た事があるのかが分からず、首を傾げていた。




