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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
龍神編
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38話:天使達の戯れ

 王司が銀朱の光に包まれて、一瞬、気づけば、不思議な部屋に居た。まるで、空白のような白い部屋。何もない部屋だった。周りに生徒会メンバーの姿はない。


「どこだ、ここ」


 そこは、まさに【空白】だった。


「これは、困ったことになりそうですわね」


 そう言ったのは、銀髪に銀翼を持った麗しき女性。――サルディア。銀色としか形容しようのない王司に宿る「天使」だ。流れる様に腰元まで伸びる銀髪は、キラキラと輝いているように見える。それゆえ、【空白】の中でも映えて見える。まるで大粒の真珠の様な銀色の瞳。それを縁取るように伸びた白色の睫毛。綺麗に整った白い眉。白磁の様に純白の肌。そんな中でもほんのり淡い赤色をしている頬。ぷっくり赤い唇。おそらく、王司が今まで見た中で、最も美しい、神秘的な女性だろう。そして、最も王司が頼りにしていて、王司が最も信じていて、王司が最も好いている女性だろう。そして、最も愛していると言っても過言ではない。ちなみに、二番目に美しいと思ったのが秋世で、二番目に頼りにしているのがルラで、二番目に信じているのが紫苑で、二番目に好いているのも紫苑で、二番目に愛している人物などいない。真希の不待遇がよく分かる。ちなみに最も幼なじみなのは真希だ。最も幼なじみとはなんだろう。


 そして、彼女――サルディアの最も特徴的な部分とも言えよう背中から生える翼。普段は、二翼一対。だが今は六翼三対。六枚の翼を生やしている。ちなみに、二番目に特徴的なのは、全身銀尽くめなことだ。


 それは、【空白】で顕現したからこその翼の数。本来の、【超高域】に居た頃の姿である。


「相棒……」


「直接会うのは初めて会った時以来ですわね」


 そうやんわりと微笑みかけるサルディア。その表情に、王司は、思わず息を呑んだ。それほどまでに美しい。


「ああ、そうだな。だが、どうして」


 どうして姿を顕したのか、と言う問いをしたかった。しかし、王司が言いきる前に、サルディアが言った。


「此処はどうやら、次元と次元の狭間、次元層の間にある場所のようですわね。そのため、高位次元に普段はこの身を置いている私も、次元の関係のない場所である此処に来た場合は、外に顕れるしかないのですわ。此処では次元の上下がないのですわ」


 そう言った。要するに、普段から上の層に存在するサルディアだが、ここでは、次元の上下がないため、上の層に居ようと下の層に居ようと同じ次元に存在することになるのだ。


「なるほど。そう言うことか。それにしても、龍神とやらの場所に連れて行くと言っておいてこの有様か。どうなっているんだ?」


 王司の疑問の声に、サルディアが周りを見渡して答えを導き出す。こう言ったオカルト染みた物に関しては王司よりもサルディアの方が答えを導き出せるのだ。知らないものに対する答えは、幾ら王司でも導き出せないからだ。推測は幾らでも出来るが、この場合において、手掛かりが少なすぎる。


「おそらく、隔離されたのでしょうね。次元の狭間に入ったときに高位次元の存在である私が一緒だったために」


 その言葉に、王司は、少し考えるような素振りを見せてからサルディアに声をかけることにした。


「出入り口のような物はないよな……」


 王司の言葉に、サルディアは、周囲を見渡して、再三周囲を見渡してから少し迷って王司に言う。


「なさそう、ですわね……。でも、此処には、【不可侵神域】を感じますわ。おそらく、どこかが【不可侵神域】と繋がっているのですわね。あれも、世界の理の外にある、ある意味次元の狭間にある場所ですので」


 【不可侵神域】と言う聞きなれない単語に王司が「それはなんだ?」と目で問うようにした。サルディアは、目で返そうにも返せないほど説明が長いので、仕方なく喋ることにした。


「【不可侵神域】とは、私の元仲間が居るところですわ。向こうとのコンタクトは、本来私たちには不可能なのですが、この状態ならコンタクトが取れるかもしれませんわね」


 そう言って、サルディアは、少し迷う様な素振りをした。実際問題迷っていた。誰にコンタクトを取るか、と言う問題である。


「んー、どうしますか、迷いますわね……。交流のない七天とコンタクトはあまり取りたくないのですけれど……」


 そう言って、仕方なく、サルディアは、七天の中で、唯一面識のあるかつての友に呼びかけた。


「ソウジ……、【蒼き剣嵐(エクシア)】のソウジ。聞こえますの?」


 サルディアの声に、王司が「ん?」と声を上げそうになった。「ソウジ」と言う名前に偶然かどうか。三代目剣帝「蒼刃(あおば)蒼司(そうじ)」と言う、聞いたばかりの名前を思い出していた。


『……その声、【断罪の銀剣(サンダルフォン)】のサルディア。サルディア・スィリブローか?』


 返ってきた言葉に、サルディアは、あまり嬉しくなさそうな様子だった。実際に、そこまで親しくない相手なのだが、さらに、王司と蒼司の関係も相まってややこしさに磨きがかかるため、あまり嬉しくはない。


「ええ、その通りですわ。少し厄介な事態なんですの。力を貸してくださいませんこと?」


 サルディアの言葉。少し厄介と言ったが、実際には、少しどころか、かなり厄介な事態である。


『構わんが……。そうだな。詳しい話に関しては、俺がそちらに行くまで待って貰おう』


 蒼司の回答に、サルディアが意外そうな顔をした。実際、意外だったのだろう。蒼司等、七天は、【不可侵神域】から出てくる事がない、と言うのが通常のことだからだ。


「こちらにでてきてよろしいのですの?」


 サルディアのそんな意味も含んだ問いに、蒼司は、少し迷うような間を空けてからサルディアに言った。


『ああ、まあ、ろくに旅行なんて行けなかったから、新婚旅行の意味合いも込めて外に出ようと計画していたからな。特には問題ない。そちらに行ったあとそのまま旅行に出るとしよう』


 サルディアには、よく分からなかったが、来てくれると言うのだから待つとしよう、と思った。そして、数秒後、サルディアの眼前に、七色の光が差した。それを見たサルディアが「ひっ」と上擦った悲鳴を上げた。


「なっ、なんであの方まで出てくるんですの?」


 思わず洩らしてしまった言葉。それは、ある人物の登場を意味していた。そう、その人物だけが七色の光を持つことを許された存在であるのが分かっているから、洩れてしまった悲鳴なのだ。


「ふぅ、紫色(しいろ)。上手く調節できたみたですね」


 明るい声でそう言って七色の光の奥から出てきたのは、その光をそのまま宿したような七色の髪を持つ少女だった。その髪は、足元を越えて、地面にまでついている。


「あの、もしかして、僕は、調節のためだけに呼ばれたの……?」


 紫藤(しどう)紫色(しいろ)こと、【紫色の狙撃者(デュナメス)】のシイロが文句を言うように七色の少女に言葉を投げかけた。


「違いますよ。私達も新婚旅行ですよ。色んな世界を回ろうと思ってますが?」


 急に言った七色の少女の言葉にシイロは眩暈がするような気分だった。大分慣れたはずだったのに、時折発せられるスケールの大きい言葉に、未だに慣れることのないシイロだった。


「と言うより、アデューネさんが外に出るんだったら、俺達はいらなかったんじゃないのか?」


 蒼色と形容するに相応しい二十代半ばほどに見える青年が、七色の少女に向かってそう言った。

 七色の少女こと、アデューネ。かつての名を出すならば【虹色洗礼(ヘブンズ)】のアデューネ。彼女もまたリューラ……スターゲイザーと同じく、世界の傍観者である。


「何を言ってるんですか。新婚旅行は大事ですよ、ねぇ。(しずか)さん」


 その言葉に、何も言えずに居た王司の頭に、嫌な予感がした。先ほどのサルディアの「ソウジ」と言う呼びかけ。アデューネの「静さん」と言う言葉。どちらも剣帝の話に出てきた人物である。そう、蒼刃蒼司と婚約したのが、二代目剣帝の「静」である。そして、それは偶然ではないのだろう、と王司は思った。


「そうですね、新婚旅行は大事ですね、アデューネさん!」


 そう言ったのは、蒼司の横に居た茶髪の美人な女性だった。おそらく静である。と言うより、「静さん」と言われて反応している以上、おそらくも何もないのだが。


「ん?えっ。んん~?」


 静が、話の途中で王司に気づき、王司を凝視した。ジーッと見ている。穴が開くほど見ている。ちなみに見ているだけで穴が開いた場合、それは目から何か出ているので、試しに目から不可視の光線でも出ていないかチェックした方がいい。


「もしかして、蒼衣(あおい)?」


 静は、長らく会っていない息子の名を口に出した。それに対して答えたのは、蒼司の方であった。


「何を言っているんだい、静。蒼衣は、僕等、【不可侵領域】に居た身と違って、もうどれだけの時間が経っていると思っているんだい?蒼衣が生きているはずないじゃないか」


 そう言って静を説得した蒼司。そして、だから会わせたくなかった、と言うような顔をするサルディア。


「でも、蒼衣にそっくりよ?目元とか、貴方によく似ているし、造形的には私に近いし」


 そんな風にして、またしてもジーッと王司を見る。それがいい加減堪らなくなった王司は、静に言う。


「俺は蒼衣と言う名前じゃない。王司だ。青葉(あおば)王司(おうじ)


 その言葉に、静は、「まあ」と手を打った。何が嬉しいのか、「きゃいきゃい」とはしゃぎだす。


「もしかして、蒼衣たちの子孫?そうよねっ!」


 その関係性を説明するとややこしいことになるのだが、闇音(あんね)の孫と(ひかる)の息子の間に生まれた子の孫の孫の孫の子と言うことになる。と言うことは孫の孫の孫が清二なるわけだ。そして、そうなると、ややこしいことに一世代分ずれてどちらとも言えるのだ。孫の孫の孫と言う部分は問題ではなく、闇音の「孫」と光の「子」が婚約しているので、どちらを辿るかによって変わる。つまり、蒼司と静の「孫の孫」か、「孫の子」かによって曽々祖父の「々」の部分の数が一個増えたり減ったりすると言うことだ。何てややこしい。ちなみにややこやしいと言った場合は名古屋弁だ。


「まあ、子孫、だとは思うが」


 王司の言葉に、サルディアが「はぁ」と溜息をつくように息を吐いた。それは溜息とどう違うのか。


「そうなった場合、やはり、二神性存在(ハイブリッド)になるのですわよね?」


 それは、王司ではなく蒼司に対する問いだった。そして、王司には、その言葉の意味は分からなかった。蒼司は、「その通り」と頷いた。


「やはり、『正義』に相応しい。そうあらためて思わされますわね」


 そう言って柔らかな笑みを王司に向けた。それから、本題に入っていないことに気づき、サルディアは、蒼司に言った。


「ソウジ。この【空白】から脱出する力を貸して欲しいのですわ」


 サルディアの言葉に、蒼司は、暫し辺りを見回し、特殊な【力場】があるわけでないことを確認した。


「【力場】は通常だな。次元の狭間と言うだけ、か」


 蒼司は、そう言った。そして、手元に、一本の剣を呼び出した。【蒼き剣嵐(エクシア)】の称号の通り、本来は、複数の剣を嵐の如くラッシュするのが蒼司の戦いである。しかし、この場合は、ただ、【空白】の壁を打ち壊せばいいだけだ。たかだかそんなことに、剣を複数使うまでもないのだ。


「ハッ!」


 ただ一度、剣を振るった。それだけだった。しかし、それだけで十分だった。その一撃は、蒼色の【力場】を振りまく。斬撃となって、【空白】に激突する。そして、いとも簡単に、【空白】は破れ去った。


「さて、これでいいかい?」


 蒼司はそう言うと青色の翼を広げ、静を抱え、飛び去って消えた。次元の狭間を飛んで渡っているのだ。


「じゃあ、私たちも行きましょうか」


 そう言って、アデューネと紫色も姿を消した。その直後、【空白】が完全に崩れ始める。「白」しかなかった世界に皹が入り、完全に崩れ去る寸前、サルディアは、王司に言う。


「手を繋ぎたいのですわ」


 その言葉に、一瞬、王司は、目が丸くなった。だが、王司は頷いた。そして、サルディアの美しい手を握る。


「手を繋げば、もう一度、貴方の中に入れますわ」


 そう、王司自身の快諾があれば、次元のないこの空間においても、王司と一体化する事が可能になる。サルディアを表に出すのは、かなりまずい。王司にとっては、サルディアの存在を秋世やルラ、真希に知られるのはまずい。サルディアにとっても、今、その存在をばらされることはあまりいいとは言えない状況にある。


「では……」


 サルディアが白銀の光に包まれる。【空白】世界の崩壊とともにサルディアの姿は消えた。しかし、王司は奇妙な感覚があることに気づく。いつもより身近にサルディアを感じる。


「今は、直に貴方の中に居ますわ。ですから、概念的な距離は曖昧で、貴方と同じ位置に存在しているはずですわ」


 つまりは、いつもの高位次元に居るのとは違い、直接的に王司の中に居るため、近く感じると言うことだ。


「まあ、この場合は、あの七峰紫苑には、私の声すら聞こえてしまいますが、大した問題にはならないと思いますわ」


 その言葉を聞いたと同時くらいに、王司の身体は、淡い光に包まれた。《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》と同種の転移に関する光だろう。そう思うと王司は光に身を任せた。

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