35話:繋がり
蒼衣は、今一度、目の前の女性、火々璃と向き合っていた。モスグリーンの瞳が、鮮やかに写る。
「どうかしました?」
「いや、それで、結局、君は何をしに来たんだい?」
蒼衣の言葉に、火々璃は、新聞紙を差し出した。新聞には、大きな見出しで「新生の巫女誕生、雨月茜」などと書かれていた。
「これが何か?」
「あっ、その記事ではなく、こちら」
そう言って、火々璃が別の記事を指した。「八刀神の秘宝、バルムンク!使い手求む。相応しき相手は何処に?」と言う記事だった。
「何だ、この胡散臭い三面記事のような記事は」
「その『バルムンク』がこれです」
その言葉に目が丸くなる蒼衣。無論比喩である。人間の目は、元々丸いと言えば丸い。それに四角になったり三角になったりすることはない。そうなった場合は、それは人間ではない。
「そして、相応しい使い手は、蒼衣様以外にいないと思います」
そう言い放つ火々璃。
「だから、俺にくれるのか?」
「はい、そうです。その方が、この子も喜ぶと思うので」
この子と称す「バルムンク」。
「そして、私も蒼衣様の物になります!」
「……ん?ん?!え?なんだって?」
難聴の主人公の如く聞き返す蒼衣。それほどまでに理解しがたい言葉だったのだ。
「ですから、私も蒼衣様の物になります!」
「え?なんだって?」
「ですから、私も蒼衣様の物になります!」
「え?なんだって?」
「ですから、私も蒼衣様の物になります!」
「え?なんだって?」
「ですから、私も蒼衣様の物になります!」
「え?なんだって?」
「ですから、私も蒼衣様の物になります!」
「え?なんだって?」
「ですから、私も蒼衣様の物になります!」
「え?なんだって?」
「ですから」
「ストーップ!あんた等いい加減にしなさい。つーか、さっきの剣のやり取りと言い、今のと言い、あんた等繰り返すの好きなの?ねえ?無意味に繰り返すの好きなの?」
いい加減鬱陶しいと、いい加減にしなさいと、いい加減に怒鳴るいい加減な蒼子。いい加減にしろ。
「それで、何であなたが、蒼衣のものになるわけ?」
蒼子の問いに、火々璃が答える。
「バルムンクはあくまで八刀神の秘宝ですから。私が嫁ぐと言う形で相応しい方に渡すしかないんです」
「なるほど」
頷く蒼子。一方蒼衣は、動きが完全に止まっている。
「え?なんだって」
「まだ言ってんの?」
「いやいやいやいや、よく分からないって言うか、え?どう言うこと?」
蒼衣はいまいち状況を飲み込めていないようだ。
「だから、あんたにバルムンクをあげる。だから結婚しよう、ってことでしょ?」
蒼子の意訳に、蒼衣は、眩暈がするような気がした。
「意味が分からん」
「意味が分かりません」
「何でだっ?!」
蒼衣が、意味が分からないことが火々璃には意味が分からないようだ。意味が分からない。
「とりあえず、あんた等、中々面白いんだから結婚すればいいじゃない?」
「え?本気、姉さん」
思わず即座に聞き返す蒼衣。
「まあ、ここまで変なやり取りが出来るのだから、息はあっているのだろう?」
リューラもそう言った。
「で、でも」
「あ、あの……、私じゃ、ダメ、ですか?」
まだ反論する蒼衣に、火々璃が上目遣いで見ながら目を潤わせてそう聞いた。
(反則だ……。可愛い)
そんなことを思ってしまった時点で蒼衣の負けだ。
「なんだ、可愛いって思ってんじゃん」
蒼子に見透かされてしまう心。双子の共感覚同様、もしくは、紫苑と王司同様繋がりあっていると言うことか。
「はぁ、はいはい。もう好きにしてくれ」
だから、蒼衣は全てを諦めた。




