34話:流星の観測者
剣帝になってから早数年、蒼衣達に注目する人たちも居たが、大分熱も収まってきた。そんな折、蒼衣を訪ねてきた一人の少女が居た。名前を「八刀神火々璃」と言う。
「八刀神火々璃、さん?」
「はい!」
蒼衣の声に、元気よく返事をする火々璃。彼女は、爛漫の笑みを浮かべていた。蒼衣に名前を呼ばれたのが嬉しかったのだろう。
「えっと、何の用事」
「えっと、その、あの。こ、これ」
火々璃が差し出したのは、「バルムンク」だった。
「ん?これは、剣、だよね」
「はい、我が家の秘宝『バルムンク』です」
モスグリーンの双眸が蒼衣をしっかりと捉えていた。
「えっと、その秘宝を何で俺に差し出してるのかな?」
蒼衣は訳が分からず首を傾げた。それにつられて火々璃も首を傾げる。訳が分からない。
「いや、だから」
蒼衣がもう一度言おうとするのを蒼子が止めた。
「蒼衣、なんだかよく分からないけれど、言っても理解してくれなさそうだから受け取っておきなさい」
蒼子が言ったので蒼衣は「バルムンク」を受け取った。そして、火々璃に返した。返された火々璃は、蒼衣に差し出した。蒼衣は受け取った。火々璃に返した。火々璃は、蒼衣に差し出した。
「って、何やってるのよ?」
蒼子が聞いた。
「何やってるんだろうな」
蒼衣も聞いた。
「何やっているのでしょうね」
火々璃も聞いた。
「同じことを繰り返しているのだろう?」
そして、全く知らない声が答えた。
「リューラさん」
「ステラ」
蒼衣と蒼子がそう呼んだ。ちなみにリューラがファミリーネーム、ステラがファーストネーム。ハイリッヒがミドルネームである。
「ふむ、どうも。前にあったのは、剣帝大会の前か」
「ええ、久しぶりです」
「ふむ、時間の感覚と言うのは妙なものだ。時間の理を離れているだけに私としては、最近会ったばかりなのだが、そうか、君らからしてみれば、そう『久しぶり』に当たるものなのだな」
リューラ・ハイリッヒ・ステラ。神醒存在。世界を見守るもの。その中でも「第二」の曲に目覚めた存在。またの名を、――【流星を見上げる者】。
「そう言えば、父の知り合いなんでしたっけ?」
そう、彼女が「父の知り合いの知り合い」を名乗って蒼衣と蒼子に接触したのは、剣帝大会の前になる。
「知り合いの知り合いだ。アデューネの知り合いと言うだけに過ぎない」
そう言って微笑むリューラ。いや、仮面で目元が覆われているのでいまいち笑っているのか判断が付きにくいが口が笑っているのでおそらく微笑んでいるのだろう。仲間の話題が出ると、彼女はいつもこのような表情をする。
「父の知り合い、と言うのがよく分からないわよ。父って、どんな人なの?」
蒼子の質問。蒼子はリューラとは比較的フランクに話している。
「ソウジか?私もあまり詳しくないからな」
そう言って、う~んと唸るリューラ。
「まあ、悪い奴ではないな。その同僚は中々に面白い奴だが、ソウジは真面目だしな」
そんなことを言っていると、火々璃が首を傾げた。
「そう言えば、お二人は、御姉弟でしたよね?でも、何故苗字が異なるのですか?」
そんなことを今更問われるとは思っていなくて、二人は、目を白黒させた。無論比喩である。実際に目が白黒点滅したら、それは人間ではない何かだ。
「あっ、ああ、久々にされたな、その質問」
「ええ。流石に、今更感ありすぎて逆に新鮮よね」
そんなことを言いながら言う。
「えっと、父の苗字が『蒼刃』で母の苗字が『七峰』だったのよ。そして、どちらもそれなりの家でね、どちらの苗字も残したいってことになったのよ。だから、双子のそれぞれに別の苗字をつけることにしたの。まあ、それぞれの両親が別々に育てることにして、実質、四人暮らし……だったらしいけど父は、早くにどこか行ってしまって、その後、母も父を追って、どこかに行ってしまったから。っと、関係のない話になってしまったわね。まあ、苗字が違うのはそう言うことよ」
蒼子の説明に火々璃が「ほぉー」と声を洩らした。




