表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
古具編
3/103

03話:ルラの行方

 【南方院】財閥、本社ビル、最上階にある社長室に、社長の娘である南方院ルラと、彼女の自殺を防いだ女性、天龍寺秋世が居た。彼女達の前には、腕を組む中年の男性が居る。その風格は、人を支配し、動かしている者のそれである。


「それで、ルラが自殺をしようとした、と言うのは本当かね?」


 深く沈んだ声音で、ルラの父にして、【南方院】を支配する南方院(なんぽういん)朱雀(すざく)が、秋世に聞いた。


「はい。本当です」


 秋世が頷いた。その横でルラは、深く俯いている。


「ルラ、お前と言う奴は!」


 怒声を上げる朱雀に対して、秋世が静かに言う。


「ルラさんは、確か、三鷹丘の高等部に通っていましたよね?」


 秋世の声に、朱雀は、怒る気を削がれ、「あ、ああ」と答える。


「確かに、ルラは、三鷹丘の二年に席を置いている」


 朱雀の答えに、満足したように、秋世が言う。


「三鷹丘には、【天龍寺】も顔が利きます。ここは、彼女を私に預からせていただけませんか?」


 秋世の申し出に朱雀は首を横に振った。


「ダメだ。ルラは、我が【南方院】の唯一の跡取りだ。外に出すわけにはいかん」


 朱雀の言葉に、秋世は、鋭い声を出す。


「彼女は、《古具(アーティファクト)》に目覚めてしまっています。その力の制御を知らねば、何が起こるか分かりません」


 その言葉に、朱雀が、「ハッ」と鼻で笑った。


「そんな眉唾の話を、信じるとでも?」


 朱雀の対応に、秋世は、苛立ちを覚えていたが、抑え込む。そして、指をパチンと鳴らす。すると銀朱の光が、視界を一瞬覆う。そして、【南方院】の金庫にしまってあったはずの重要書類の数々。


「そ、それはっ?!」


 朱雀の驚嘆の声。


「この【南方院】の機密書類ですね」


 秋世のあくまで冷淡な声。秋世は、何度もこうやって、《古具》の力を見せてきた。


「どうやってそれを?!」


 取り乱す朱雀。それを冷たい瞳で見る秋世。


「私の《古具》で」


 秋世の簡素な言葉に、朱雀のうろたえが最高潮に達す。


「ば、馬鹿な……。いや、しかし……。あの金庫の番号は、誰も知らないはず……。だがっ、そんなものが存在するなんて」


 そんな朱雀に、秋世が追い討ちをかける。


「それで、ルラさんを引き取ってもよろしいですか?」


 秋世は、これを断られたら、書類を脅しの材料にするつもりで居た。


「ああ、分かった。好きに連れて行ってくれ……」


 落ち込んだ口調で朱雀は、そう言った。


「ええ、では、行きましょう。ルラさん」


 ルラを連れ、秋世は、【南方院】を後にした。





 秋世は、自分の借りたマンションの一室にルラを通した。


「狭くてごめんなさいね」


 一般人からしてみれば、十分に広い、マンションの最上階の部屋だ。しかし、古くからある名家【天龍寺】と有名な財閥である【南方院】の人間からしたら狭いのだろう。しかし、ルラは、十分だと思う。


「十分広いです」


 ルラは、ほぼ、自室に軟禁に近い状態で入れられていて、学業以外で外へ出ることを禁じられていた。だから、十分に広く感じられる。何より自由に感じられる。


「そう?よかった」


 秋世の笑顔に、ルラは不信感を覚える。


「何で、私に優しくするんです?」


 ルラの問いに、秋世は微笑みかける。


「何で、かしらね。強いて言うなら、昔の私みたいだったからかしら?」


 秋世の今の性格からは考えられない発言に、ルラが聞く。


「昔の私みたい?」


 ルラの言葉に、秋世が頷いた。


「ええ、そう、昔の私。清二さんに会う前の私みたいだった。だから、かな」


「清二さん?」


 見知らぬ人物の名に、そう問うルラ。


「ええ、青葉清二さん。貴方の友達の、青葉王司君のお父さんよ」


 その言葉で、ルラの興味が引かれる。興味津々と言ったように、秋世見た。その手のひら返しのような様子に、秋世は、失笑してしまいそうになりながら言う。


「昔の私は、沈んでいたと言うか、人見知りだったと言うか。まあ、そんなので、友人も居なかったのだけどね。清二さんのおかげで友人も交友関係も増え、今のようになったのよ」


 その赤みがかった目は、優しい目をしていた。ルラは、それに安堵を覚えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ