28話:剣を持つ者
蒼子が双剣を使い始めても、蒼衣は、ひたすら片手直剣を使い続けた。蒼子が「威力が出ないよ」と言っても聞かずにひたすら使い続けた。時に錘を付け、時に長くし、それでも片手直剣だけを使い続けた。しかし、ある日、剣帝の闘技場を再び訪れた時、その考えが変わった。
その戦いに、参戦していたとある女性剣士の強さを見て、憧れたのだ。女性の名を「五威堂弓歌」。大きな大剣を片手でぶんぶん振り回す黒髪の女性である。実は、双子の母の腹違いの弟である「立花紳」の婚約者でもあるのだが。全てを一撃で斬り伏せる力押しの剣士。その様子に蒼衣はただ憧れた。
そして、五代目剣帝となった五威堂弓歌の剣を真似、大剣を持ち始めた。
そんな或る日、二人は、母の友人からの依頼で、遠く離れた地の遺跡の調査に同行することになる。この地には、ケルト民と呼ばれるものたちがいた、とされた場所。その遺跡の調査と言うことで、毎回、多くの出土品が出るらしい。その大半がボロボロで使い物にならないそうだが。
「この遺跡に何が……?」
蒼子の声に、先導する探索員が言った。
「何でも、太陽の神と呼ばれる神様の遺物が眠っているらしいんだ。しかし、まあ、遺跡が複雑でね。トラップやモンスターも存在するほどだよ」
ここで面白そうと思った蒼衣はやっぱり男の子で、何でこんな面倒な造りにしたんだと思う蒼子は女の子であった。
「ああ、その前に、あの城に行かなくちゃならないんだったな。そうだ、ここで二手に分かれよう。女の子にはあまり迷宮とか遺跡とか向いてないよ。だから、蒼子ちゃんは、こいつらと城に向かってくれるかい?俺たちは、蒼衣君とこの遺跡を見て回るから」
蒼子はすんなり頷いた。蒼衣も頷く。蒼子は無論、泥臭い遺跡の中には入りたくなかったし、蒼衣は、姉とはいえ一介の女性を危険な目に晒そうとは思わなかったからだ。
そして、蒼子は、城の方へ歩いていった。蒼衣は、それを見送ると、遺跡に入っていく。
遺跡は、広く、古ぼけた造りだった。レンガで造られたと思われる通路は、崩れかかっていて、今にも落ちてきそうだった。地震があれば、即座に崩れるだろうが、地震など滅多にないことであるから、大丈夫か、と蒼衣は思った。
しばらくは通路が続くだけで、しかも、灯りが行く先に灯っているため、ほとんど問題がなかった。
「あの、この灯りって、誰がつけたんですか?」
蒼衣の言葉に、前を歩く探索員が言う。
「知らんよ。ここの灯りは、何故か永遠につき続けるんだ。不思議なものだろう?しかし、これを持って帰ろうにも、この蝋燭は外れないんだ」
そう言って、そのまま歩いていく。蒼衣は、遅れまいと必死についていった。だが、しばらく歩いたところで、蒼衣の耳に、何が聞こえた。
(たす、けて……)
蒼衣は最初、気のせいかと思った。しかし、違う。声がしているのだ。間違いなく、声はしている。だが、他の人たちは気づかない。蒼衣は、気が付けば、無意識に声の方へ行っていた。ハッとした時には、もう既に遅く、探索員の姿はなかった。
(たすけて……)
だが、声は強くなっていく。誰かが助けを求めている。そう思うと蒼衣は、向かわずにはいられなかった。そして、壁に手を当て、押す。来たこともないのに、何故か、開け方を知っていたように、その隠し扉は開いた。まるで、蒼衣を導くように開いた。
「ここか……?」
そう言いながら、蒼衣は辺りを見回す。そして、台座の上に飾られた一振りの大剣が目に付いた。その横の槍にも。
「これは、」
(待っていました。この声が聞こえるものを。我が名は「ルー」。この遺跡に眠りし神の魂です)
ルーと言う神の声に、気づけば蒼衣は耳を傾けていた。
(我が声の聞こえし少年。そなたに彼の大剣を与う)
そして、蒼衣は、大剣を手に取った。手にしっくり来る銀色の大剣。美しき銀の刀身に、銀の鍔。銀の柄。最高の大剣だった。
(その剣で、我が祖父を討って欲しい。その横の槍で為せなかったことを、そなたに)
ルーの声は、そこで途絶えた。ルーの祖父。一説によると、ルーは、祖父を槍(もしくは棒)で目を貫き殺している。また、別の説によると、偶然射抜いてしまったのが祖父だったとも言われている。その祖父の名を何と言うか。それは、まだ、蒼衣の知る由もないことである。しかし、あえて記すならば、――バロール――と言う。




