27話:志す剣の道
蒼子と蒼衣は、母子家庭で育った。そして、母と、いないにもかかわらず父の影響か、二人は、剣士を目指す者となる。本人達曰く、「剣士になれば母さんを守れるから」だそうだが。そうして、物心ついた時には、剣を握っていた。しかし、蒼子は、レイピアを使うのは性に合わないが、大剣は大きすぎるし、ナイフや直剣も攻撃力が弱い、とあまり自分にあった武器が見つけ出せずにいた。そんな二人は、五歳の頃、剣帝の闘技場を訪れる。勿論、参加はしない。観戦するだけだ。
両親が剣帝ともなれば、VIP席待遇で見れる。一番いいところから、剣士の魂を、意思を、心を懸けた戦いを見る事が出来た。その試合の数々に二人は心を熱く振るわせた。そんな中、蒼子は、運命の剣士と出会うことになるのだ。
「東門、帝国出身皇帝の護衛を勤める今回の最有力候補ぉおおお!バジーだ!こりゃ、相手は運が悪かったなぁ~。まあ、運も実力のうちってことで諦めなっ!と言うわけで、バッドガールゥ!西門、えーっと、出身不明住所不定無職の美人剣士ぃ!篠宮無双だぁあああ!」
わぁぁああっと歓声で盛り上がる会場。どう考えても、女性が不利すぎる対決だった。なのに女性は、「ふぅ」と息を吐いて、持っていた刀を構えた。
「おっと、無双選手やる気満々だぁあああ!」
「はぁ、こんなのに琥珀白狐使うまでもないんだけど……」
観客席には届かなかったであろう声。だが、その声は蒼子たちだけは聞こえていた。
「では、開始っ!」
その言葉と同時に、無双は、既にバジーの後ろにいた。
「おおっと速い!いつの間にか無双選手、後ろに回りこんで……、あれ、え、あれぇ!バジー選手?!うぉおおっと?!いつの間にかバジー選手の鳩尾に刀の峰で打った跡があるぅうう!!!まさか、まさかこれはっ!篠宮無双選手の勝利だぁああああ!」
蒼子は純粋に凄いと思った。自分でも認識できなかった速度の移動。そして、全くぶれていない体。魔力を微塵も感じなかった。それは、即ち、純然なる肉体の力だけであの動きをしたと言うことである。それは、凄いを超えて化け物だ。
そして、もう一人、異様に強い剣士がいた。その名前を「蒼刃蒼天」。蒼子たちの祖父である。しかし、彼は、ある種、時の流れの違う場所にいるため、年をとっていない。
「あ~あ、無双ちゃん、全然手加減してないや」
「んあ?なんか言った?蒼天の馬鹿」
もはや、「蒼天の馬鹿」で一つの名称になり浸透しつつある。実際、彼をよく知る天龍寺深紅なんかも「蒼天の馬鹿」と呼んでいるほどだ。
「馬鹿は余計だよ。まあいいや。それにしても剣帝、本当になる気かい?」
その蒼天の言葉には、「ならなくてもそれ以上の称号をもっといっぱい持っているだろう」と言う意味である。実際問題、彼女の異名は、数えても数え切れないほどである。
今の彼女の容姿は、紫の長い髪と濃紫の瞳。この世の全ての美を集約したようなそんな美貌。小柄な体。そして、それは本当の「篠宮無双」ではない。篠宮無双であって篠宮無双でない人間。いや、篠宮無双ではなくて篠宮無双である人間。それが彼女なのだ。
「まったく、何でこんな馬鹿にうちの娘は惚れたのかしらね」
無双の娘、篠宮初妃は、天海空李と言う夫がいる身でありながら、蒼天と子を儲けた。それが「蒼刃蒼司」である。また、初妃は空李との間にも子を儲けており、それが後の篠宮家の家系である。この血は、着々と、今も流れ続けている。
「こんな馬鹿って、言うほど馬鹿じゃないんだけどなあ」
この蒼天の性格が王司や清二に似ているか、と問われたら否であろう。どちらかと言うと、無双に似ている。
「まあ、私ら、そろそろ、戦うんだろうけど」
そんなことを言っているうちに、決勝として、篠宮無双対蒼刃蒼天の戦いが幕を開けるのであった。
開始の合図と共に、無双が長い太刀を振るう。しかし、それを蒼天は止める。
「蒼王孔雀!」
そして、蒼天の体が淡く蒼い光に包まれる。まるで、魂が叫びを上げるように、蒼色のオーラを纏う。
「くっ、本気ってわけ?ったく、こっちとら餓鬼の体になってて本気出せねぇっての!」
蒼天の剣に押し負けそうになった瞬間、無双は、手に持っていた琥珀白狐を二つに分かつ。
「ハァアア!!」
そして、双剣を交叉させて受け止める。そして、さらに押し返し、押し返した剣に足をかけ宙へ舞い上がる。その華麗な様子は、まるで妖精。血みどろの戦いと言う場所に似つかわしくない、演舞のような攻撃。
「無双流」
空中で、二本の剣を構え、鋭い声で唸るように言った。
「天儀・双劉牙」
そして、音速で二本の剣を振るう。その剣から放たれた衝撃波は、二筋の光となって、闘技場を駆け抜ける。
――ドォオオゥン!
まるで落雷のような大きな音が鳴り響く。巻き起こる砂煙。いや、正確には、闘技場の床の大理石が、衝撃によって細かくなり巻き上がっているのだが。
「くっ、これはマズイ、かな。降参するよ」
蒼天がたったの一撃で降参した。観客達は、もっと見ていたかったのだが、降参されては仕方がないのだった。それが剣士の戦いなのだから。
「えー、なに?降参?マジ?ありえなっ」
ぶつくさ文句を言う無双。
そして、それを観客席から見ていた蒼子は、思いついたことを叫んだ。
「わたし、双剣使いになるー!!」




