26話:訪問者
【鉄壁神塞】の一件から数週間が経った。その後は、すっかり何事もなかったかのように、平穏無事な生活が続いていた。そんな或る日の放課後、生徒会室に一人の訪問者がいた。しかし、会長である紫苑は、教室の掃除当番のため遅刻。王司は、理由は不明だが遅刻。秋世は、職員会議と、現在生徒会室にいるのは、ルラと真希だけであった。
訪問者は、若めの男性で、サングラスをかけている。しっかりとしたスーツを着ていることからそれなりの職についている事が窺えた。そして、部屋に通したはいいが、何を聞けばいいのか分からず、真希がオロオロしていた。
「あの、それで、生徒会室に何のご用件でしょうか?」
ルラの質問に、男性は、少し間を空けてからルラに言った。
「はい、龍神様のところへの扉を開けていただこうと。それにもし、ここから開かずとも天龍寺秋世嬢が居られれば連れて行っていただけるかと」
龍神様と言う単語が出た時点でルラはギブアップだった。意味不明だった。
そして、沈黙のまま数分が過ぎた。その間の真希とルラは、もう一時間や二時間経った気分だった。ルラがお茶を入れなおそうと席を立ったところで、生徒会室のドアが開いた。
「悪い、遅くなった」
「ごめんなさい、遅れました」
紫苑と王司が入ってきた。普段なら何故二人が一緒だったのかと聞くころだが、流石に、状況が状況だけに遠慮した。そして、二人が客の存在に気づき声をかけようとした。しかし、客人の男性が、ガタンと机を揺らしながら立ったことで声をかけ損ねた。
「あ、あな、あなた達はっ、そ、そんなっ、嘘、でしょう……」
男性は気が動転してしまっているのか、慌しく、あたふたと慌てふためいている。そして、持っていた鞄の中から一冊の本を出して、最初の方を数枚捲る。そして、そこに書かれているものと紫苑と王司を見比べる。
「やはり、蒼刃蒼衣様と七峰蒼子様!!」
その名前を聞いて、紫苑と王司がビクッとする。そして、客の男性の方を見る。
「その名前は、一体、どこの誰なんですか?」
その紫苑の問いに、客人は、「おっと失礼、取り乱しました」と言って、息を整えてから語りだす。
「自分は、とある場所で、闘技場の審判をしているものなのです。その闘技場には、伝説の剣帝を決める戦いが、数年に一度開かれていたそうなのです。その大会の伝説は今でも語り継がれていて、この本には歴代剣帝が記されているのです。そして、お二方は、さる剣帝様とうりふたつなんですよ」
そう熱く語ると、そのページを押し付けるように見せてきた。そこには、確かに二人によく似た肖像画がある。
「七代目剣帝であらせられる肖像画。何度見てもそっくりですね」
王司は、何故そっくりなのかが気になった。
「俺とその剣帝とやらに接点はあるのか?」
「さあ、それは分かりかねますが、蒼刃、七峰と言う苗字でしたら、血縁なのではないかと……」
それが妥当か、と王司は、頷いた。
「それにしても、どのような人なのですか、その七代目剣帝と言う人は」
「う~ん、そうですね。秋世嬢が来るまでの時間つぶしとして、自分が話しましょう。七代目剣帝、いえ、剣帝と言うものについて」
そう前置きを置いてからゆっくりと語りだす。
◇◇◇◇◇◇
剣の帝王を決めよう、そんなことを言いだしたのは、誰だったか。少なくとも、最初に剣帝となった彼女ではないことは確かだ。剣帝となったにもかかわらず、そのことを歯牙にもかけない。そんな彼女がそんな提案をするはずがないのだ。
その、初代剣帝の名は「七峰静葉」と言う。彼女は、剣帝となった後に、「剣王」を自称する「八塚英二」と婚約。間に一児の子を儲けた後、鍛冶屋の「立花信司」と重婚。ちなみにだが、この剣帝の国では、重婚が認められている。一夫多妻や多夫一妻、多夫多妻など様々だ。
そして、英二との子を「七峰静」、信司との子を「立花紳」として、育てる。
教育の過程で、別の家で育て、顔を知らないどころか、腹違いの姉弟がいることすら言わずに育てる。静は剣の道を歩み、紳は鍛冶の道を歩んだ。
その結果、二代目剣帝は、静が成ることとなった。
若くして二代目剣帝となった彼女は、多くの人々から求婚されるも困り果て、次の剣帝となった人と婚約すると言う。
それから数年後、突如、一人の青年がそこを訪れる。これこそ、剣帝の一族と謳われる二つの家が、この剣帝の聖地に揃った瞬間である。
青年の名を「蒼刃蒼司」。そして、彼は、腕試しに剣帝の闘技場へ行き、三代目となってしまう。そして、二代目である静と婚姻することに。最初は、面識がないのに結婚は、と嫌がっていた蒼司だが、静を見たとたん、一目ぼれし、婚約をする。双子を儲けるも、蒼司は、果ての地「不可侵神域」に行くことになってしまう。そして、その双子の名前こそ、「七峰蒼子」と「蒼刃蒼衣」である。




