25話:一時の休息
篠宮家は、先ほどまで王司たちがいた住宅街の真中から少し行ったところにある一軒家である。大豪邸と言うほどではないが、普通の家に比べたら大きく見える。表札には、【篠宮】ときちんと記載されている。大きな家に真琴、久々李、真希の三人で暮らしているのだから、割と贅沢である。しかし、割と良家の紫苑や、言わずもがな【南方院財閥】の令嬢であるルラや古くからある名家【天龍寺】の次女である秋世、割と大きな一軒家にほぼ一人暮らしの王司、彼らからしたら、なんら違和感がないだろう。
「ここが真希の家か」
王司の呟きに、真希が、少し居心地が悪そうで、且つ、恥ずかしそうにしている。
「さあ、あがってよ」
真琴が、双子を抱えながら、家に入った。それに続くように真琴、秋世、ルラ、紫苑を背負った王司の順で入っていく。
「あら~、あなた、お帰りなさ~い。って、あれ、真希も一緒なの?学校は?それに他の子達は?あら秋世ちゃん?それに、青葉さん……じゃない?」
久々李の言葉に、来客者一同が頭を下げた。
「また《古具》関連の事件でね。彼らは、その協力者。現生徒会役員だよ。で、こちらが被疑者」
真琴は、双子を久々李に差し出す。
「あらま~。気を失っているのね~。上の部屋で寝かせておいて上げましょう。あっ、皆さんは、上がって行ってくださいね~」
久々李の冷静な対応に、王司は驚いていた。慣れすぎている、と。
「よくあることなのか?」
王司の問いに久々李はニッコリ笑った。
「う~ん、そうですね~。あっ、ところで君は、青葉さんの」
「ああ、青葉清二は父だ」
もはや、タメ口である。真希が、気恥ずかしそうに、王司に言う。
「王司、あんた、何であたしの親とタメ口なのよ」
その語調が少し嬉しそうだったのは、王司が自分の両親に認められている感じがするからである。
「なんか、そんな感じがしたからな」
「あ~、青葉君っぽい。君、お父さんに似ているってよく言われないかい?」
真琴の言葉に、王司は、少し眉根を寄せた。
「まあ、秋世とかにもよく言われるな」
その言葉に、目聡く秋世が反応する。
「こら!せめて先生って呼びなさい!」
まあ、教師を呼び捨てすればこうなるのも当たり前である。
「あ~、この辺が少し青葉君と違うところかな。青葉君は、結局カナタさんは卒業まで敬語を遣い続けたから」
そんな風に、親子の違いを比べながら、篠宮家のリビングに着いた。
「さて、と」
リビングに足を踏み入れた時、王司の首筋に「んぅ」と洩れた息があたった。
「ん?悪ぃ、起こしたか?」
ずっと背負っていた紫苑が目を覚ましたようだ。
(んぅ?ここは、どこ、でしょう。わたしは、……紫苑?それとも、蒼子?)
紫苑の意識を同調させた王司が、その思考に違和感を覚える。
(紫苑、それとも蒼子。どう言う意味だ?)
(この声、青葉君。それとも、蒼衣?)
蒼衣と言う名に、王司がスターゲイザーの言葉を思い出す。
(蒼衣、つーと、スターゲイザーの言っていた奴か?蒼衣が成し得なかったことが出来るかも知れないね。悪神に打ち勝つ事が、とか何とか)
(スターゲイザー……。ステラ、ね。そう、確か、あの子は……。いえ、これは、わたしではない……。わたしは、そう、わたしは、七峰紫苑)
ようやく我に戻った紫苑。紫苑は、王司に言う。
「青葉君、ごめんなさい。おぶってもらっていたみたいで」
「いや、気にするな」
そう言って、王司は笑う。そして、紫苑をソファに降ろした。
(だが、蒼子って誰なんだ?)
(蒼子。確かにわたしの記憶の中にある、わたしではない誰かです。どうやら、手に剣が馴染むのもその所為みたいですね)
そう言って、疑問だったことへの答えを導き出した。
「まあ、《聖盾》使いに関しては、僕らがそれなりに手をうっておくよ。回収した《聖盾》も僕がどうにかしておくよ」
真琴がそう言った。王司は、「ああ、ありがたい」と頷いた。
「まあ~、後処理もわたしたち《チーム三鷹丘》の仕事だしね」
久々李の言った《チーム三鷹丘》と言う名前に、真琴が難色の色を示した。
「その名前、浸透してるの?月見里さんが考えたやつだけど」
エリナのセンスゼロの名前を唯一気に入っている久々李は、ニッコリと笑っていた。
こうして、少しの謎、スターゲイザーや蒼子、蒼衣と言うものを残しつつも、《聖盾》使いとの一件は、幕を閉じたのだった。




