23話:星の輝き
王司は、秋世の元に向かった。秋世の元に行けば、あとは《銀朱の時》で、他のメンバーのところに行くことも、他のメンバーを呼ぶことも出来るからだ。しかし、全くもって、秋世の居場所が分からない。こんなことだったら、事前に打ち合わせでもしておくべきだったか、などと王司は考えながら、空を見上げた。もうほとんどなくなりつつある電柱の上に、仮面の女性が立っていた。黄金の髪と銀の仮面。まるで、どこかの怪人のような風貌、しかし、怪しくない。怪人の様なのに怪しくないと言う表現も妙なものだが、事実、怪しくないのだ。
「誰だ?」
王司の声に、彼女は答えた。
「【流星を見上げる者】、とでも。それにしても、他を回ろうと思った途端に蒼衣を見つけることになるとは、つくづく数奇な運命か……」
スターゲイザー。あらゆる歴史を紡ぐ吟遊詩人。その彼女は、運命に嫌われているのかも知れない。
「青葉王司、で間違いないかな」
スターゲイザーの問い。王司は、警戒心を強めた。名前を知られていることに、驚きながらも、《古神の大剣》を手元に呼んでいた。
「如何なる逆境でも負けない……、いや、勝てる剣、か。君はつくづく運命に好かれたと見える。《勝利》の古具使い、青葉王司よ」
その剣に、如何なる鎧も盾も通じず。
その剣を握った者は負けることがない。
その剣は、必ず勝利を齎す。
その名を様々、回答丸、逆光剣など、数多の名で呼ばれる剣。太陽神ルーが借りていた剣、もしくは造った剣とされる。その名こそ、彼の剣の本当の名前である。
「《勝利》の古具……」
王司の呟き。それに応じるように、銀色の剣が呼応する。王司の体から、何かが伝うように、その剣が熱く振るえる。王司の胸の奥の何かが呼応する。
「この剣の名前は……」
そう、王司の魂は、全てを知っていた。その名前すらも。
「《勝利の大剣》」
剣の振動が一際大きくなる。そして、眩い輝きと共に、銀光を放つ。まるで、そう、まるで、彼の相棒のように。正義を求む心が、銀の光を放つように。
「ふふっ、王司。君になら、蒼衣が成し得なかったことが出来るかも知れないね。悪神に打ち勝つ事が……」
スターゲイザーは、霞むように消えた。ただ、そこに何も居なかったかのように、揺らいで消えた。
「スターゲイザー。何者、だったんだ……」
回収した《防全の盾》など、忘れ、王司は呆然とする。そこにタイミングを計ったかの様に、秋世が現れた。
「あ、王司君、丁度よかった」
王司は、秋世の方を振り返りながら《勝利の大剣》を消す。そして、何事もなかったかのように、秋世の方を見た。すると、秋世が紫苑を背負っていた。
「何かあったのか?」
負けたのか、と問わないのは、紫苑が負けるはずないのが分かっていたからだ。
「それが、突然、暴走してしまって、手をつけられなくなったところを、スターゲイザーと言う仮面の女性が気を失わせたのよ」
スターゲイザーの名に、王司が一瞬眉を顰めるが、何事もなかったように「ふぅん」と頷いた。
「暴走って言うのは、《古具》に呑まれたのか?」
呑まれると言う表現に、「う~ん」と唸りながらも秋世は、言う。
「呑まれたのは、どちらかと言うと【蒼刻】、なんでしょうね」
聞き覚えのない単語に、王司が、眉根を寄せた。
「何だ、そうこくって」
「【蒼】き心音を【刻】む、だから【蒼刻】。貴方のお父さんも持っていた力よ。己の奥底に眠る本能を呼び覚ます力。ただ、本能を呼び覚ますせいか、思考が攻撃的になったり、語調が荒くなったりするけれどね。何でも、とある神の血族だけが持っている力だとか何とかって、真琴さんが言っていたわね。魂に眠る【蒼】を全身に伝わせるから、発動中は、髪や目が蒼く見えるし、蒼いオーラを纏っているようにも見えるらしいわね」
そう、王司に眠る、血が為せる力の一つ。
だが、王司には、まだ、別の力も眠っている。しかし、それを知る者は、そうそういない。王司自身も、王司の父・清二すらも知らないのだ。
いつか、その力の封が解けたとき、王司は、さらなる正義の高みへと到るだろう。




