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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
聖盾編
21/103

21話:星を見る者

 紫苑は、勢いよく踏み込んで、《神双の蒼剣(アロンダイト)》をクロスするように振った。ゴィンと鈍い音を立て、凹む《危険知らせの盾(オハン)》。先の攻撃で入った亀裂も相まって《危険知らせの盾(オハン)》は、もうボロボロになっている。


「ハッ!」


 それでも紫苑は攻撃を続ける。もはやシャーロンに戦意はない。盾を持って震えているだけである。


「七峰さん、ダメよ!それ以上攻撃する必要はないわ!」


 されど紫苑は止まらない。もう、秋世の言葉など耳に入っていないようだ。


「ハァアッ!」


 力の籠もった声。重い一撃がとうとう《危険知らせの盾(オハン)》を割った。二つに分かたれた、その《聖盾》には、目もくれず、次の一撃をシャーロンへ向ける。


「危ないっ!」


 秋世は、咄嗟に《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》でシャーロンを自分の後ろに転移させる。


「止まって、七峰さんっ!」


 秋世の呼びかけには答えない。もはや暴走している紫苑。そして、二本の剣撃が、秋世に向かう。思わず目を瞑る秋世。しかし、いつまで経っても秋世に攻撃は届かない。


「そこまでにしておきなさいな、お嬢さん」


 目を開けた秋世の眼に、眩い金色が飛び込んできた。秋世がその金色をよく見る。それは髪の色だ。黄金の髪。顔は、目元を覆う面で分からない。銀色の細部に細かい花が描かれた面。艶美な笑みを浮かべる口元。そして、指先で紫苑の《神双の蒼剣(アロンダイト)》を止めていた。


「少しオイタが過ぎたかな?」


 首筋に手刀を当て、紫苑の気を失わせた。その流れるような体捌きは、素人のものではない。相当鍛えられた、超人の類、もしくは、人ではない別の存在である。


「あ、貴方は……?」


 秋世のかすれた声。


(わたくし)は、……そうだね。【流星を見上げる者(スターゲイザー)】とでも名乗っておこうか」


 スターゲイザー。星を見つめる者の意味を持つ。自らを【スターゲイザー】と称する女性は、秋世を見た。


「貴方は、天龍寺秋世お嬢さんかな?」


 スターゲイザーの言葉に、秋世は、小さく頷いた。


「このお嬢さんは、少々厄介な力を持っているようだね。【蒼】の一族の力を。いずれ、封ずるか、御するか。どちらにせよ、このままでは危険すぎるよ」


 スターゲイザーは笑う。


「剣帝の記憶は、魂に刻まれる、か。まさしく、かの剣帝・七峰蒼子の生き写し」


 スターゲイザーの視線は、間違えなく紫苑を捕らえていた。スターゲイザーは、知っているのだ。七峰蒼子と言う、紫苑の知っているはずのない記憶のことを知っているのだ。魂の奥、血潮の中に眠る、七峰蒼子と言う人間の記憶、意思の存在を。


「そして、蒼子がいるのなら、蒼衣も……。蒼刃蒼衣も確実に存在しているはずだ。そして、その二つは確実に、出会うだろう。幾人の子らに流れた血が、巡り巡って、このようなことになったのかもしれないな」


 蒼刃蒼衣。紫苑の見た記憶の断片に存在した青年。


「まあ、(わたくし)には、関係のないことだが」


 スターゲイザー。流星の観察者。星を見上げし者。そして、流れる世界の傍観者。彼女は、あらゆる歴史を紡ぐ吟遊詩人。もしくは、【神】の曲に目【醒】めた【存在】。


「それにしても、(ゆうじん)の育った環境を見に来ただけでこの有様とは、(わたくし)はどこまで災難に好かれているのか……」


 そんなことを呟きながら、足を進めていくスターゲイザー。


「次は、緋奏か、それともアデューネか……」


 向かう先を決め、秋世の《銀朱の時ヴァーミリオン・タイム》に似た淡い発光と共に、跡形もなく、そこに存在していなかったかのように姿を消した。

 秋世は、その様子をただ、呆然と眺めていることしか出来なかった。

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