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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
古具編
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02話:青葉王司

 青葉王司は、黒髪黒目の一般的日本人の見た目をしている。長い前髪が目にかかりそうだ。王司は髪を切るのが面倒だから、とあまり切らないためただ伸びているだけだ。長身痩躯。背が高く、痩せている。そして、整った顔立ちは、多くの女性を魅了する。しかし、本人にはその自覚が一切無い。ただ、彼は、ある企みを企てている。


 そして、その企てに、《古具(アーティファクト)》が手に入ったのは好都合だったと言えるだろう。


 彼の企て、それは、正義を遂行すること。そのために「力」は必要だった。何を持って正義とするのかは、青葉王司と言う人間しだいであるのだが……。


「それにしても、《古具》、か」


 思わず洩れる笑みを隠そうともせず、自分の計画が前倒しできそうなことを喜ぶ。


「ふっ、正義を目標とするにしては、悪人のような笑顔か……。中々的確な表現だ」


 前に、「相棒」がそう評していたことを思い出し、そんな風に自嘲する。

 現在、青葉王司は、家で一人、自室の部屋の自分の机に向かって膝を組み、座っていた。青葉家に人は、滅多に居ない。王司の両親は多忙で、家には戻ってこない。王司の叔母は、居るとは聞いているが、その存在を確認したことが無い、と不思議な家である。

 何故、王司がこれほどまでに、正義に執着するか、と言うことについて、語ると割りと長くなりそうだ。





 それは、青葉王司が五歳の頃。王司は、両親に連れられ、どこか、異国を訪れた時の話である。両親が、仕事があると言って、王司を置いてホテルを後にした時、王司の目の前で惨劇が起きた。


――ドォン!


 その爆音は、王司の耳を劈き、王司は、慌てて構えた。そして、茶髪の女性が部屋に駆け込んできた。茶髪を乱雑に切りそろえた雰囲気は、女性と言うより少年。


「あっぶな~い!」


 そう言いながら転がり込んでくる女性は、何かから逃げているようだった。


「あ~、もう、これだから白城は嫌いなんだよぉ~!」


 そんな風に、日本語で喋っている女性を見て、王司は、彼女は何から逃げているのだろう、と思った。


「お、おぅ?子供?」


 王司を見つけ、女性は、目を丸くした。


「あっちゃ~、失敗だったわ。君大丈夫?」


 女性が王司に声をかける。


「うん」


 王司の答えに女性が安心したように微笑んだ。


「よかった。あたしは、霧羽(きりゅう)未来(みらい)だよ」


 その女性は、王司に優しく微笑み、そして、次の瞬間に、王司を引っ張り横に跳んだ。


「あっぶなっ!」


 未来は、王司を庇うように抱いた。


「四門、アンタは、あたしが殺す。【白王会(はくおうかい)】の……白城(しらき)王城(おうじょう)の名に懸けて、殺す」


 黒い髪を揺らしながら、血のついた刀を持って、ジリジリと未来に近づく。そして、刀を未来に突き刺した。


「君。君に、あたしの思いを託したいな……。この正義の思いを」


 そう言って、溢れる血のついた手を王司の頬に当てた。王司は、ただ、頷いた。


「げはっ」


 未来が吐血する。それを見て、王司の心の奥の奥、奥深くにある、何かが、燃え上がる。そして、王司の視界は、蒼色に包まれる。

 そこから、王司の記憶は飛ぶ。何も無い。ただ、「蒼い」ということしか覚えていなかった。周りには未来も王城も居なかった。ただ、瓦解したホテルの瓦礫の上に、一人立っていた。そして、そこで考える。正義について。


「正義の思い……」


 そして、その言葉に、呼応するように銀色の天光が射した。

 それが、王司が「正義」に執着する理由。そして、正義を行う、理由。





 王司は、思い更け、そして、聞く。


「なぁ、《古具》って、お前等に関係した力なのか?」


 相棒に声をかける。その相棒は、答えを出す。


「いえ、私たちの持つ『力』とは別のもののようですわね」


 相棒の答えに、王司は、「ふむ」と頭に手を当て考える素振りをする。


「完全に別物なのか?」


「ええ。私たちが、力を消費して使うのに対し、《古具》とやらは、力の源を必要としない、媒介者の体力を消費するものですわね。燃費の効率としては、格段に《古具》の方が優れていますわ」


 その言葉に、王司は、これからの方針を決める。


「《古具》の方が、効率が良いと来た。それに、アレは、本来、存在していないものなんだろ?」


 その言葉が示す通り、彼の相棒の「力」は、王司の相棒のような特殊な部類の存在しか持っていないものだ。《古具(アーティファクト)》よりも数段貴重だろう。


「しばらくは、《古具》だけを使って活動した方が、俺自身のためになるな。お前は、しばらく手を出すな」


「分かりましたわ。私の魂は、貴方のために」


 その言葉に、王司が微笑む。まるで、悪人のように。


「安っぽい、言葉だけの忠誠なんて要らないさ。だが、まあ、頼りにしてるぜ、相棒」


 王司は、そう言いながら、高らかに笑うのだった。


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