19話:アイアス
閃光が当たりに撒き散らされる。どうやら男が投げたのは閃光弾だったらしい。しかし、《神装の魔剣》のクリスタルのような刀身が閃光を屈折させ王司たちは、閃光の直撃を避ける事が出来た。
それでも、一時的に、目が使用不能となる。王司は、目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませた。自分の後ろで、あたふたと左右に無駄に動く気配が三つ。動きが少し小さいのがルラ。動きが一番大きいのが真希。どうすれば良いのか探るように慎重に動くのが秋世。
王司の横で王司と同じように気配を探る紫苑。二人の感覚が共有され、より明確に位置が把握できる。そして、前方の敵が、王司へ向かっていく。それが分かり、王司は《古神の大剣》を召喚すると同時に振り上げた。
「グァッ!」
敵の声がした。それと同じくらいに、徐々に目が慣れてくる。そして、目を開けた王司は、自分の手が、剣が赤く濡れているのに気づく。それほど多くないが、確かに濡れている。
「バッ……馬鹿な……。何をしたっ!貴様ぁ!!!」
王司に向かって怒鳴る青年。肩の辺りから出血しているのだろう。片手で肩を押さえている。
「ボクの、ボクの《防全の盾》に何をしたぁ!!」
青年の怒声。その声は、酷くうろたえていた。狼狽の様子に、王司は、何が起きたのか分からなかったが、紫苑に指示を出す。
「ここは俺がやる。お前たちは、他の奴が来ないとも限らない。対応のため警戒と捜索をしておけ」
そう言って、王司は、《古神の大剣》を構えた。
「くっ、来い。ボクの盾は、全ての攻撃を防ぐ、最強の盾だ!」
青年は、盾を構え、肩を押さえていた手を離し、銃を握った。
「軍から持ちだした甲斐があったってものさ!」
――パヒュン
既にあのような閃光があった時点で、近隣住民が寄ってこないとも限らないのに、さらに発砲でもあれば、人が集まってくるだろう。一応、音は消しているようだが、それでも多少なりとも変な音が鳴る。
「チッ、手早く片付ける!」
剣を後ろに振り、血を払うと同時に、駆け出す。そして、防御を一切しないまま、青年のほうへ突っ込んでいく。
「がら空きだ!」
――パヒュン、パヒュン
二発の銃声。そして、二初の弾丸が、まっすぐ王司へ向かう。王司は、一瞬で《古神の大剣》を消し、手を前に持っていき、再度《古神の大剣》を呼んだ。盾のように目の前に構える。
――カン、カン
見事に弾かれ、地面へぶつかる銃弾。そして、次の発射の前に、王司は、上段から袈裟切り切りかかる。青年は、《防全の盾》で、それを防ぐ。だが、異変は起こる。
――スッ
軽快な音を立て、《防全の盾》を素通りして青年の腹に斜めの切り傷が出来上がる。
「グッ……」
青年がよろめく。
「馬鹿な。このボクがっ……、この盾がやられるはずなどっ」
そう、《防全の盾》《アイアス》は全ての攻撃を防ぐ最強の盾。如何なる攻撃も、それが人のものであれば、届くことはない。剣も銃も魔法だとしても《古具》でも、《聖剱》でも、《魔剱》でも。
「その剣は、何だっ!一体、なんだというのだ!」
青年は、銃を乱射する。四方八方に。周辺には民家があるというのに全く気にした様子もなく。残った十発近い弾が、王司に向かって飛ぶ。それがあたるかどうかなど気にせず王司は全て叩き落した。
「馬鹿なっ。ボクは、ボクの盾は、最強の盾なんだぞ!」
「悪は負ける。絶対に。そして、――正義が勝つ!」
王司は、両手で《古神の大剣》を握り、足を踏みしめ、剣の側面、つまり平たい面で思いっきり殴り飛ばす。
「お前が、悪だと断定はしない。だから、まだ斬らない」
王司は、剣を払うと、そのまま消した。そして、のびて気を失っている青年の横に転がっている《防全の盾》を掴むと、王司は、ゆっくりその場を後にした。王司は、気づいていない。自分の瞳が薄く青みがかっていたことに。




