18話:覚醒まで
銀朱の光に包まれ、王司たち生徒会メンバーは、秋世の元へ呼ばれた。急な招集に驚いて、皆呆然としていた。
「皆、ごめんなさいね。緊急の用事で、貴方たちを呼ぶことになったのよ。単刀直入に言えば、この街が危機に脅かされそうになっているの」
秋世の発言にルラ、真希が、意味が分からない、と言った顔をしている。しかし、王司と紫苑は違った。
(これは、おそらく《聖盾》使い……【鉄壁神塞】のことを言っているんだろうな)
王司の思考にあわせるように、紫苑も思う。
(おそらくそうですね。青葉君の考えが概ね正解だとわたしも思います)
二人は、読み取りあい、思考を完全にあわせ、意見をしあうと、王司が秋世に向かって言った。
「それは、【鉄壁神塞】のことか?」
王司の言葉に、秋世の顔が驚愕に歪む。
「何故、それを?」
「昨日、俺に接触してきた。アテナとアテネを名乗る二人の《聖盾》使いがな」
王司の言葉を聞き、ルラ、真希、秋世が王司の顔を見た。紫苑は、思考を共有できる上に、事前に話を聞かされていたので、全く驚かなかった。
「先に王司君に接触があるなんて……。私はさっき、聖騎士王からの連絡で、こちらに《聖盾》使いがいる事が分かったのに……」
落ち込む秋世を尻目に、王司が知っている情報を提示する。
「俺が知っているのは、奴等が《アイアス》、《オハン》、《ブリウエン》、《アイギス》、《イージス》の《聖盾》を持っていることだけだ」
王司の情報に、秋世が訂正を入れる。
「えっと聖騎士王の話だと《聖母の盾》、《ブリウエン》は、聖騎士王が回収したようよ。だから残っている《聖盾》は、《魔除けの盾》《イージス》、《聖鏡の盾》《アイギス》、《防全の盾》《アイアス》、《危険知らせの盾》《オハン》の四つだけよ」
新たな情報に、王司の心の奥で、妙な感じが生まれた。
(聖騎士王……。回収したのか?いや、それはかまわない。しかし、何故、《聖母の盾》だけを……)
そんなことを考えるが、ふと、気づく。目前の戦いに高揚する己の気持ちに。
(戦いが、うれしいのか……?それだけじゃ、ない。何だ、この蒼い感じは……)
どこか、心の奥深くに芽生える「蒼い」感情。そして、紫苑は、その感覚をも共有していた。
(えっ……、何です、この感じは……。これは、この感覚を、わたしは、知っている……。この蒼色を……)
「うっ」
「くっ」
頭を押さえる二人。急激な頭痛が二人の脳を揺さぶる。そして、一瞬、別の世界が見えたような、違和感が、二人に襲い掛かる。
綺麗に並んだ正方形のタイルが敷き詰められた床。幾重にも線のような傷が走っている。少し欠けているその床を、慣れ親しむように歩く二人。まるで、長年連れ添った恋人のように。まるで、生まれてから今まで一緒に生きてきた姉弟のように。まるで、幾多の戦いを共に勝ち抜いてきた戦友のように。二人は、歩く。すると、光が見える。まるで出口のような。
光は、外への道だった。そして、一歩、外へ踏み出した瞬間、大きな歓声が響くのが聞こえた。子供の声、男の声、女の声、老若男女、入り乱れた声が轟いた。
そこで、二人の脳の揺さぶりが収まった。
「二人ともどうかしたの?大丈夫?」
秋世の心配する声に、二人は、「大丈夫」と声を揃えて言った。だが、そのときには、既に「二人の記憶」は、着々と王司と紫苑の中に蘇りつつあった。それを心の奥に感じながらも、王司と紫苑は、それを振り切るように前を見る。研ぎ澄まされた殺気。それを鋭敏に感じ取ったように。
「誰だっ」
「誰ですっ!」
王司と紫苑の声が、同時に出た。その鋭い声に、ルラと真希、秋世が驚く。
「おや、この距離で、ボクの接近に気づいたというのか……」
生徒会メンバーの誰の声でもない声に、全員がその方向を見た。茶色の盾を持つ、濃紺の髪と青い瞳の青年だった。大きく開かれた目は、その驚きをよく表していた。
「教えて欲しいね。軍でも選り抜きのボクの気配を察知した方法をっ!」
その瞬間、彼が何かを投げたのが分かった。紫苑は、咄嗟に、《神装の魔剣》を呼び、それに投げつけた。




