16話:聖騎士王
王司が、アテネ、アテナ姉妹と会った、その日の夜。その街に一人の女性が舞い戻った。いや、舞い戻ったと言う表現は些か御幣がある。しかし、そうとしか表現のしようが無いので、ここは舞い戻ったと言うことにする。その女性は、アーサー。《聖剱》、《C.E.X.》……《Collbrande. Excalibur.》を保有する聖騎士王だ。《聖王》や《聖騎士》とも表現されるアーサーである。もともと保有していた《聖剱》は《聖王の劔》と《選定の劔》である。後に、《選定の劔》は折れて、名前を変え《黄金の劔》となった。そして、それらの剣が一つになることで《Collbrande. Excalibur.》となったのだ。それらは、王司の父、清二が高校生だった頃の話である。
そして、その聖騎士王が、この街に舞い戻った理由は、《聖母の盾》の噂を聞きつけたからである。《聖母の盾》は、元々、アーサー王が持っていたものとされる。だから、アーサーは、それを貰いに来たのだ。
「お前が《聖母の盾》の持ち主か?」
黒いフードを被り、体をローブで隠すアーサーが、黒髪の優男に問うた。しかし、その優男は、にやりと笑うだけだった。
「へっ。そうだぜ。アンタは?」
「オレはアーサーだ。お前の持つ盾、それを返して貰いに来たぜ」
まるで男性のような口調で、アーサーは言い放った。そして、夜だというのに、眩く黄金色に輝く剣を抜いた。
――シャラララ
まるで、楽器を奏でたような美しい音色で鞘から抜き放たれた。
「《Collbrande. Excalibur.》。最高の《聖剱》だ」
「な、に……。まさか、十八年前の……。本物かっ?!」
青年の驚愕の声。青年は盾を構える。
「はっ、まあいい。本物だろうと偽者だろうと関係ねぇ」
青年が不気味な笑みを浮かべた。
「俺は、《聖母の盾》の使い手。汐谷希世だぜ」
汐谷と言う青年は、アーサーを見て、笑った。
そして、勝敗は、一撃で決した。
「なっ……」
その剣閃は、汐谷の目には、ただの黄金の煌きにしか映らなかった。気づけば、手に持てたはずの《聖母の盾》は、天高く跳ね上げられ、その首筋には、《C.E.X.》が突きつけられていた。掠めた首から一筋の血が垂れる。
「は、速い」
「戦闘経験の差ってやつだ」
アーサーは、汐谷の首筋から剣を離し、付いた血を払う。
「これが、あの、ダリオス・ヘンミーを倒した《チーム三鷹丘》のメンバーか」
チーム三鷹丘とは、旧生徒会メンバーを中心に清二やアーサー達で結成したチームである。
「うげっ、あのエリナの考えた名称が浸透していやがる」
顔を引きつらせるアーサー。チーム三鷹丘の名称は、非戦闘要員である月見里恵李那が決めたものだ。そのネーミングセンスの無さに、メンバーは、その名をよく思っていない。
「さあて、帰るか」
落下してきた《聖母の盾》を見事にキャッチしながら、アーサーは帰路についた。汐谷は、しばらく呆然として動けなかった。




