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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
古具編
12/103

12話:九龍彩陽

 生徒会室で、かつての生徒会について聞いてから、王司は、父親と連絡を取りたくなった。理由は、《古具(アーティファクト)》について聞くためである。スマホのアドレス帳を開き、少ない登録者を見る。上の方にある青葉清二の文字。しかし、連絡するのをやめた。


「あまり、頼るのはよくない、か」


 そのとき、急に着信が表示される。ポップアップで表示されたメッセージを見て、王司は、不快に眉根を寄せた。


「まだ、そんなことを言っていたのか……」


 ハートマークがつけられた文を、訝しげに、それでいて、鬱陶しそうに見て、返信をせずに閉じた。


「もう、大分前に、縁を切ったはずだったんだが……」





 その翌日、三年一組に、とある編入生が現れた。


「はじめまして。九龍(くりゅう)彩陽(あやひ)です」


 彩陽と名乗る女性は、おおよそ普通ではない、緑色の髪の毛をしていた。しかし、染めたのではない。生まれつきの緑色の髪だ。そして、発育の良い体つきは、まるでどこかの物語に出てきそうな雰囲気を纏っている。

 編入生にお馴染みの、質問が設けられ、彩陽にも当然のように、定番の質問がある。


「彼氏とかいるんですかー!」


 高木と言う新聞部部長が、興味津々、と言ったように聞いた。その質問に、彩陽はうふふと笑った。


「お姉ちゃんは、弟一筋なので、彼氏はいません!」


 きっぱりと断言した。


「お、弟……?もしかして、ブラコン?!これは記事になるぜぇ!その弟については、どう思ってますか!!」


 騒ぐ高木をにこにこと見ながら、お姉ちゃんこと、彩陽は、言う。


「はい、お姉ちゃんの弟である王司ちゃんは~、とっても格好よくて、一緒の学校にきてくれると思ったのに、来てくれなくて、それでも我慢したんだけど、とうとう我慢できなくなっちゃって、お姉ちゃんが編入してきちゃったんです!」


 彩陽の口から出た「王司ちゃん」と言う言葉に、紫苑の目が丸くなった。四角くなったり、三角になったりした場合、人間ではない。それと、丸くなったと言うのは比喩だ。


「王司ちゃんって、青葉君のことですか……?あれ、でも、苗字が……」


 紫苑の呟くような声にも、目聡く反応した彩陽は、にっこり笑って答える。


「はい、王司ちゃんとは血が繋がってませんよ?でもお姉ちゃんです!」


 この九龍彩陽と言う口を開けば「お姉ちゃん」と言う単語が出る女性は、所謂、「近所のお姉ちゃん」であった。あったと言う過去形の表現を使った理由は察せると思うが、「近所の」からランクアップし、勝手に、「本当のお姉ちゃん」になったからである。


「じ、自由すぎる……」


 紫苑の感想が表すように、九龍彩陽は、自由な人間だ。

 それから数十分に亘り、「王司ちゃんがいかに凄いか」「王司ちゃんがいかに格好良いか」を語った彩陽は、ようやく席についた。





 そして、休み時間。目にも留まる速さで教室を飛び出した彩陽。目にも留まらぬわけではない。むしろ、目にも留まらぬ速さで移動できたら、それは、ただの人間ではない。ゆえに、秋世はただの人間ではない。そうして、彩陽は、二年三組の教室を訪れた。


「王司ちゃ~ん!お姉ちゃん、遊びにきちゃいました~!!」


 突如現れた来訪者に、王司がブッと何かを噴出した。


「ゲホッ、ゴホッ。……あっ、彩姉(あやねぇ)っ」


 咳き込みつつ、王司が、突如現れた来訪者に、目を白黒させた。赤青させたり、緑青させたりした場合は、人ではない。


「あ、彩陽さん?!」


「うおっ、本当だ!彩陽さんだ!」


 旧知の仲である真希と祐司が、驚きに声を上げた。彩陽と王司、真希、祐司は小等学校が同じであり、王司は、彩陽と同じ中学へ、真希と祐司が別の中学へと進学した。余談だが、ルラは、中学三年生の時、王司の学校に編入している。そのため、ルラが王司とであった時には彩陽は卒業していて面識が無い。


「王司ちゃん!王司ちゃん王司ちゃん!!」


 久々の再会に、興奮した彩陽は、感極まって王司に抱きついた。そして、座っていた王司は、位置的に、彩陽の豊満な胸に顔を埋めることになり、息が出来ずもがく。


「んー!んーんん!」


 声が出せず「んー」とひたすら怒鳴る王司。彩陽は、抱きしめるのをやめない。


「おーうーじちゃぁああん!」


 酸欠でいよいよ倒れそうになる王司は、《古神の大剣エンシェント・ブレード》を呼び、それを彩陽に押し当て、王司と彩陽の間に隙間を作り酸素を補給する。


「殺す気かっ!」


 即時に《古神の大剣》をしまい、彩陽を怒鳴りつけた。


「王司ちゃんが死ぬならお姉ちゃんも死ぬ!」


「意味が分からんわっ!」


 彩陽の自由な言動に王司がつっこみを入れる。その光景に、真希と祐司が懐かしいものを見るような目をする。


「あ、青葉君、大丈夫でした?」


 心配した様子の紫苑が恐る恐る扉から、二年三組の教室内を覗いた。その瞬間、彩陽が、王司に押しのけられて、扉の方へ吹っ飛んだ。


「へぶ」


「きゃっ」


 二人の激突と同時に授業開始のチャイムが鳴ったのだった。

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