103話:エピローグ
長い塔での戦いが終わったら、学園へ直行だった。塔を出てヘトヘトで、歩いているうちに、日が昇ってしまったのだ。当然のことながら、チーム三鷹丘組は、「学校なんてサボれ」と言ったが、一応生徒会であるため、サボるわけにはいかないと言う秋世の主張によってボロボロの身体を引き摺りながら登校する羽目になったのだった。
「あぁ~、ダリィ~」
王司の声に、少し申し訳なさそうな顔をするルラと真希。それもそのはず。二人は、王城にろくなダメージも与えられず気絶してしまったのだから。
「なあ、王司、昨日何かあったのか?」
祐司が王司にそう語りかけた。チーム三鷹丘の話によると《古具》使いや第六龍人種などは、止まっていなかったと言う情報は王司たちに与えられていたので、烏ヶ崎八千代から祐司へ情報が渡ったのだと判断した。
「ああ、いろいろ、な」
王司のどこか疲れたような言葉に、祐司は、そのいろいろの意味を追求することはなかった。
「それにしても、終わった、な……」
ポツリと独り言のように呟いた王司。終わった、それが意味するのは、白城王城との……【白王会】との戦いが終わったと言うことだ。王司は、前に思っていた事がある。【正義】と言うものに身を置くと言うことは、一生区切りなどつかないのだろう。だから、きっと誰かと結ばれることなどない。もし、あったとしても【白王会】との決着をつけた後だ、と。そして、【白王会】との決着がついた。
「はぁ……」
王司は思わず溜息をつく。幾ら考えても、答えは出ない。自分の好きな人物と言うのが王司には想像できないのだ。理屈で分かっても、本質が分からない。そうして悩んでいるうちに、王司の意識は、塔での戦いの疲労からか、すぐさままどろみに呑み込まれる。
王司は、夢を見た。今まで会った、様々な人物が頭の中を過ぎっていく。そして、その中で、一人だけ、いつも以上に、印象に残る女性がいた。
そう、それは、安全な恋。相手の心が分かるが故に、相手が自分のことを好いているのかが分かる安全な恋。そして、だからこそ、難しい恋。
王司は、決意する。――彼女に告白することを。
王司は、放課後、目的の彼女とともに生徒会室にいた。仕事と言う名目で呼び出した。それも心すら偽って。これからしようとしていることをひた隠すために。
「なぁ、紫苑」
そして、彼女……七峰紫苑へと声をかけた。紫苑は、可愛らしく首を傾げ、「なんですか?」と王司の方を見る。
「青葉君、どうかしましたか?仕事は……」
紫苑の言葉は途中で止まってしまう。なぜならば、王司に抱きしめられたからだ。ギュッと後ろから強く抱かれた紫苑は、思考が停止した。
「え……」
上手く言葉が出ずに、呆然とする紫苑の耳元で、王司は、そっと囁くように、今日、決意した言葉を告げる。
「好きだ……」
その言葉に、ますます思考が止まる紫苑。とうとう、夢じゃないかとすら思いだした。しかし、紛れもない事実であり、現実である。
「あ、おば、くん……」
擦れた、上ずった声で、紫苑は、王司を呼んだ。王司は、紫苑の耳元で言葉を返す。それがくすぐったく恥ずかしくて、紫苑は、顔を真っ赤にしていた。
「何だ?」
王司の言葉に、紫苑は、問う。
「その……、わたしで、いいんですか?」
王司は、紫苑の言葉に笑って返す。
「本心かどうかは、俺の心を読めば分かるだろ?」
その言葉に、紫苑は、首を横に振った。
「……知りたくないんです。……嘘かも知れないから。知ってしまったら、そこで、この儚い夢が砕けてしまうんじゃないかって」
そんな風に言う紫苑に対して、王司は、紫苑の顔を自分の方へ向けさせて、無理矢理、キスをする。熱い吐息が、王司の口から紫苑の口へと渡る。
「んんっ……?!」
紫苑が突然のキスに吃驚する。だが、王司は、紫苑を抱いたまま、笑って言う。
「これが俺の気持ちだよ、紫苑。お前が、好きだ」
「……わたしも、……わたしも、好きです!」
紫苑は、少し間をとりながらも、王司へ答えを返す。
そう、そして、二人は、陽だまりの様な暖かい日々へと――。
かつて、離れ離れに別たれてしまった、彼の運命の姉弟は、こうして、再び巡り会う。そして、結ばれた。
この後のことを少しだけ話すとしよう。王司と紫苑の交際は、瞬く間に学園中の噂となり、祐司が記事に取り上げた所為で、周知の事実になってしまったり、神醒存在がらみの事件が起こって、生徒会は、対処に尽力を尽くしたり、と様々な事が起こった。ただ、王司が言えることは、一つ。【正義】と【断罪】が齎した【勝利】とそして【幸福】の日々を送ったと言うことだけだろう。
――《勝利》の古具使い――完
これにて、《勝利》の古具使いを完結させさせていただきます。今までご愛読ありがとうございました。この物語は、私の作品の中で二番目に話数が多く、文字数で言えば、最も多い作品となりました。それもこれも、皆さんの応援あってのことでした。本当にありがとうございました。