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《勝利》の古具使い  作者: 桃姫
白城編
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102話:王城VS王司

 倒れた王司をチラリと見て、王城は、満足そうにして、鼻歌を歌う気分で、刀を鞘に収めた。血が溢れ出す王司は、もう死んでいるも同然だった。王城が見た限り、指一本動かせないだろう。息も先ほどまで荒かったが、もう、それすらもなくなってきている。


「ふぅ、わざわざ、塔を呼び出して、おびき寄せるまでもなかった、と言うことかしらね」


 などと王城は、言いながら、塔を出ようとする。しかし、その足は、止まった。いや、止めざるを得なかった。







――あんた、仮にも私の子孫なんだから、もっと気合入れなさいよ


 その声に、王司は、意識を取り戻す。ドクン、ドクン、と鼓動が早まる。血を大量に流した後だというのに、なぜか不思議と身体の奥は暖かかった。


――まったく、【武神】の子孫としての自覚を持ちなさいよね


 偉そうな声に、王司は、なぜか郷愁感に囚われる。どこか懐かしい声に、王司は、立ち上がろうと指を動かそうとする。しかし、動かない。身体の何処もピクリとも動かない。


――あ~、ったく、あんたには、私の血が流れてるんだからアレが使えるわよ


 その言葉に、王司はドキリとする。どこか、いつか、何か、知っている。そんな覚え。アレとは何か、そう考えた王司の脳裏に閃く言葉があった。







 《翠華》は、自然と心を通わせ、あらゆる動植物どころか万物、自然をも操ることができる能力を持っていた。特に、風や植物の成長促進などの力を得意としていたと言われている。後の《植野(うえの)》や《水花(みずは)》の家。


 《葵雛》は、何よりも早い速度を持っており、その速さは、音や光をも超えたと言われているほどである。特に、高速移動や物体加速の力を得意としていたと言われている。後の《葵雛》。


 《蒼刃》は、強力を持つ家で、世界を片手で破壊することすら可能だったと言われている。その他にも【蒼刻】と呼ばれる固有の力を持っていて、それも強力に一役買っているとも言える。特に、得意な魔法系統はないが、剣帝の一族であるため、剣が得意である。後の《青葉》の家。


 《朱天》は、最も凄い回復力とそれを人に分け与える力を持っていた。現に、アカハは、その一族の子孫だが、同様の力を持っている。また、一族全員が赤系統の髪色をしているのも特徴である。特に、回復系統の魔法を得意としていて、その中でも上級者は、物すら直せるという。後の《朱野宮》や《佐野》、《姫野》の家。


 《白王》は、独占欲の強い一族で、最も多くの部下を引きつれ、最も多くの世界を統治していたという。得意な魔法はないが冷酷で残忍だと言われている。後の《白城》。


 《紫雨》は、最も鋭い攻撃性を持っていたといわれている。その鋭さは、指で岩をも貫くと言われている。特に、得意な魔法はないが、前述の通り鋭さにだけは定評がある。後の《紫雨》や《村雨》。


 最後に《死宮》。最も強く優しい一族と称される。《葵雛》並みの速度、《蒼刃》並みの力、《紫雨》並みの鋭さ、《朱天》並みの回復力(あくまで回復力だけで他人への譲渡は出来ない)を持ち、さらに、《死宮》固有の、ある能力を持っている。まさしく最強。まさしく、全てを滅ぼせる。悪魔のごとき力。《その力、死の宮へと導くもの也》。だから、《死宮》。そして、その固有の力とは――【絆】。【死】と【絆】。ある意味反対のものである。【死】とは即ち、【絆】を永遠に絶ち切ることでもあるのだから。それゆえに、真逆であり、密接に関わっているとも言える。だからこそ、《死宮》は、【絆】を……あらゆる、自分の繋がった人物の力を使うことができる。そして、《死宮》は、後の《篠宮》、《西野》、《東雲》である。







 王司の心音が激しくなる。それと同時に、王司は、自分の胸に空いた刀の傷が、どんどん塞がっていくのが分かった。それは、高速治癒能力。王司には備わっていない力であり、そして、【絆】の力である。


 青葉王司の先祖、蒼刃蒼天は、神である。そして、王司に【蒼刻】が伝わっていることから、繋がっているのは確実だろう。しかし、王司が今使っている力は、【絆】の力である。だが、何もおかしな話ではない。蒼天の子を設けたのは「篠宮初妃(はつひ)」だ。初妃の母親は、「篠宮無双(むそう)」。だからこそ、サルディアは、【空白】で蒼司(そうじ)に「二神性存在(ハイブリッド)」か、と聞いたのだ。それは即ち、蒼天と無双の二人の神の血が流れているのか、と言う確認でもあったのだ。そして、事実、王司は、二人の血を引いていた。








 胸の傷が癒えていく王司の様子が目に入り、王城は、思わず足を止めた。そして、慌てて、刀を鞘から抜き出す。








 そう、これは、王城(おうか)王司(そうてん)ではない……。王城(おうか)王司(むそう)なのだ。かつての……、【白城事件】の再現とも言える二人の子孫の邂逅。これは、あの事件の決着をつけるための戦いなのかも知れない。








「馬鹿なっ……」


 王城の驚きの声。そして、王司は、立ち上がる。弱々しくあるが、まずは、身体を起こそうと腕を立てる。そして、膝をつく。数十秒かけて、よろよろと立ち上がったのだ。


「……行くぜっ。《勝利の大剣(フラガラッハ)》!」


 よろよろとしながらも、王司は、《勝利の大剣(フラガラッハ)》を呼んだ。本来、上位の【力場】でこの空間は固定されているので、《古具》は使えない、はずだった。だが、王司は違う。王司は、自分の中にある《古具》を呼んだのではなく、【絆】によって、《勝利の大剣(フラガラッハ)》を呼び出したのだ。


終極神装(ラグナロク)!」


 そして、王司は、終極神装(ラグナロク)を発動する。その瞬間、王司の姿は、かの銀の鎧を纏った状態へ至る。そして、手元に剣が現れる。


「【断罪の銀剣(サンダルフォン)】!」


 王司は、《勝利の大剣(フラガラッハ)》と【断罪の銀剣(サンダルフォン)】の二刀流剣術の構えを取る。元来、その二つの剣は、どちらも両手で握るための構造をしている。それを片手で持つのは中々に難しい。しかし、王司は持つ。


「チッ……。藍那流《禁黙犀(きんもくせい)》!」


 王城は、片足を一歩分下げて、さらにそちら側に、刀を持って、大きく後ろでと構える。そして、下げた足を一歩前に出しながら、刀を突き出す。その瞬間、手の握りを甘くし滑らせるように伸ばす距離を延ばす。そして、柄のギリギリのところで握る。


「セイッ」


 何処までも伸びてくるように感じる刀を、王司は、《勝利の大剣(フラガラッハ)》で払いのける。


「ならっ、藍那流《紫緋花(あじさい)》!」


 弾かれた刀を一瞬離して、逆の手で逆手に握る。それをそのまま、右に振りぬいた。弾いた刀がそのまま襲ってきて王司は、一瞬反応し遅れるが、咄嗟に【断罪の銀剣(サンダルフォン)】で打ち返す。


 キィンと甲高い音が響く中、王司は、《勝利の大剣(フラガラッハ)》を王城へ向かって投げつける。まっすぐ吸い込まれるように王城を襲う《勝利の大剣(フラガラッハ)》だが、王城は、難なく跳躍して、逆に踏み落とした。


 だが、王司は、もう次の攻撃を準備していた。王司の空いた右手には一丁の長銃が握られていた。二匹の羽の生えた龍が巻きついた長銃。


「《翼龍の焔砲(カドゥケウス)》!」


 その声とともに、引きがねを引いた。すぐに、大きな力の塊が球体状に集約する。そして、――ギュルゥンと音を立て、撃ち放たれた。


「チッ。藍那流《蓮華斬(れんげざん)》!」


 力の塊とも言える弾を王城は、屈みながら刀を上に立てて真上の敵を切る技で頭上を通り過ぎたところを断ち切った。本来、この技の用途は、下の階から上の階の敵を切り倒すためにできたものだ。


「クッソ、《必貫の大鑓(ブリューナク)》!!」


 王司は、手元に黒い槍を呼び出した。そして、それを屈んでいる王城へ向かって投擲する。螺旋の回転をしながら王城へと突っ込む槍を、王城は、屈んだ状態から大きく飛び上がって避けた。屈んでいたので、それをバネにしたのだ。


「藍那流《千本桜(せんぼんざくら)》っ!」


 王城の刀の切っ先が【力場】を通して大きな斬撃を乱れ飛ばす。それは、《斬刺花(さざんか)》よりも細かい、避けきれないほどの斬撃。


「――()てつく氷の牢獄よ。――常闇(とこやみ)へと誘う氷塊。――原初の果てへ、永久の墓標とす!【氷の墓標(ぼひょう)】!」


 王司は、【氷の女王】が愛用した魔法を放って細かい斬撃の雨を凌ぎきる。ちなみに詠唱を省略したがために、威力はかなり控えめとなっている。


「チッ……」


 王城の息切れした様子。肩を上下に激しく動かす様は、かなり体力が奪われている事が分かる。一方王司も同じだった。無茶な【絆】の多用と、二刀流の応用で、体力がみるみる奪われていく。お互いが感覚的に理解していく。


――次の一撃が最後だ


 そう感じ取る。だから、王城は、妖刀「藍那」を構える。王司も、先ほど投げた《勝利の大剣(フラガラッハ)》を【絆】の力で再び手元に召喚する。そして、二本で構えを取る。その様子は、蒼衣と蒼子との剣帝大会での決勝を髣髴とさせる様子。無双と蒼天との剣帝大会との決勝をも髣髴とさせる。そして、【白城事件】での最後、王花(おうか)無双(むそう)の戦いをも髣髴とさせた。


 王城が刀を腰元で構える。抜刀の構え。だが、刀は鞘に収められていない。むき出しの刀を抜刀の構えで構えている。


「藍那流・奥義《散椛(ちりもみじ)》」


 そして、神速で刀を振るう。【力場】に触れた斬撃が、肥大化する。空気に波紋が生まれる。空気を、空間を、時間を、切り裂きながら王司へと進む、奥義。


 一方、王司は、己の中の全てを解放する。【蒼き力場】も【断罪の銀剣】が齎す力も、【絆】も全てを。その瞬間、王司の髪の色は、茶髪に。瞳は蒼色。そして、終極神装(ラグナロク)の鎧を纏った、そんな姿へと変貌する。


「無双流・天儀(てんぎ)双劉牙(そうりゅうが)》」


 音速で振るう二本の剣は【力場】に干渉し、二筋の閃光となって王城へと駆ける。そして、二つの斬撃がぶつかり合う。その瞬間、王城は、刀をもう一度振るう。


 そう、最後の一撃は、《散椛(ちりもみじ)》ではない。ここからが、最後の一撃。《散椛(ちりもみじ)》は、その前段階に過ぎなかった。


「《椛咲乱(もみじさきみだれ)》!」


 その技は、かつて、無双の最後を飾った王花が使った技。無双と戦った際に、最後に放った技だ。


 それに対して、王司も最後の技を放つ。本当の最後の一撃だ。二つの斬撃は、囮に過ぎなかった。今から放つのが、本当の一撃。


「無双流・秘奥義《絆》!!!」


 王司の放った真なる一撃。その技は、かつて、無双が放ったもの。この技は、二本の剣から放たれる斬撃を一つに束ね、撃ち放つ技だ。


――ズドォオオオン!


 そして、衝突の爆音。撒き上がる砂煙。その中を、刀を突き出して王司目掛けて走る王城。藍那流《禁黙犀(きんもくせい)》だ。


「読んでたぜ、その技」


 王司はにやりと笑った。そう、王司は知っていた。無双を、そして先ほど王司自身を貫いた殺し方。一致する胸を貫く殺し方だ。だから、完全に読んでいたのだ。


「お前は【悪】だ。だから、――【断罪】する。――【正義】は勝つ!」


 そう、だから、王司は、――。


「だから俺は、【勝利】する!!」


 そう言って、《勝利の大剣(フラガラッハ)》を胸の前で構える。「藍那」が《勝利の大剣(フラガラッハ)》に衝突して砕け散る。


「これで、終わりだ」


 王司は、無双の、清二の、口癖とも決め台詞とも言える言葉とともに、王司は、王城を【断罪の銀剣(サンダルフォン)】で叩き飛ばした。


 ゴロゴロと転がる王城は、意識を失った。王司は、全ての力を使いきった達成感から床に転がる。


 これで、この塔での戦いは、全てが終わったのだった。

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